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「ラーメンバーガー」に見るラーメンの未来

山路力也フードジャーナリスト
RAMEN BURGER TOKYOの「THE ORIGINAL BURGER」

ニューヨークで火がついた「RAMEN BURGER」

5月3日、東京中野に初出店する「RAMEN BURGER TOKYO」
5月3日、東京中野に初出店する「RAMEN BURGER TOKYO」

5月3日、東京中野に日本初となる「ラーメンバーガー専門店」がオープンする。その名も「RAMEN BURGER TOKYO」。こちらはニューヨークで人気を集めている「RAMEN BURGER」の日本初進出店。日本でラーメン店経験もある日系アメリカ人、Keizo Shimamoto(ケイゾウ シマモト)氏が考案したものを、シマモト氏の友人でもあるラーメン店主、鯉谷剛至氏(株式会社地雷源代表取締役)が招聘してコラボレーションが実現した。店舗は鯉谷氏が手掛ける「肉煮干し中華そば さいころ」の2Fで、テイクアウトが中心になるが、カウンターでのイートインも可能だ。

しかし「ラーメンバーガー」という食べ物そのものは、RAMEN BURGERがオリジナルではない。実は「ラーメンの町」として知られる福島県喜多方市にある「道の駅 喜多の郷(さと)」が発祥だ。地元を盛り上げる新しいご当地グルメを作ろうと、ラーメンをバーガーにすることを考案。喜多方ラーメン独特の縮れ麺を蒸して焼き固め「バンズ」に見立て、豚の角煮やメンマ、ナルトなどラーメンの具材を挟み込み、醤油味のラーメンスープをベースにしたソースを絡めたものが「喜多方ラーメンバーガー」だ。

また、ハンバーガーチェーンの「ロッテリア」でも、過去に人気ラーメン店「麺屋武蔵」や「東池袋大勝軒」とコラボレーションする形で「ラーメンバーガー」「つけ麺バーガー」を販売している。こちらはバンズはハンバーガー同様にパンを使い、バンズの間に焼き上げたラーメンの麺と肉厚のチャーシューを挟んだものだ。

シマモト氏の発想の原点は喜多方のラーメンバーガーだったという。しかし、喜多方ラーメンバーガーはあくまでも「喜多方ラーメンをバーガーにする」という発想から生まれたのに対して、シマモト氏は「バーガーはハンバーグを挟まなければバーガーとは呼べない」と考え、「ラーメンとハンバーガーを融合させる」というコンセプトにたどり着いた。

バンズは喜多方同様に中華麺を焼き固めたものを使い、中にはチャーシューや角煮ではなくジューシーなハンバーグを挟むことで、オリジナルのラーメンバーガーが完成した。これはアメリカの食文化と日本のラーメン文化に精通しているシマモト氏ならではの発想だろう。

こうして日本のラーメンとアメリカのハンバーガー、日米の国民食が合体した「RAMEN BURGER」が誕生。空前のラーメンブームに沸くニューヨークで販売を開始するとすぐ、ニューヨーカー達の心を一気に掴んだ。そしてこの春、満を持しての日本進出となったのだ。

ラーメンバーガーは「ラーメンの進化形」だ

「THE WORKS BURGER」the worksとは口語で「全部」の意味
「THE WORKS BURGER」the worksとは口語で「全部」の意味

RAMEN BURGER TOKYOのラーメンバーガーを実際に食してみた。「バンズ」となる麺は、自家製麺でも定評があるさいころがラーメンバーガーに合うように新たに開発したオリジナル専用麺を、茹でたあとに丸くバンズのように固めて、注文を受けるごとに鉄板で香ばしく焼き上げている。焼いた麺はクリスピーな食感と香ばしい香りを持ち、茹でたり蒸した麺とはまた違った美味しさや魅力がある。

香ばしく焼いた麺の美味しさは、中国料理における「かた焼きそば」や大阪の「モダン焼き」などでもすでに実証済みだが、ラーメンの世界でも博多の屋台には「焼きラーメン」という食文化があり、東京高田馬場の人気店「焼麺 劔(つるぎ)」には鉄板で焼いた麺をスープに入れる「焼麺」というメニューが存在する。

