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「空気」でお客様を動かすテクニック

横山信弘経営コラムニスト

どうして「アナと雪の女王」はこれほど大ヒットしたのか?

現在、大ヒット中のディズニー映画「アナと雪の女王」は、公開11週目を迎えても、興行成績は好調を維持し、現在、日本における興行収入だけでも185億円を突破しています。日本の興行成績ランキング歴代1位は「千と千尋の神隠し」で304億円。2位は「タイタニック」で262億円。3位が「ハリー・ポッターと賢者の石」で203億円。このままいくと、歴代3位のハリー・ポッターを抜く勢いです。

世界でも、アニメ映画史上最高の大ヒットとなっており、誰もが「なぜここまでヒットしたのか?」知りたくなります。新聞や雑誌、ネットでは、「大ヒットの裏には巧妙な戦略あり」だの「世界各国での緻密なマーケティング戦略が奏功した」だの、いろいろと書かれはじめています。こういう大ヒット作が登場したとき、世間の動き、マスコミの報道に注目すると「マーケティング」の勉強になります。昨年の「半沢直樹」「あまちゃん」の時と同じように、ヒット作の解説・評論は必ず「後付け」となることを覚えておきましょう。

ある作品がしばらく人気を維持し、ブームとなり始めると、その「空気」を察知して、徐々に報道が加熱していきます。「アナと雪の女王」も、興行成績が100億円を突破することが確実になったときから、一斉に「後付けの評論」がスタートするのです。マスコミが煽れば煽るほど、「空気」は「流れ」に変化し、文字通りブームに「火」がついていきます。

私の周囲でも、「アナと雪の女王」を観ないと話についていけないという「空気」が出来上がっています。子どものみならず、大人の男性でも一人で映画館へ足を運んだという人もいます。これは「集団同調性バイアス」という認知バイアスの影響と言えるでしょう。多くの人が支持するもの、多くの人が持つ価値観に「感化」されるということです。私は営業・マーケティングコンサルタントとして、この「同調性バイアス」がどれほど重要かを理解しています。人の購買行動・購買心理に強く影響を与えるからです。そのことを説明するうえで、「同調性バイアス」が関わる3種類のシチュエーションを挙げてみます。

●「個人の空気」でお客様を動かす

●「集団の空気」でお客様を動かす

●「世間の空気」でお客様を動かす

「同調性バイアス」は、同調する「人間」の数が多いこと、同調する「人間」との距離が近いこと、によって影響度が変化します。たとえば、非常に「同調性バイアス」が強い人だと、「今度出た新しいスマートフォン、凄くいいよ。どうしてかって言うと、画期的な機能がついているからなんだ……」と、友人から言われただけで「感化」されます。世間で流行っているのか、多くの人が支持しているのかは関係なく、友人が評価しているというだけで「自分も欲しい」という気持ちになっていきます。

このように比較的「同調性バイアス」が強い人は、営業にとても「良いお客様」となります。相手との関係性を強固にすれば、営業がお勧めするだけで購入する気になる可能性が高いからです。理屈ではなく、買いたいという「空気」がすぐに出来上がってしまうのです。大勢ではありませんが、このように一定の割合で「同調性・共感性」の高い人は存在します。詐欺師の巧みな話術に引っかかりやすい人、とも言えます。

集団になればなるほど「同調性バイアス」は強くなる

多くの人はもう少し「理屈」で物事を考えるはずです。本当に必要なのかどうか。現在の問題を解決してくれる商品なのか。自分を本当に満足してくれるものなのか、を。

ところが前述したとおり、その商品・サービスが世間に広まり、多くの人が評価しているものであれば、それほど「同調性バイアス」が強くない人でも「感化」されていきます。そのような「空気」が人間を媒介して広まるからです。最近では「アナと雪の女王」のようなヒット作もそうですが、「増税前の駆け込み」といった現象も「集団同調性バイアス」を強くする要因です。6月からサッカーワールドカップが始まります。日ごろ、それほどサッカーファンではなくても、世間の空気に「感化」され、ワールドカップを観たり、サッカー日本代表に興味を持ったりする人も増えることでしょう。この「空気」が購買行動に影響を与えます。

