Yahoo!ニュース

【提言】Yahoo!ニュースは訂正情報をわかりやすく可視化せよ

楊井人文弁護士
誤報により削除されたYahoo!ニュースのトピックス画面

ここ最近、新聞メディアの誤報が相次いでいる。いずれもYahoo!ニュースにも配信され、それなりに大きな反響があった記事だ。

朝日新聞は10月22日、厚生労働省が年金試算で不適切な計算方式を使い、所得代替率が高く算出されるようになっていたと朝刊1面トップで報じた。しかし、厚労省が事実誤認があるとして厳重抗議。26日、同紙は見出しを含め、記事の骨格に誤りがあったことを認め、大幅に訂正した。

毎日新聞は10月20日、群馬県の観光牧場が、乳頭炎などストレスとみられる要因で牛2頭が相次いで死んだことを受け、乳搾り体験を終了すると報じた。しかし、牛2頭が死んだという牧場側の説明に誤りがあったことがわかり、26日付で訂正した

訂正時は上書き処理だけ行われている

朝日の記事は、Yahoo!トピックスにも当初「国 年金試算で不適切な計算式」との見出しで配信され、記事ページの見出しは「不適切な計算式を使用 塩崎厚労相が認める」だった。トピックスはすでに削除されている。たが、記事全文ページは残っており、見出しが「年金 支給割合高くなる計算法 欧米と異なる方式」に差し替えられ、本文も大幅な修正のうえ、文末には訂正記事も追記されている。だが、配信日時は当初のままで、差し替えた日時は記載されていない。朝日新聞が訂正し、記事を差し替えたこと自体、Yahoo!ニュースからSNSなどを通じて告知した形跡もない。当初記事のツイート投稿もいつのまにか削除され、Facebookでも当初発信したと思われるが、現在は確認できなかった。元の記事と趣旨がかなり違っているのだが、古い記事ページを読み返す人はほとんどいないだろうから、既読ユーザーは別のソースを通じて訂正が出たことを知らない限り、気付かないとみられる。

毎日新聞の記事を配信したYahoo!ニュースの公式ツイート
毎日新聞の記事を配信したYahoo!ニュースの公式ツイート

毎日の記事も、Yahoo!トピックスに「<乳搾り体験>モーやめ…ストレス死相次ぐ 群馬の観光牧場」との見出しで掲載(記事全文ページの見出しも同じ)。ところが、現在はトピックスが削除され、記事全文ページの見出しが「<乳搾り体験>モーやめ…ストレス配慮し 群馬の観光牧場」に修正され、本文も修正されている。こちらは、訂正があったことは追記されていないし、Yahoo!ニュースもその旨の発信はしていないツイートFacebook投稿も当初の「ストレス死相次ぐ」のまま残っている。

ニュース・アグリゲーターは責任を果たしているか

Yahoo!ニュースには日々、多くの媒体から提供された膨大な量の記事が掲載されている。その中には当然、誤りのある記事も含まれる。問題は、誤りが判明したときにどうするか、である。

誤報はいわば欠陥商品であるから、誤報を出したメディアがすみやかに訂正しなければならないことはいうまでもない。一方、ニュース・アグリゲーターは、メディアから配信されたコンテンツを、その誤謬の有無を事前にチェックすることなく即座に利用することで収益を上げるビジネスモデルである。いちいち誤りの有無を事前にチェックしていたら成り立たないだろう。よほど一見明白に誤報とわかるケースを除き、ニュース・アグリゲーターは誤った記事を提供したことの責任を負わない。

しかし、今日、Yahoo!ニュースをはじめとするニュース・アグリゲーターは、記事を人々に届け、拡散させるのに大きな役割を担っている。その影響力はマスメディアに比肩するほどになりつつあるように思う。誤った記事を事前に防止できないにしても、事後的に不正確な情報であったことが判明した後は、別である。そのときは、配信元メディアが負うべき責任とは別に、ニュース・アグリゲーターが独自に是正し、そのことを周知する責任は生じると考える。ユーザーも、より正確な情報が判明すればそれを確認したいと思っているはずであるし、記事で誤った情報を書かれた当事者はより正確な情報を知ってもらいたいと思うはずである。

先に挙げた例に限らず、Yahoo!ニュースが配信した後、訂正が入ったり、加筆修正したり、削除したりするケースは少なくないと思われる。現状では、配信元のメディアによる修正内容は基本的に反映されており、一応外形的には是正したことになっている。しかし、ユーザーからみて記事のどこがどう修正、訂正されたのかは、ほとんど分からない。ほとんど上書きで対応していると思われるが、その履歴は記事に残っていないし、修正したことをYahoo!ニュースとして積極的に告知したのを見たことがない。こうした対応で、多大な影響力をもっているニュース・アグリゲーターとしてそれに見合った責任を果たしているとは言えるであろうか。

リビジョン・ヒストリーを可視化せよ

日本報道検証機構がこれまで調査・検証してきた事例をみればわかるとおり、新聞等の大手メディアは依然として、訂正情報の可視化に非常に消極的であり、自社のニュースサイトではこっそり上書きしたり削除したりするケースが少なくない(主要紙ニュースサイトで訂正記事を無料で公開しているのは朝日新聞と日本経済新聞のみである)。一度発表した記事を何の説明もなく大きく書き換えるのはジャーナリズム倫理に反するし、読者に対して不誠実で、外形的には改竄とみられても仕方ない。Yahoo!ニュースも、そうしたマスメディアの姿勢と同じでよいのか。

