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「反アパデモ "無料旅行"と募集」は誤報 産経サイト、書き換えるも訂正なし

楊井人文弁護士
「無料旅行」募集との見出しで産経新聞がFacebookに投稿した記事

産経新聞は2月11日、ニュースサイトに「【反「アパホテル」デモ】「無料旅行」とネットで募集も参加者100人弱 予定その10倍だった 第2弾はあるのか?」との見出しで記事を掲載した。しかし、デモを呼びかけた中国語の掲示板に書かれていたのは「免費 和平游行」(日本語に訳すと「無料 平和的デモ」)で、「無料旅行」ではなかった(旅行は中国語で「旅游」)。産経は掲載から2日後に見出しから「旅行」の2文字を削除したほか、本文も書き換えたが、訂正を明記しなかった。

産経をはじめ多くの大手メディアは、サイトに公開した記事に訂正に値する誤りがあっても、明示しないまま上書きで書き換えるか削除してしまうケースが後をたたない(本件と同様の例として=オスプレイ事故率 「民間航空機より低い」 産経サイト、一部記述を削除 オスプレイ事故率 「民間航空機より低い」 産経サイト、一部記述を削除。この問題に関する提言として=Yahoo!ニュースは訂正情報をわかりやすく可視化せよ、訂正を明記した稀な例として=零戦の日本上空飛行「戦後初」は誤報 産経サイト、見出しなど訂正)。

産経新聞のツイッター投稿(2017年2月11日)
産経新聞のツイッター投稿(2017年2月11日)

日本報道検証機構の調べでは、この記事は11日7時ごろに配信。同社公式ツイッターからも発信されていた。Yahoo!ニュースにも13日朝に配信され、当初は「“無料旅行”とネット募集も…」という見出しだったが、同日午後「『無料』とネット募集…」に書き換えられたとみられる(末尾に「最終更新: 2/13(月) 15:16」との打刻あり)。13日昼ごろからツイッター上で誤訳ではないかとの指摘が出ていた。

リードの部分も、当初は「デモ開催情報はインターネットの中国人向けの情報掲示板などを通じ、「無料旅行」などとして拡散した」と記されていたが、「デモ開催情報はインターネットの中国人向けの情報掲示板などを通じて拡散した」に修正。本文の一部も書き換えられていた。

デモを呼びかけた掲示板の投稿は、冒頭に中国語で「免費」と書かれていたが、本文には旅費、交通費などの支給について一切書かれていなかった。これが掲載された在日中国人向けの掲示板「百花論壇」には、アルバイト募集などの投稿にも多数、冒頭「免費」と掲げたものがあった(同掲示板の検索結果)。今回のデモ呼びかけ時の「免費」という表記も参加無料という意味にとどまり、他の投稿と同様、特段の意味を込めていなかった可能性がある。

主催者の連絡先にメールで取材を申し込んだところ、主催者と名乗る中国人の会社員女性が電話取材に応じ「掲示板にはアルバイト募集などの書き込みが多いため、参加してもお金はもらえないよ、という意味で『免費』と書きました。主催者も参加者もみんな、交通費も含めて自己負担です」と話した。

また、女性は「もともと安全のため開始直前に集合場所を知らせる予定でしたが、情報が漏れてしまい、前日に産経新聞に計画が報道された。それでみんな怖くなってしまった。当日も警察に集合場所にとどまると危ないと言われて、予定より早くデモを始めた」と、参加者数が当初目標の1000人を大きく下回った要因について話した。事実、産経新聞は4日付朝刊で「アパ客室書籍に抗議 在日中国人団体が新宿でデモをあす計画」との記事を掲載し、インターネット上で対抗の呼びかけが広がっていた。ただ、取材に応じた女性は自分の名前を明らかにしなかった。

当初の記事は、主催者側が旅費などを負担してデモ参加を呼びかけたかのような印象を与えた可能性がある。実際、この記事をシェアした読者からは「中国からの政治的なデモの為に動員、無料ならいくらでも日本に来るよね…」「何処からお金が出ているかは推して知るべし!!」などといった反応が出ていた。

(*) 主催者と名乗る女性が取材に応じたため、「主催者の連絡先にメールで取材を申し込んだところ~」の段落を追記しました。(2017/2/14 19:10)

書き換えられていた部分

(注:太字部分は引用者。変更前の記事全文参照)

見出し:「無料旅行」→「無料」

<変更前>

【反「アパホテル」デモ】「無料旅行」とネットで募集も参加者100人弱 予定その10倍だった 第2弾はあるのか?

<変更後>

【反「アパホテル」デモ】「無料」とネットで募集も参加者100人弱 予定その10倍だった 第2弾はあるのか?

リード:「無料旅行」を削除

<変更前>

日曜日の東京・新宿を横断した在日中国人による「反アパホテル」デモ。「1千人参加」が目標とされていたが、実際に行列に加わったのは100人弱。大きな盛り上がりとはならなかったが、デモ開催情報はインターネットの中国人向けの情報掲示板などを通じ、「無料旅行」などとして拡散した。

<変更後>

日曜日の東京・新宿を横断した在日中国人による「反アパホテル」デモ。「1千人参加」が目標とされていたが、実際に行列に加わったのは100人弱。大きな盛り上がりとはならなかったが、デモ開催情報はインターネットの中国人向けの情報掲示板などを通じて拡散した。

本文:「和平旅行」を削除

<変更前>

中国人たちに向けたアルバイト情報などを発信する掲示板では1月下旬、「和平旅行」(平和旅行)と題された募集がかかった。冒頭には無料を意味する「免費」の表示。題名だけをみると旅行案内のようだが、中身はデモ参加を呼びかける内容だ。

<変更後>

中国人たちに向けたアルバイト情報などを発信する掲示板では1月下旬に募集がかかった。冒頭には無料を意味する「免費」の文字があった。

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長を6年近く務め、2023年退任。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』を出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。翌年から調査報道NPO・InFactのファクトチェック担当編集長を1年あまり務める。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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