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菅官房長官「マスコミ洗脳」発言 時事通信が差替え、地元紙も訂正

楊井人文弁護士
菅義偉官房長官(写真:ロイター/アフロ)
陸奥新報2015年8月25日付朝刊5面
陸奥新報2015年8月25日付朝刊5面

【GoHooレポート8月26日】時事通信は8月22日、「野党・マスコミが洗脳=菅長官」との見出しで、菅義偉官房長官が同日、青森県弘前市で講演した際、国会で審議中の安保法案に関連して「戦争法案だとか徴兵制復活だとか、全くありもしないことだ。(反対派は)一部野党やマスコミから洗脳されている。日本の自衛のためであり、他国のために一緒に戦争するものではない」と発言したと報じた。しかし、同日中にニュースサイト上の記事が差し替えられ、菅長官の発言が「一部野党やマスコミから宣伝されている」に書き換えられた。地元紙の陸奥新報も当初「洗脳」と引用して報じていたが、講演の録音を確認したうえで「宣伝」と訂正したことが、日本報道検証機構の調査でわかった。一方、時事通信社は当機構の質問に対し、回答を拒否した(詳細はGoHooサイトの記事も参照)。

時事通信が当初配信した記事を引用した有田参議院議員のツイッター投稿
時事通信が当初配信した記事を引用した有田参議院議員のツイッター投稿

時事通信が当初「洗脳」と発言を報じた記事は、掲載直後から有田芳生参院議員がツイッターで引用して問題視するなど、波紋を呼んでいた。ニュースサイトの同一URL上で記事が全面的に差替えられたが、引用部分を訂正した旨の表記はなかった。

当機構の調査では、共同通信が初稿段階から「一部野党やマスコミから宣伝されている」と引用していたほか、NHK、読売新聞、信濃毎日新聞も同様に報道。「一部野党やマスコミから洗脳されている」と引用した記事は、時事通信の差替え前の記事と陸奥新報の8月23日付朝刊(ニュースサイトにも掲載あり)だけだった。陸奥新報は時事通信から配信を受けているが、当機構の問い合わせに対し、同社報道部の担当者は「菅長官の講演は現地で取材したが、時事通信の当初記事を参考にして記事化した。当機構の指摘を受けて講演の録音を確認したところ『宣伝』が正しかったので訂正することにした」と説明。25日付朝刊に訂正記事を掲載し、ニュースサイトの記事も上書き修正された。自社記者の署名入り記事だったため、時事通信の誤りには言及していなかった。

IWJによると、22日夜に時事通信社に取材した際、「録音状態が悪く聞き取りづらく『洗脳』だと思い最初の記事を書きました。しかし、何度か聞き直すと『宣伝』と言っていることが分かり、記事を訂正しました」との説明を受けたという。当機構の調査では録音自体は入手できなかったが、講演を取材した他の記者の証言や陸奥新報が録音を確認したとの説明などを総合すると、実際の発言は「宣伝」であった可能性が高い。

当機構は時事通信社に対し、加盟社に訂正文を配信したかどうか、一般読者に訂正を告知する予定はないのか、などを質問したが、正式な回答はなく、対応した法務部担当者が「回答しない。回答しない理由も答えない」と答えた。

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー)。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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