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【体操】内村航平が若手に求める高水準とその意図 

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
リオ五輪での団体総合金メダルを見つめる内村航平(写真:ロイター/アフロ)

■五輪本番を見据えた演技を

ロンドン五輪男子個人総合金メダリストであり、世界選手権6連覇中、また、体操でただ1人リオデジャネイロ五輪代表に内定している内村航平(コナミスポーツクラブ)が、4月1日から始まる全日本選手権個人総合兼リオ五輪代表2次選考会を前に記者会見に出席。ナショナルチームの後輩たちに期待することを聞かれ、「昨年の世界選手権のメンバーたちは団体総合で世界一になっている。それにふさわしい演技をしてもらいたい」と語った。

昨年の世界選手権で金メダルを獲得した団体メンバーとは、内村、田中佑典(コナミスポーツクラブ)加藤凌平(同)白井健三(日体大)萱和磨(順大)早坂尚人(順大)の6人。誰よりも自分に厳しく体操に取り組み、前人未踏の実績を残してきた王者だからこそ突き付けることのできる、重みある言葉だ。

内村はさらに「五輪イヤーなのでみんな間違いなく例年よりも良い演技をしてくると思う」と話したうえで、より高い次元を要求。

「みんなには(選考会での)良い演技を世界の舞台でできるのかというところまで見つめながら演技してもらいたい。代表になるための演技することは大事だが、その先も見据えてやって欲しい」

高水準の演技を求めるのは、五輪を想定しながら行うことで、本番のシミュレーションにもなると考えてるから。「世界の舞台でできるのかを考えながらやれば、五輪でも間違いなくできると思う」と意図を説明した。

日本はロンドン五輪以降、若手が徐々に力をつけ、大学1年生が2人(白井、萱)も入った昨年の世界選手権(英国・グラスゴー)で37年ぶりの団体総合金メダルを獲得した。リオ五輪はアテネ五輪以来となる五輪での団体総合金メダル奪還の大チャンス。内村の“メッセージ”は、ロンドン五輪を経験していない白井や萱、早坂、そしてもちろん昨年の世界選手権を経験していない“候補選手”たちを意識したものである。

■微に入り細をうがち、頂点だけを目指す

会見では昨年の世界選手権全体から見えた採点傾向への対策として、つり輪の力技の一部を「十字倒立」から「中水平(なかすいへい)」へ変えたことも明かした。これによって演技構成の難度を示すD得点が変化することはないが、演技の出来映えを示すE得点の減点を防ぐことができるのだという。

「昨年の世界選手権で力技(の種類)によっての減点が明確になった。十字倒立は減点の箇所が多く、中水平は少なかった。そこで、冬場に中水平の強化をやった」

技の変更をさらっと口にする内村だが、十字倒立と中水平では当然ながら使う筋肉も異なる。「減点の少ない実施ができるようになったので中水平にして、Eスコアを上げようと考えた」というさりげない言葉の奥には、目に見えない努力が潜んでいる。内村は若手に高い要求をする一方で、自分自身も細部に及ぶ観察と研究、そしてたゆまぬ研鑽を続けているのだ。

リオ五輪の代表選考は2次予選にあたる今回の全日本選手権個人総合を経て、5月5日に行われるNHK杯、6月4、5日の全日本種目別選手権の結果で決定する。リオ五輪に出られるのは6人で戦った世界選手権より1人少ない5人。高レベルなバトルと、国内大会でも五輪を見つめて演技することで、リオ五輪での悲願成就が近づいてくる。

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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