海外のニュースサイトでは、いったん公開した記事に訂正等があった場合はきちんと履歴を残し、見出しなどでわかりやすく周知することが一般的となっている(たとえばロイター通信日本版サイトの訂正情報UPDATE(更新)情報を参照)。個人ブログでも訂正があれば明記するのが、ネチケットとされているように思う。Googleがニュースサービスページにファクトチェック機能を導入するなど、ネット上のデマや不正確な情報をいかに是正するかという課題が認識され、具体的な取り組みも始まっている。

最近は、Yahoo!ニュース編集部も独自にコンテンツを作成するようになっており、編集機能が充実しつつあるようにみえる。そろそろ、Yahoo!ニュース独自に訂正・更新情報(リビジョン・ヒストリー)を可視化する取り組みを始めてはどうだろうか。Yahoo!ニュースのような大手ニュース・アグリゲーターが率先してそうした取り組みをすれば、ネット情報の質や人々のメディアリテラシー向上に寄与し、既存メディアにも良い影響を与えると思うのだが。

そこで、Yahoo!ニュースに取り組んでほしい施策をいくつか具体的に提案してみたい。この通りにすべきだというわけではないが、ぜひ参考にしていただき、早期に新しい施策が実現されることを期待している。(提案内容に追記ありツイッターでのアンケート結果

<Yahoo!ニュース編集部への提案>

(1) 配信元メディアによる自主的な訂正等がなされた場合

  • 内容に誤りがあった場合は、訂正内容を反映させたうえで、訂正事項および日時を文頭または文末に記載する。重大な訂正は、見出しに〈訂正あり〉と追記するか、文頭に訂正事項を表示し、SNS等で告知する。
  • 見出しの実質的変更や記事の主旨に影響する訂正、主旨に影響しなくても重要な事項に関する訂正については、Yahoo!ニュース編集部が独立した訂正記事コンテンツ(以下「コレクション記事」)を作成し、配信(SNS等で告知)する。原則としてメディアが開示した訂正情報を転載し、元の記事と相互リンクさせる。(コレクション記事を配信することで、訂正情報がネット上に広がり、是正の効果が大きくなる。参考:GoHooのコレクション記事
  • 内容に誤りがあり記事を削除する場合は、前項に準じて、Yahoo!ニュース編集部が独立したコレクション記事を作成し、元の記事の概要と削除した理由(誤りの内容など)を記載して配信し、SNS等で告知する。また、元の記事にも、内容に誤りがあり削除した旨を記載し、コレクション記事と相互リンクさせる。
  • 内容に誤りがなくても、加除・修正が行われた場合は、加除・修正事項を文頭または文末に記載する。重大な加除・修正は、見出しに〈加筆あり〉などと追記するか、文頭にその事項を表示し、SNS等で告知する。

(2) 配信元メディアによる自主的な訂正等がなくても、誤りを指摘する外部情報が確認された場合

  • 内容に誤りがあるとの指摘内容が一見して明白に不合理でない場合は、誤りがあると指摘されている記事ページの【関連記事】欄やトピックスの【詳しく知る】欄、または新たに【この記事への指摘】欄を設け、そのように指摘している外部情報のリンクを表示する。

(3) その他

  • 上記ルールは「てにをは」の誤りなど、実質的意味に影響しない字句の修正については、適用しない。
  • Yahoo!アカウントを有しているユーザーには、閲覧履歴のある記事について上記訂正等の情報が追記されたり、コレクション記事が配信されたときは、自動的にYahoo!ニュースのサイトにアラーム表示またはメールを配信するサービスを提供する。
  • 《追記》あらかじめ決まった掲載期間の経過によりトピックスまたは記事全文ページを削除した場合は、上記(1)のケースによる削除と区別するため、当該ページに「掲載期間の経過により削除しました」旨明記して一定期間は保存する。上記(1)のケースで記事を削除するときも、当該ページ自体を消去するのではなく「内容に誤りが判明しましたので削除しました」旨明記し、誤りの内容を説明したコレクション記事に誘導する。

具体例へのあてはめ

<朝日新聞「国 年金試算で不適切な計算式」のケース>

  • Yahoo!ニュース編集部が誤りを指摘する外部情報を確認した時点で、メディアによる自主的な訂正が行われる前であっても、トピックスおよび記事全文ページに当該外部情報のリンクを表示する。
  • 見出しに〈訂正あり〉と追記する。(なお、朝日新聞デジタルは、見出しに「=訂正・おわびあり」と追記している)
  • 文頭に元の見出しを修正した旨、文末に訂正内容を追記(今回は追記されている)。
  • 重大な訂正であるため、独自にコレクション記事を配信、SNS等で告知する。

<毎日新聞「<乳搾り体験>モーやめ…ストレス死相次ぐ 群馬の観光牧場」のケース>

  • 見出しに〈訂正あり〉と追記する。
  • 文頭に元の見出しを修正した旨、文末に訂正内容を追記。
  • 重要な事項に関する訂正であるため、独自にコレクション記事を配信、SNS等で告知する。

<毎日新聞「<東京五輪>ボート会場 都、IOCに安い金額を虚偽報告」のケース>

  • Yahoo!ニュース編集部が誤りを指摘する外部情報を確認した時点で、メディアによる自主的な訂正が行われる前であっても、トピックスおよび記事全文ページに当該外部情報のリンクリンク2を表示する。

(*) 提言の(3)に追記しました。(2016/11/2 12:10)

(**) ツイッターでアンケートを実施しました。(2016/11/4 16:45)

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー)。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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