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【体操】長谷川智将&萱和磨の新顔2人を代表へ引き寄せた白井健三の“引力”と“凄み”

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
6月21日、世界選手権の男子代表に決まった6人(撮影:矢内由美子)
3年連続で世界選手権代表入りの白井健三(撮影:矢内由美子)
3年連続で世界選手権代表入りの白井健三(撮影:矢内由美子)

4月から6月にわたって繰り広げられてきた体操世界選手権(10月23日~11月1日、英国グラスゴー)の代表選考が、先日の全日本種目別選手権ですべて終了した。

男子団体メンバーは6人。すでに決まっていた内村航平(コナミスポーツクラブ)、田中佑典(コナミスポーツクラブ)、加藤凌平(順大4年)の3選手に加え、種目別選手権の結果により、白井健三(日体大1年)が3年連続で、そして長谷川智将(日体大4年)と萱和磨(順大1年)が初めて代表入りを果たした。

長谷川と萱は、個人総合で争われた5月のNHK杯で、選考基準で有利になると定められていた8位以内(長谷川7位、萱8位)に入っていた。

そのことからも分かるように2人はオールラウンダーとしての能力も高いが、最終的には全日本種目別選手権での演技でチーム貢献ポイントを稼いでの代表入り。6月21日の代表決定会見では、「目標にしていたことなのでうれしい」(長谷川)「このためにたくさん練習してきた」(萱)と初々しく喜びを語った。

■白井を“スカウト”して急成長した長谷川

長谷川智将は日体大4年(撮影:矢内由美子)
長谷川智将は日体大4年(撮影:矢内由美子)

2人に共通しているのは、13年に彗星のごとく現れ、弱冠17歳で世界選手権種目別ゆかで金メダルを獲得した白井から大きな影響を受けていることだ。

長谷川は、今年1月のナショナル合宿で白井がメリハリをつけた質の高い練習をしていることに目を奪われた。それまでの長谷川は、毎日気の済むまでガムシャラに練習を積んでいたが、ときにはやり過ぎで疲労が取れず、練習の質が落ちるという悪循環に陥ることもあったという。

ところが合宿で見た白井のやり方を見て、考えを根本から変えた。そして出場した3月のコトブス国際(ドイツ)。今までにない手応えを感じた長谷川は、「これは白井くんを見習わないといけないと思った」と、4月から日体大に進学した白井を寮の同部屋に“スカウト”した。

日体大体操部は1年から4年まで各学年1人ずつ計4人がひとつの部屋に入る決まりになっており、部屋のメンバーは最上級生の4年生が選ぶことになっている。長谷川は、「一緒にいるだけで勉強になると思って」、自ら白井を指名。快進撃はここから始まった。

「寮の部屋で、健三から毎晩のようにいろいろなアドバイスをもらった。経験のある選手が近くにいると凄く力になると感じている」。これが世界選手権代表入り後に語ったことだ。

■白井と同い年で切磋琢磨する萱

いずれは個人総合で勝負したいと話す萱和磨(撮影:矢内由美子)
いずれは個人総合で勝負したいと話す萱和磨(撮影:矢内由美子)

白井と同い年の萱は、白井が高校2年で世界の頂点に立ったことで、日々の練習にますます力が入るようになった。自他共に認める練習の虫で、順大の冨田洋之コーチは「体操が大好きな選手で、故障を心配するほど練習をする」と舌を巻くほどだ。

「健三が2年前に代表に選ばれて世界の舞台で活躍するのを見て、今回は同じ大学1年として自分も早く代表に入りたいという気持ちが強かった」

特に影響を受けたのは、得意種目でも守りに入らず、演技構成で攻めの姿勢を貫くということ。

「健三はゆかに対する思いがすごく強くて、どんな大会でも演技構成を変えず、自分のできるベストの構成でやっている」

その姿に影響を受けた萱は、全日本種目別選手権あん馬で、予選から難度の高い演技構成で勝負した。その結果、13年世界選手権種目別あん馬で金メダルを獲得した亀山耕平(徳洲会)を0・1点上回る15・650点で優勝。見事に世界選手権代表の座を手に入れた。「健三と一緒に金メダルを獲りたい」と意欲を燃やしている。

白井も、「和磨は高校1年生のときに初めて一緒に試合をして以来、ほとんど失敗したことを見たことがないし、見るたびにうまくなっていた。自分も絶対に追いついていかないといけないと、下から和磨を見ていた印象が強い」と同い年の好敵手の存在に刺激を受けている。

■白井は凄み漂う演技で16・450高得点をマーク

白井自身は全日本種目別選手権ゆかで、世界の誰にも真似できない超ハイレベルの演技構成を非常に高い完成度でまとめ上げ、2位に1点差をつける16・450の高得点で優勝した。

13年の世界選手権で成功させて自らの名のついたひねり系の「シライ/ニュエン(後方伸身宙返り4回ひねり」や「シライ2(前方伸身宙返り3回ひねり」では、かつて散見されていた膝割れやひねり不足、ラインオーバーがまったくなかった。

そして、昨年の世界選手権終了後から取り入れている縦回転系の「リ・ジョンソン(後方かかえ込み2回宙返り3回ひねり)」では、凄みを感じさせる高さと空中姿勢で、余裕満点の着地。「大きく堂々と演技することの大切さを知ることができた」と胸を張る演技に、体育館からはため息がもれるほどだった。

白井は昨年の世界選手権種目別ゆかで、優勝者にわずかに及ばず銀メダルに終わっているが、今年見せている完成度からすれば、今秋の世界選手権はもちろんのこと、来年のリオデジャネイロ五輪でも単なる優勝ではなく、圧倒的な差での金メダル獲得が可能だろう。

凄みが出て来た白井と、白井に刺激を受けながら代表入りの階段を上がってきた新顔2人。そして、内村、田中、加藤の五輪経験者たち。体操ニッポンの団体金メダル奪回はもうすぐだ。

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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