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「乳搾り体験で牛がストレス死」 訂正を約5日間遅らせる 毎日新聞

楊井人文弁護士
牛の乳搾り(写真は記事本文の牧場と関係がありません)(写真:ロイター/アフロ)

毎日新聞は10月20日付夕刊で「乳搾り モ〜いや? 群馬の観光牧場『ストレス配慮し中止』」と題し、群馬県の観光牧場が牛の乳搾り体験を終了すると発表したことを報じた。その中で、乳牛2頭が乳房炎などの病気で相次いで死んだと報じたのは誤りで、1頭は骨折による安楽死で、もう1頭は他牧場へ売却されていたとして、26日付夕刊で訂正した。また、ニュースサイトの記事は当初、見出しが「モーやめ…ストレス死相次ぎ」と記されていたが、25日までに「ストレス配慮し」と修正され、本文も一部書き換えられた。サイト上に訂正したことは明記されなかった。

毎日新聞ニュースサイト記事の見出し(上が修正前、下が修正後)
毎日新聞ニュースサイト記事の見出し(上が修正前、下が修正後)
毎日新聞2016年10月26日付夕刊(東京版)
毎日新聞2016年10月26日付夕刊(東京版)

日本報道検証機構の調査では、牧場側は20日、取材を受けた際に誤って伝えていたとして訂正を申し出ており、翌日朝刊の群馬県版には正確な記事が掲載されていたことがわかった。しかし、ニュースサイトや東京版の記事は、誤りが判明した後も、約5日間訂正が行われていなかった。その間、牛をストレスで死なせたとして牧場を非難する声がネット上で高まり、従業員とみられる人物が急きょ開設した匿名のツイッター=現在は削除=で反論するなど、波紋が広がっていた。

牧場の従業員とみられる人物によるツイッター投稿(現在は削除)
牧場の従業員とみられる人物によるツイッター投稿(現在は削除)

取り上げられたのは、群馬県渋川市の観光牧場「伊香保グリーン牧場」。19日、ホームページで牛の乳搾り体験を11月23日で終了すると発表していた。その中で、「人間の手で長時間搾乳することで牛に与えるストレスは大きく、乳房炎が多発し牛も苦痛を感じているのではないか」と懸念に言及。「牛の苦痛を考慮すると取りやめにしたほうがよいのではないかという決断に至りました」と終了の理由を説明していた。

当初、毎日新聞のニュースサイト記事には「2頭が数カ月の間に乳房炎などの病気で相次いで死に、現在は2頭で行っている」と記されていたが、訂正後は「1頭が骨折事故、もう1頭は他の牧場に売却され、現在は2頭で行っている」に改められた。牧場の広報担当者によると、取材の際に間違った情報を伝えてしまい、20日のうちに訂正を申し出たという。

また、「体験者には消毒をしてもらっている。ストレスなどが要因ではないか。このまま続けて1頭当たりの負担が大きくなれば病気になる恐れがある」という牧場担当者のコメントも、「酪農をしていたころから、乳搾り体験に使った牛の方が乳房炎にかかりやすい傾向がみられた。2頭だけで続けるのは1頭当たりのストレスも大きく、難しい」というコメントに修正されていた。

こうした修正は、いずれも21日付群馬県版の記事には反映されていたが、ニュースサイトの記事は24日の時点では修正が反映されていなかった。その後、ウェブメディア「J−CAST」が毎日新聞社に質問するなど波紋が拡大。25日になってようやくサイトの記事が修正され、東京版の紙面上の訂正は26日付夕刊になった。

毎日新聞は先月にも、誤りが判明した後に迅速な訂正が行われなかった問題で批判を浴びたばかりだった(参照=ダム表層水のセシウム「1.63Bq/L」→「検出下限値未満」に訂正 毎日新聞)。

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー)。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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