ミーハーであることに胸を張ろう! ビジネスに生かす「ミーハー・マーケティング」
「ミーハー」の意味合いは変化している
世の中で流行っていること、芸能人や著名人の動静、スキャンダルに敏感な人を「ミーハー」と呼びます。もともとは低俗な趣味の人を軽蔑する意味合いが含まれていました。しかし最近、かなり拡大解釈されています。多くの人が支持する商品やサービスに影響を受けること、そのものが「ミーハー」だという解釈です。
「必要もないのに『iPad Air』を買ってしまった。私ってミーハーかな?」
「『俺のイタリアン』とか『俺のフレンチ』ってすごい人気だよね。私はミーハーだから、いつか行ってみたい」
このように「ミーハー」という言葉は、かなり一般的に使われるようになっています。ただ、「ミーハー」であることに抵抗し、「ミーハーでない自分」に憧れを抱く人もいるでしょう。みんなが支持するものより、もっと独創的なものを好んだり、ニッチなものにこそ価値があると思い込む深層心理です。あえて入手困難にしたり、限定販売することにより需要が喚起される現象を「スノッブ効果」と呼びます。「ミーハー」でない人は、この「スノッブ効果」を狙ったマーケティング戦略に影響されていくでしょう。
結局のところ、「ミーハー」であろうが「ミーハー」でなかろうが、多くの人が支持する事柄に影響を受けるか、受けないかの違いにすぎません。流行にまるで無頓着であるならともかく、「流行に左右されず、自分なりの個性を発揮したい」と言う人ほど「ミーハー」を意識しているのです。そうでなければ「ミーハーの逆サイド」を認識することができないからです。
(ちなみにマーケティング戦略上、流行に無頓着な人は研究対象にはならない)
マーケティングを考えるうえでは「ミーハー」でなければならない
「スノッブ効果」の反意語は「バンドワゴン効果」です。私のメルマガでよく紹介しているコミュニケーション技術。多くの人が支持するものほど、人は影響を受ける、という心理効果です。企業が業界の「シェア」にこだわるのは、支持されているという評判が、さらに支持を集めることを知っているからです。赤字覚悟でプロモーションにお金をかけ、シェアをアップさせようとするのは、経営者の野心や自己啓示欲を満たしたいから、というわけではないのですね。
売れているもの、流行っているものには、理由があります。ですからマーケティング戦略に携わる人にとって、ミーハーなものを研究する価値があるのです。
たとえばAKB48はなぜ売れているのかを考えてみましょう、一人で奮闘しているアイドル歌手と比べて、容姿や歌声が秀でているかどうかはわかりません。人の嗜好に左右される要素だからです。しかし容姿や個性がバラエティに富んでいると、その中で自分の好みに合った人を見つけやすいということはあります。
何かを好きになったり、興味を持つためには「理由」が必要です。人間はどんな感情を抱くうえでも、無意識のうちに「理由」を探してしまうもの。つまり、「こういう人が好き」「こういうものに興味を持つ」という絶対的な概念よりも、「アレに比べるとコッチのほうが好き」「コレよりはソレのほうが面白そう」といった相対的な発想のほうが自分の感情を見つけやすいのです。
「絶対評価」よりも「相対評価」のほうがわかりやすい、ということです。AKB48の中では、「~ちゃんよりは、~ちゃんかな」とか、「~さんより、どちらかというと、~さんだ」と相対比較をしていくうちに、自分の好みを掘り当てることができます。さらに、AKB48というグループ自体を他グループと相対比較させる、という発想もあります。「AKB48よりSKE48」「いや、SKE48だったらNMB48でしょ」「HKT48もあるし、乃木坂46もある」という風に、「ももいろクローバーZ」や「Fairies」「スマイレージ」などのライバルたちと相対比較させない戦略も透けて見えます。
このマーケティング戦略はジャニーズも同様にしています。トップアイドルグループの「嵐」の中でまずメンバー同士の相対比較ができます。「関ジャニ∞」「KAT-TUN」「Kis-My-Ft2」などの人気グループ間による相対比較もできます。こうすることで、他者へ関心が移行するリスクをヘッジできるのです。まさに「リスク分散」の考え方です。「EXILE」ファミリーも同様な動きを見せるかもしれません。メンバー個人の活躍を通してリスクマネジメントしていると言っていいでしょう。
AKB48は、すぐ近くで等身大のアイドルが成長していくストーリー性がファンを魅了するという側面もあります。物語は「事件」と、それによる「葛藤」でできています。それらのドラマ性がリアルに味わえることにより、強いインパクトとなってファンをくぎ付けにします。物語を一緒に経験した人と、表面的な歌と踊りしか目にしない人とでは温度差があって当たり前。ですから、「良さがわからない」「なぜあんなに人気なのだ?」という疑問を持つ人が出てくるのも頷けます。成功した要因は、ひとつのみならず、多面的なファクターで構成されているもの。多くの支持を得ることで、かえってバッシングされる機会も増えてしまいますが、こうしてビジネスライクに分析する冷静な目も必要ですね。
売れているものを真似しても、売れるとは限らない面白さ
芸能界のアイドルグループを例にとって、マーケティング戦略について考えてみました。これはアイドルのみならず、家電製品や車、ホテル、レストラン……など等、とにかく「売れているもの」「支持されているもの」に接してファクト分解することで、共通した何かを見つけられます。自分が「ミーハー」だと、その性向を隠そうとしたりする人がいますが、卑下することはありません。多くの人が支持するものには、必ず何らかの理由があるのです。その要素を抽出するうえでも、世間の「ミーハー」なものに触れ続けることには意味があります。アンテナを張り巡らせず、感度が低くなった人が、マーケティング戦略を考えることはできないでしょうから。
ただ、「支持される」構成要素を再現したとしても、決して同じように「支持される」わけではないことも覚えておきましょう。支持されているのは、支持されているから、という側面があり、売れるから売れる、という「バンドワゴン効果」を忘れてはならないのです。
「ふなっしー」が人気者となった理由はわかっても、「ふなっしー」の真似をしようが、同じように人気者にはなれません。人気者から学んだ要素を、どのように組み入れ、自社の製品やサービスに生かすのかは、マーケッターの腕の見せ所ですね。