さらに「集団同調性バイアス」が強まるのは、先述したとおり同調する人との「距離」が近い場合です。たとえばお祭りへ行ったとき、多くの人が屋台で何かを食べていると、そのような気分になる人は増えます。味と料金のバランスがとれていなくても、集団の「空気」に感化されてしまうのです。観光地でお土産を買う場合もそうです。「世間の空気」というより、間近の人たちの動きに「感化」されるのです。

この一連の流れを、AKB48のコンサートチケットを買う、というシチュエーションで考えてみます。たとえばAKB48の大ファンであるという友人から「ものすごくいいから一緒にコンサートを見にいこう」と誘われたとします。しかしながら、その時はまったくAKB48は世間的に知られておらず、どういうアイドルかよくわからなかったら、「その日は他の用事があるから」などと言って断るかもしれません。どんなに友人からその良さを伝えられても、共感しにくいのです。

それから数年が経ってAKB48の人気が上昇し、周囲でもコンサートへ出かける人が増えていくと「私も行こうかな」という気分になります。世間の「空気」に感化されはじめたということです。そして実際にコンサート会場へ行ってみると、たとえ会場へ行くまでは「コンサートを観るだけにしよう」と心に誓っていたとしても、周囲の熱気に「感化」され、パンフレットやオリジナルグッズを購入してしまうもの。これなどは「集団同調性バイアス」の典型的な影響例です。

「集団同調性バイアス」のいろいろな例

友人と5人で担担麺を食べに行ったところ、店員から「当店はマンゴープリンが名物となっています。担担麺を食べた後にいかがですか?」と言われたとします。他のテーブルでも、ほとんどの人がマンゴープリンを食べているのが目に入り、自分を除く友人4人が「じゃあ、食後にマンゴープリンを」と言うと、ついついその流れに乗って「だったら私も」と言ってしまいます。これなども「集団同調性バイアス」の影響です。

反対のケースもあります。店員にマンゴープリンを勧められ、食べてみたいなと思ったとしても、友人4人がこぞって「私はいいです」「私も担担麺だけで」「私も要りません」などと断っていたら、ついつい「私もいいです」と言ってしまうかもしれません。

このように「距離」が近い人たちが集団を形成し、皆同じ行動をとろうとしていると「感化」される可能性は高まります。企業側は、プロモーション手段を考える際、チラシやDM、ホームページのキャッチコピーなどを駆使し、何とかお客様の購買心理を操作しようとします。しかし、人は無機質な「仕組み」だけで影響を受けるわけではありません。

「商品開発」でも「集団同調性バイアス」はとても重要な概念です。有名な「イノベーター理論」からすると、商品の導入期から衰退期までの中心的購入者は以下のように変遷します。

1)導入期:イノベーター(革新者)約2.5%

2)成長期1:アーリーアダプター(初期採用者)約13.5%

3)成長期2:アーリーマジョリティ(前期追随者)約34.0%

4)成熟期:レイトマジョリティ(後期追随者)約34.0%

5)衰退期:ラガード(遅滞者)約16.0%

商品を市場に導入したとき、「イノベーター」や「アーリーアダプター」だけを味方につけても、多くの場合、潤沢な利益を生み出すことはできません。いかに「アーリーマジョリティ」を味方につけるか。市場を動かし、売れる「空気」を「流れ」に変えれば、「レイトマジョリティ」まで飲み込むことができます。それほど「空気」に影響を受けない「ラガード」は一定数、存在します。しかしそこに焦点を合わせていると正しいマーケティング活動ができません。

市場に受け入れられる「製品」を開発すれば必ず売れる。効果的な「プロモーション」を実施すれば必ず売れる。というものではないのです。いかに「空気」を「流れ」に変えるか、です。

「売れないものを売れる」ようにするのではなく、「売れているものを、もっと売れるようにする」ために、「空気」の存在を忘れてはいけません。そのために、対象となるお客様のみにならず、世間や集団、スタッフが作り上げる「空気」をどのように武器に変えるかを考えていく必要があります。

※参考図書:「空気」で人を動かす

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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