ビーフパティはハンドチョップした粗挽きのアンガスビーフを使ったジューシーで肉厚のものを使い、醤油をベースにしたオリジナルのソースで味付ける。アメリカの口語で「全部」を意味する「the works」を冠した「THE WORKS BURGER」は、ラーメンで言うところの「全部入り」で、ビーフパティの他に青梅豚を使用したベーコン、目玉焼き、チェダーチーズなども挟むボリューム感ある一品。手に持つとハンバーガーよりもはるかに重厚感と重みがありお腹もいっぱいになる。

果たしてラーメンバーガーはラーメンなのか、それともハンバーガーなのか。無論、ラーメンバーガーという新しい食文化として捉えることも出来るが、私個人の印象としてはラーメンバーガーは間違い無く「ラーメン」である。

中国で生まれた麺料理が日本に入ってラーメンになったのは、日本人の嗜好や食文化に沿って進化してきた結果だ。味付けには醤油や味噌など日本の調味料を使い、ナルトや刻み葱など日本蕎麦の具材を転用し、中国の麺料理は日本のラーメンになった。そのラーメンがアメリカにわたり、アメリカの食文化であるハンバーガーのスタイルを使って変化するのも自然な流れだろう。

ラーメンは定義があるようでない食べ物だ。丼の中に麺とスープが入っている形がラーメンかと思えば、麺とスープを分離させた「つけ麺」が登場して人気を博しているし、では麺とスープがあればラーメンなのかと問われれば、スープをなくして麺に油とタレを絡ませて食べる「油そば」「まぜそば」も生まれた。つまりラーメンには少なくとも形状上での定義は存在せず、ラーメンバーガーもラーメンを表現する新しい形と言っても間違いはない。

私たちはラーメンを食べる時、麺とスープ、具の一体感を楽しみながらも、たどりつくところは麺である。ラーメンは極論を言えば麺を楽しむためにスープや具材が存在する麺料理なのだ。一方、ハンバーガーはバンズとソース、ビーフパティの一体感を楽しむ料理、つまりサンドウィッチである。

ラーメンバーガーを食べる時、私たちの意識の中心はビーフパティではなく麺にあることに気づく。ビーフパティの肉汁やオリジナルのソースが、縮れた麺の隙間に入って少しずつほぐれくずれていく。その麺を食べるためにソースやビーフパティは存在している。食してみて初めて分かるが、ラーメンバーガーはラーメンであり麺料理なのだ。

ラーメン界に起きる「パラダイムシフト」の予感

日本でラーメンが生まれておよそ百年あまり。その進化のスピードは年を追うごとに加速度を増している。そして日本人の国民食として親しまれてきたラーメンは、「博多一風堂」や「ラーメン凪」など日本の人気ラーメン店の相次ぐ海外進出によって、今や世界各国で人気を集める「RAMEN」になった。

そして中国の麺料理が日本でラーメンになっていったように、今世界では欧米を中心に日本のラーメンに影響を受けた現地の人達による、現地の食文化や嗜好に沿った形でオリジナルのラーメン店が次々と誕生し人気を集めている。ラーメンはもはや日本だけの食文化ではなくなった。

日本でラーメンが劇的に進化を遂げたのは、中国料理のルールや文化にとらわれない自由な発想が次々と導入されていったからだ。その後、ラーメンという料理がある一定の完成をみた時に、自由であったはずのラーメンにルールや文化が生まれた。そのラーメン文化をさらに進化させていったのは、既存のラーメンのルールにとらわれないフレンチや日本料理などの経験を持った料理人たちだった。

そして今、日本のラーメンのルールや日本の食文化にとらわれない世界の人々が、自由にラーメンを作り始めた。私たち日本人には思いもつかないような発想で、日本のラーメンの概念を覆す新しいラーメンが世界各地で現れ始めている。ラーメンバーガーもそんなラーメンの一つなのだ。

この「RAMEN BURGER」が今後日本でブレイクするかどうかは正直分からない。しかし、日本では流行らなくともニューヨークをはじめ世界でラーメンバーガーが人気を集めていく時代が来るとしたら、その時の日本はラーメン文化から取り残されたラーメン後進国になっているのかも知れない。ラーメン界に起こる「パラダイムシフト」のカウントダウンが始まった。

(追記:「RAMEN BURGER TOKYO」は2015年8月に中野での営業を終えて、福生市に移転して営業している)

フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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