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部下育成できない上司は「具体化ストレス」を抱えている

横山信弘経営コラムニスト
「来期からは徹底してくれたまえ……」

部下育成できない上司の共通点

もうすぐ4月。4月になって新しい期を迎える企業も多いことでしょう。新年度になり、決意を新たにする人たちもまた多いと思います。「節目」のときはストレス耐性が高くなる時期ですから、少しハードルの高い決断をされてはいかがかと思います。私は企業に入り込んで目標を絶対達成させるコンサルタントです。実際にコンサルティングして結果を出すわけですので、戦略や計画を立案するだけでなく、実際にクライアントの従業員の方々には何らかの「行動」を変えてもらいます。

「行動」とは、要するに、

● 頭を働かせる

● 意識する

といった「静的」なものではなく「動的」なものです。つまり「手」や「足」を使うということ。「手」や「足」を使うということですから、精神論や心掛けはもちろんのこと、「ぼかし表現」では具体的な行動に落とし込むことができません。

< 代表的な精神論 >

・気合を入れろ

・根性で乗り切れ

・固くなるな、力を抜け

< 代表的な心掛け >

・感謝する気持ちを持て

・日々精進だ

・謙虚さを忘れてはならない

< 代表的なぼかし表現>

・徹底的に……

・積極的に……

・スピーディに……

これらを組み合わせると、このような感じになります。

「4月から新しい期がスタートする。今期は目標未達成に終わったが、来期はしっかりと気合を入れて目に見える結果を出していきたい。部内のコミュニケーションをもっと活性化して、何事も積極的にいこう。いいな」

このようなことを上司が言うと、「はい!」と部下たちは返事するでしょう。

「じゃあ、鈴木君の課は、新規の顧客開拓を徹底するように。佐藤君の課は、商品開発だ。もっとお客様に評価されるような商品を作り、テコ入れしていこう。企画部の部長も全面的に支援すると言ってくれている。4月からはスピード感をもってやっていこう。頼んだぞ」

そしてまた「はい!」です。

どこにでもありそうな上司からの訓示です。訓示なので、マネジメントの機能を果たすことはできません。私は精神論や心掛けは大好きです。私もよく部下にこういった表現を使いますが、これらは「スパイス」のようなもので、「食材」ではないのです。行動指標という食材だけだと味気ない料理になるので、スパイスを加える、というイメージでマネジメントをしていただきたいと思います。

前述の例でいうと、1か月が経過しても、コミュニケーションは活性化せず、新規開拓も全然進まず、日々の業務の忙しさもあり商品開発も停滞し、企画部の部長はいつも通り「最近どう?」と声をかけてくれるぐらいで「全面的な支援」とはほど遠い体たらくです。

精神論も、心掛けも、ぼかし表現も、どれも似たようなもの。人によって解釈の幅がありすぎて再現性を担保できない表現です。こういったフレーズをよく使う上司、マネジャーだと、部下育成は難しいでしょう。「できる部下」なら問題ないでしょうが、「そこそこの部下」だと苦労します。こういった「ぼかし表現」ばかり使う上司は、部下が期待通りの成果を出さないと部下の責任だと勘違いします。

「何度言ったらわかるんだ。もっと積極的にいけと言ってるのに……」

と愚痴をこぼすばかりです。

「具体化」できない上司の問題

私は企業の管理者たちに「もっと行動レベルにまで落とし込んだ表現にしてください」とアドバイスします。すると必ず戻ってくるのが、

「そこまで言わないと、今の子は理解できないんでしょうか?」

という反論です。なるほど、そう反論するなら私も尋ねてみましょう。

「それなら部下の方々にそのような表現を使わなくてもいいですが、あなたが期待している姿を具体的に私に説明してもらえますか。まず『コミュニケーションが活性化している状態』というのは、具体的にどんな状態ですか?」

このように詰め寄られると、ほとんどの人が返答に窮します。

「新規の顧客開拓の徹底とは、具体的にどういうことですか? どのような定義の企業に、どれぐらいの回数、どのようなアプローチをすることで『徹底した』と言えるのでしょうか?」

「もっとお客様に評価されるような商品」という表現もそうですし、「企画部からの全面的な支援」もそうです。

具体的に言えない人がほとんどです。「ニュアンスでわかるじゃないですか」という逃げはやめてもらいたいですよね。具体的に落とし込まれた行動指標が正しいかかどうかは別です。ぼんやりしたものを「具体化」するのにはストレスがかかります。コーヒーカップを壊すようなもの。出来上がったプラモデルをまた分解するようなものだからです。具体化するプロセスそのものが、「破壊行為」だと感じているのでしょう。

コミュニケーションが活性化しているかどうか、新規開拓を徹底しているかどうか、お客様が評価しそうな商品かどうか、企画部が全面支援をしているかどうかは、すべて「何となく」です。ぼんやりとした状態のこと。うまくいっているのであれば、「ぼんやりとした状態」のままでも構いません。しかし、「あるべき姿」から乖離しているのであれば、それをいったん壊す。つまり分解して具体化するのです。

そうすることで、再構築のための行動レベルにまで落とし込むことができます。「ぼかし表現」を繰り返し、具体的な行動指標を示すことができない上司、マネジャーは「具体化ストレス」を抱えていると認識しましょう。このストレス耐性をアップさせないと部下育成を正しくできません。再現性がないからです。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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