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なでしこキャプテン宮間あやがチームメートに突き付ける「重い課題」

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
東アジア杯最終戦が行われた蚕室五輪スタジアム

チャンピオン・エンブレムを見つめて

北朝鮮との第2戦を0-0のスコアレスドローで終えた後だった。

「自分たちが目指しているのはDFが固い相手であっても崩すことだし、今日はたとえ崩さなくても得点を取らなければいけない試合でした」

ユニホーム姿のまま取材エリアに来たキャプテン宮間あや(岡山湯郷)は、「3連勝して東アジア杯3連覇を達成する」という目標のうち、3連勝がかなわなかったことに悔しさをにじませた。

ふと、ユニホームの右胸に目を落とし、抑えた口調で加える。

これをつけている以上、アジアの国に引き分けでは何も言えませんから

そこには、金色のチャンピオン・エンブレムが輝いていた。W杯優勝国が次のW杯までの4年間のみ付けることが許される、誇り高きワッペンである。

澤のポジションであるボランチにコンバート

宮間が11年W杯優勝後になでしこジャパンのキャプテンとして公式大会に臨むのは、ロンドン五輪に続いて2度目だった。(10年女子アジア杯でもキャプテンを務めている)

今回は負傷の影響で澤穂希(INAC神戸)が不在。宮間は6月の欧州遠征から澤の抜けたボランチの位置にコンバートされており、東アジア杯でも初戦の中国戦から最終第3戦の韓国戦までの3試合すべてにボランチで先発フル出場した。

中国戦と北朝鮮戦では阪口夢穂(日テレベレーザ)とコンビを組み、韓国戦では前半に田中明日菜(フランクフルト)、後半は阪口とプレーした。

今までサイドハーフを主戦場としていたこと、また、157センチメートル、52キログラムという小柄な体格から、攻守ともプレッシャーをより強く受ける中央でのプレーには、コンバート当初こそ戸惑いがあったようだが、試合をこなしながら急速に勘をつかんでいったのはさすがだ。

佐々木則夫監督は韓国との最終戦の後、「宮間のボランチは合格点だったと思う。特に今日は良かった。バランスを取ること、縦横の使い分け。彼女も1戦1戦、反省しながらやっていたし、そういう意味では第3戦は非常に良かった」と評価した。

指揮官はまた、「澤がいないということで宮間も阪口も成長したと思う」とも言っている。澤不在時のマネジメントとして、“ボランチ宮間”に目処がついたことに安堵しているように映る。

ところが宮間自身は、「ボランチという枠にはまらず、チームのいいところをたくさん出せる選手になりたいと思っている」と、ポジションに関してはさらりとしたものだ。どこのポジションで出ようが常に代表としてプレーする喜びや感謝の気持ちがあり、また、ポジションごとのこだわりを持つのは、背番号8のベースだからだ。

そんな宮間が、韓国に敗れて号泣しているのを見たときに思い出した光景があった。ちょうど1年前、ロンドン五輪決勝で米国に敗れて銀メダルに終わったときの姿だ。

東アジア杯は公式戦といえども世界大会ではない。五輪やW杯の予選を兼ねているわけでもない。けれども、いや、だからこそ、宮間の胸の中で大会中くすぶっていた思いは弾けた。

直接FK被弾は「屈辱以外の何ものでもない」

韓国戦での日本の試合の入り方は決して悪くなかった。韓国が中2日であるのに対して日本は中1日と、コンディションでは分が悪かったが、 日ごろの鍛錬と高いモチベーション、さらには北朝鮮戦から先発5人を入れ替えたことで、運動量ではむしろ日本が韓国を上回った。

痛かったのは、前半13分に先制点をあっけなく奪われたことだ。

ゴール正面やや右、距離にして約19メートルという絶好の位置で、なでしこリーグINACでも活躍するチ・ソヨンに直接FKを与えてしまったのがまずは良くなかった。チのFK弾は5枚の壁の上を超えてゴール右隅のネットを揺らした。

「FKは準備不足。セットプレーの練習もほとんどしていないし、彼女がいいキックをするということは日本でやっていてよく分かっていることなのに、それをやられてしまうというのは屈辱以外の何ものでもない」

宮間の口調には穏やかならぬ響きがあった。怒りめいた思いを自分自身にも向けるかのように、次々と重い言葉が飛び出した。

全員がチームのために力を出したのか

「まず、自分たちは日本代表チームとしてあるべき姿なのかということを、自分も含めて見直さないといけないのではないか。全員が本当にチームのために力を出したかと聞かれたら、チームにはなりきれていなかったと思う

チームメートに内省を促す。

「世代が違えばチームの作り方が違っても当然だが、それを、なんとかごまかしてやってきた11年W杯、12年ロンドン五輪を終えて、もうごまかしがきかなくなってきているのかなと思う」

「油断がないと言えるほどの自信が今のチームにあるのか。そう聞かれれば『ある』とは言い切れない。全員が胸に手を当てて考えてみたとき、私は完璧な準備をしましたと言えるかと問われたら、そうではないと思う」

「自分も含めてもう一度『サッカーにすべてを懸けてやっているのか』というところを考えないといけない。自分は『やっている』と自信を持って言えるが、全員が『代表チームです』と胸を張って言える準備はできたかと聞かれればどうだろうと思う。負けて当然かなと」

負けて当然

日本は15年にカナダで行われる女子W杯には、ディフェンディングチャンピオンとして出場することになる。ただし、予選は自力で突破しなくてはならず、W杯予選を兼ねて来年5月にベトナムで開催される女子アジア杯で出場権を獲得しなければならない。

予選自体は8カ国参加で5つの出場枠があるため心配することはないが、なでしこジャパンが目指す位置は非常に高い。しかも今度は、世界中が「日本のようなサッカーをしたい」とサッカースタイルを変え、しかも日本対策をしてくる中での戦いになる。W杯連覇は容易ではない。

だからこそ宮間は「新しいことにチャレンジしないと、もう一度世界チャンピオンにはなれないと思っている」と今後も高いハードル設定を課していこうとしている。

宮間が突き付けた重い課題を、なでしこジャパンの全員が本気で再考できるか。もしかすると単純に米国に勝つよりも、ドイツに勝つよりも、難しいことかもしれない。だが、それでもこの課題を投げかることが、世界の頂点に再挑戦するためには不可欠だと、この仲間たちとならできると、宮間はそう信じているのだ。

ロンドン五輪決勝、で宮間あやの涙が止まらなかった理由(スポルティーバ)

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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