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「自爆営業」の報道に、営業コンサルタントが物申す!

横山信弘経営コラムニスト
なぜ日本郵政ばかりがやり玉にあげられるのか?

「自爆営業」の報道に関する強い違和感

今年、「ブラック企業」とともに「自爆営業」という言葉が広く認知されました。日本郵政の社員たちが、販売ノルマ達成のため商品を自費で買い取るという事態を取り上げているためでしょう。年の瀬が近づくほど「自爆営業」の報道が増えています。

私は現場に入る営業コンサルタントとして、この報道のあり方に強い違和感を覚えます。あたかも「ブラック企業」と「自爆営業」を同列に扱うような記事もあり、現場を知らない人に曲解される恐れがあると考えます。

「自爆営業」に関するポイントを整理すると以下の3つです。

1)販売ノルマの設定

2)販売ノルマ達成に関するマネジメント

2)販売ノルマ達成のために社員がとった行動

この3つのポイントの中で、真の問題はひとつしかありません。それは(2)のマネジメントです。自費で買い取るという社員の判断そのものも問題ですが、それを許す空気が組織にあるのなら、それはマネジメントの問題と言えるでしょう。(もしも買い取りを強要したのなら当然違法です)

「販売ノルマ」に高いも低いもない

違和感を覚えるのは、「厳しいノルマ」「ノルマがきつい」という表現が多数の記事に含まれていることです。あたかも前述した(1)販売ノルマの設定に問題があるのでは、といった言い回しはやめてもらいたいと思います。そもそも「厳しい」とか「きつい」というのはどこからきたのでしょうか。記事を書いた人の印象や感想でしょうか。販売員たちから出た言葉を拾ったのでしょうか。

私の本業は、企業の財務健全化のために、年間の目標予算(ノルマ)を絶対達成させることを主眼としたコンサルティングです。プロのコンサルタントとして断言したいことがあります。それは、目標(ノルマ)が高ければ達成するのが厳しくなり、目標(ノルマ)が低ければ達成しやすくなるわけではない、ということです。目標に高いも低いもありません。つまり目標設定に問題が発生することなどない、ということです。整理すると、

● 目標ノルマに「高い/低い」はない

● 目標ノルマの「達成/未達成」が結果的に残るだけ

ということです。

家から10キロ離れたオフィスに毎日通勤していたとします。しかし会社の都合でオフィスが20キロ先へと移転したとします。出勤時間は以前と変わらず朝9時だとして、あなたはこの会社のとった行為を「厳しい」「きつい」と受け止めますか? 通勤距離が「2倍」になったわけですから、出勤のために家を出る時間がかなり早くなります。「あーあ、オフィスが遠くなった」「これから30分は早起きしなくちゃ」と残念に思うかもしれません。しかし、ほとんどの人が「仕方がない」「よくあること」と受け止めるはずです。たとえゴールが遠のいたとしても、ゴールから逆算して絶対に遅刻しないよう自分で考えるはずです。もちろん常識の範囲内ではありますが、オフィスの距離に「遠い/近い」はないのです。目標から逆算してとった自分の行為・プロセスが重要なのです。

「自爆営業」の話に戻します。

販売スタッフがノルマ達成を目指すのは当たり前です。営業、販売員のみならず、雇用されるすべての人に「目標達成」は共通する事柄です。人間が変温動物ではないように、外部環境の変化にともなって企業も目標予算を変えられるはずがありません。外部の気温が変わったら服を着たり脱いだりします。それと同じように、外部環境が変化したら、企業も行動やプロセスを変えるのです。そうすることで人は創意工夫を繰り返し、組織も成長していくのです。

なぜ「郵便局」だけがやり玉にあげられるのか?

「自爆営業」でやり玉にあげられているのは「日本郵政」です。まるで郵便局で働いている社員だけが「苦境に立たされている」かのような報道は慎むべきです。ほとんどの一般企業が同じ境遇だということを調査してもらいたいと思います。単純に、

● 商品を自費で買い取れるか

● 商品を自費で買い取れないか

の違いだけ。

ですからゴールから逆算したプロセスを設計できず、追い詰められたマネジャーたちは「自費で買ってでも達成しろ」と言うか、経営者に「達成できませんでした。ごめんなさい」を言うしかありません。しかし一般企業のほとんどが扱っている商品が「金型」「工作機械」「化学製品」「研磨加工技術」……などなど、自費で買い取れないような商品ばかりです。日本の企業数は430万にものぼります。それらのほとんどの企業は「自動車」や「保険」「ギフト品」「旅行」などといった自費で買い取ることのできる商品を扱っていないのです。ですからほとんどの企業の営業社員は「自爆営業したくてもできない」というのが現実なのです。

根本的な問題は「無計画なマネジメント」

問題の論点は「マネジメント」です。目標から逆算した仮説立案とその行動プロセスです。それら一連の活動をマネジメントするリーダーたちの問題なのです。私は目標設定された期初に、目標の2倍の仮説をあらかじめ積み上げてマネジメントする「予材管理」という手法を提唱しています。ポイントはこれら仮説の「量」と「質」です。仮説の精度を高めるうえで、創意工夫の連続でマネジメントをしていきます。こういったマネジメント意識が欠落し、無計画でいると最終的に「自爆営業」に追い詰められてしまう、ということなのです。

繰り返しますが、設定された目標値に問題はありません。というか、問題など存在しようがありません。現場をあずかるコンサルタントとして、報道に触れる人に誤解されたくはない。「厳しいノルマ」「ノルマがきつい」などという表現は慎んでもらいたいと思います。「郵便局はブラック企業?」などという発言もたまに目にしますが、「ブラック企業」の論点は「過剰労働」です。「自爆営業」と聞いて印象を同じにする人が増えていることに強い違和感を覚えます。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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累計40万部を超える著書「絶対達成シリーズ」。経営者、管理者が4万人以上購読する「メルマガ草創花伝」。6年で1000回を超える講演活動など、強い発信力を誇る「絶対達成させるコンサルタント」が、時代の潮流をとらえながら、ビジネスで結果を出す戦略と思考をお伝えします。

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