Yahoo!ニュース

【バスケットボール】長岡萌映子 伝説の少女がリオ五輪の星になる日

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
ドライブで切れ込む長岡萌映子(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

12年ぶり4度目の五輪となるリオデジャネイロ五輪で旋風を巻き起こし、メダル獲得を狙おうとしている女子バスケットボール日本代表(愛称アカツキファイブ)。

現在は代表候補18人中17人(WNBAでプレー中の渡嘉敷来夢は不参加)による欧州遠征の真っ最中で、既に2試合を実施した。5月26日には昨年の欧州選手権で準優勝したフランスを下し、27日には同優勝チームのセルビアを撃破。強豪国を相手に2連勝を飾って注目を浴びている。

リオ五輪に出場できる12人が発表されるのは今回の欧州遠征終了後の6月上旬。激しい代表生き残りバトルが繰り広げられる中で、昨年の右膝負傷から復活し、上昇気流に乗っているのが、22歳の長岡萌映子(富士通レッドウェーブ)だ。

長岡萌映子
長岡萌映子

北海道・札幌山の手高校2年だった2010年に高校3冠に輝き、翌11年に高3で日本代表に初選出。同年8月には92年の濱口典子(当時長崎・鶴鳴女子高、アトランタ五輪、アテネ五輪出場)以来、史上2人目となる高校生での代表マッチデビューを果たした“伝説の少女”である。

身長182センチメートル、体重75キロという恵まれたサイズを持つ長岡は、ペイントエリア内でのポストプレーやリバウンドはもちろんのこと、ドライブや3点シュートも得意というオールラウンダー。高校生の頃から「日本の女子バスケの未来を担う」と期待されながらも、実業団入りしてからは負傷の影響もあって代表レギュラーの座を獲得するには至っていなかった。

けれども今年は、4月の第1次合宿から主力組でプレーすることが多くなり、昨年までと比べて変化が起きてきている。ポジションは3番(フォワード)。

「今年は(主力組である)Aチームに入る機会が多くなったのでうれしい。今までより自分の位置が一段階上がっていると思う。ヘッドコーチから与えられているポジションも、以前は3番と4番の両方をやっていたけれど、今回は“ザ・3番”。だから、集中してプレーできていると思う」

そう話すように、長岡自身も相応の手応えを感じているようだ。

■昨年の代表合宿中に右膝を負傷

長岡が不運なタイミングで右膝を負傷したのは、昨年6月11日のことだった。

8月下旬から中国で開催される「FIBA ASIA女子バスケットボール選手権(兼リオデジャネイロオリンピック アジア地区予選)」を目指し、日本代表候補が1次合宿をはじめてから2日目の午前練習。5人1組で守備をつけずに速攻の練習を行なって走っている最中、右膝から「バチッ」という音がした。

激痛が走った。原因は『右膝タナ障害』。ところが、以前から半月板損傷やジャンパーズニーを発症するなど、何度か同じような痛みに見舞われたことがあった長岡は、「大丈夫だろう」と思い、翌日の午前までは練習を続けたという。しかし、痛みは取れず、むしろ腫れはひどくなる一方だった。

「テーピングの中で膝がどんどん腫れてきて、ついに歩くこともできなくなり……終わりました」

この時点で、リオ五輪アジア予選出場という目標は消え去ってしまった。無念の離脱だった。

だが、闘志を奮い立たせるのは難しくなかった。思えば「バチッ」と音がして痛みを感じた後も無理をして練習を続けたのは、「何が何でも代表チームに残りたい」という執念があったからだ。内海知秀ヘッドコーチ率いる日本女子チームは、昨年一気に若返りを図っていたことで、長岡にとっては大きなチャンスだったのだ。

代表チーム離脱後は、悔しさを押し殺してリハビリに専念。アジア選手権優勝でリオ五輪切符獲得に沸いたときも、テレビで試合の様子を見ることもなく、ひたすらトレーニングに励んだ。

その甲斐あって昨秋に開幕したWリーグでは試合によって多少の波はあったものの、全体的には攻守に存在感を見せ、富士通の準優勝に貢献した。今回は満を持しての代表候補合宿参加だ。

■武器はフィジカル

長岡の武器は、シュータータイプの多い日本の3番ポジション候補の中で、身体サイズとパワーに秀でていることだ。18人の候補メンバーからリオ五輪代表となる12人に絞られるのは6月6日までの欧州遠征終了後。現在は欧州列国との国際マッチで最後のアピールを行なっているところである。

「遠征では他の3番の選手とのプレースタイルの違いを出すことを意識して、ドライブやゴール下に切れ込んで行くプレーでフィジカルを見せていきたい。大きな相手に対してゴール下でプレー出来るところを出して、オールラウンドにやっていければと思う」

内海ヘッドコーチからも、「3点シュートを狙いながら、他の形ので得点も狙え」と言われているという。

5月9日に東京・代々木第二体育館で行なわれたオーストラリアとの国際親善試合では、身長2メートル5センチのキャンベージ・エリザベスとゴールしたで接触した際に背中の右側を強打。しばらく起き上がれず、肋骨は折れやすいこともあり、状態が案じられた。

けれども幸いなことに骨折はしておらず、ひと安心。翌日の第3戦にも志願して出場した。

「息をするのも痛かったけど重傷ではなかったし、自分としても抜けたくなかった。2メートル5の選手に叩きつけられて折れなかったので、自信を持ってもいいかな」

■北海道出身トリオでリオへ

今回の代表候補メンバーには山の手高校時代にともに高校3冠を達成した1学年上の本川紗奈生(シャンソン化粧品)、町田瑠唯(富士通)がいる。

「あえて口にすることはありませんが、3人で五輪に行くというのは誰もが自然に考えていることだと思う」

高校時代から大器として期待されながら、「今までは試合にあまり出ていなかったから微妙な立場だった」という長岡は、「今やっと日本の力になれるかなというところまで来ている」と言葉に力を込める。

「女子力はありませんが、指が長いので『手だけ女子』と言われます」と、茶目っ気もたっぷり。物怖じしないさばさばした性格の持ち主でもある。「伝説の少女」が日本の力となるときがやって来る。

指の長さが際立つ
指の長さが際立つ

【アカツキファイブ国際試合結果】

日本は5月22日から6月6日の日程でフランス及びベラルーシへ遠征中。27日までにフランスで2試合を行ない、2連勝を収めた。

長岡は2試合の合計プレータイムは14分34秒。合計3得点4リバウンドとまだ物足りない。ベラルーシでもあと3試合を行なう予定になっているので、もっとアピールを強めていきたいところだ。

5月26日 フランス67-70日本

http://www.fibalivestats.com/u/FFBB/295298/#ASFSK

5月27日 日本87―62セルビア 

http://www.fibalivestats.com/u/FFBB/295299/

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

矢内由美子の最近の記事