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「アナと雪の女王」大ヒット要因は本当に正しいか?

横山信弘経営コラムニスト

「アナと雪の女王」はなぜ大ヒットしたのか?

大ヒット記録中の「アナと雪の女王」。日本における興行成績が200億円を突破し、さらに記録を伸ばそうとしている現在、評論家たちはこぞって「なぜこの作品はヒットしたのか」というヒット要因を各種メディアで披露しています。雑誌やネットで調べてみますと、今回の「アナと雪の女王」がヒットした要因は「誰もが共感できる普遍的なテーマ」「魅力的なキャラクター、ダブルヒロイン」「素晴らしい音楽、主題歌、歌声」「各国で展開されたローカル戦略」などの要素が挙げられるようです。

確かに、インパクトのある主題歌やダブルヒロインといった要素は魅力的ですが、「2001年宇宙の旅」「ジョーズ」「スターウォーズ」「ジュラシックパーク」「マトリックス」「アバター」等のような衝撃的な映像センスや新しいテクノロジーが展開されたわけでもありません。主題歌が魅力的で大ヒットした映画は過去にも数えきれないほどありますし、王道的なテーマ、ストーリーラインは過去のディズニー映画とも代わり映えしません。

「ダブルヒロイン」や「プリンスとプリンセスが結ばれない」など、他の映画には見られないちょっとした要素はあるかもしれませんが、そのような要素を兼ね揃えていれば、同じようにヒットするかというと疑わしいでしょう。「原因」があって「結果」があるのです。結果から逆算して「原因」を特定するのがプロの仕事です。素人ならともかく、プロの評論家が「ヒット要因」と言う以上、そこそこ再現できなければなりません。吉野家の牛丼を食べたら、その牛丼と同じような味を再現できるレシピを書けないと料理評論家とは言えません。それと同じことです。

とはいえ、こういった「ヒット要因」の分析は必ず後付けで登場するもの。正直なところ「ヒットした後なら、何とでも言える」のです。各国で展開されたプロモーション戦略も特徴的ですが、ローカライズされたプロモーションをガンガンやればヒットするかというと、そんな短絡的なものではありません。たまに「広告費さえかければ、いくらでもヒット作などできる」「電通や博報堂などと結託して意図的にブームを作った」と言う人もいますが、あり得ません。そこそこのヒット作をこしらえることは可能でも、「アナと雪の女王」ほどの大ヒットは不可能です。どんなメディアを使って扇動しても、1000万人以上の人が映画館に足を運ぶなどといった社会現象を意図的に作ることなどできないのです。

断言しますが、これは偶発的に起こったブームです。群集心理を加味しないと間違ったマーケティング分析をすることになります。

商品価値の「ネット」と「グロス」

私たち経営コンサルタントは、お客様の現場に入り、結果を出さなければなりません。求められるのは「再現性」。コンサルタントが過去に起こった出来事に「意味づけ」をする評論家やコメンテーターでは何の役にも立たないのです。経営者が期待するリターンをコンサルタントは実現しなければならないため、常にどうすれば「売れるか」を考えています。安定して結果を出す方策を工夫することが仕事だからです。

私は商品価値を「ネット値」「グロス値」とに分けて捉えています。特にヒット商品はそのように分析しないとマーケティングリスクが発生します。「世間の空気」の影響で、実力以上の力を発揮した商品の価値をそのまま評価するわけにはいきません。「アナと雪の女王」は現時点で約200億円の興行成績です。これは「グロス値」。しかし「世間の風」に煽られ、価値が膨れ上がっていることは事実ですから、その分を差し引いた「ネット値」を算定しないといけません。

その尺度となるのが、「アナ雪」と同じようなヒット要因を備えた作品の動向です。似たような作品が今後どれほどの成績を出すかで「ネット値」を概算できるようになります。そういった作品が日本において200億ほどの成績を出せなくとも、50億とか70億ぐらいの興行成績なら立派です。まさに「普遍的なテーマ」「素晴らしい主題歌、楽曲」「ローカルプロモーション」等が現代のヒット作に必要な要素、と言えるかもしれません。

昨年大ヒットしたテレビドラマ「半沢直樹」は記憶に新しいと思います。同じような「ヒットの要因」を備えた「ルーズヴェルト・ゲーム」が4月から始まっています。「半沢直樹」は最終回で42.2%の視聴率をたたき出したお化け番組。「半沢直樹」がヒットしている最中も、なぜこのドラマがこれほど支持されるのかという要因分析はアチコチで披露されていました。「ルーズヴェルト・ゲーム」がそこまでのヒットをしなくても、制作サイドが満足するそれなりの視聴率を稼いだら、やはり評論家の見解は現代のヒット作に必要な要素を言い当てていた、ということになります。そうでなければ、単に「たまたま風が吹いただけ」というかもしれません。今後に注目したいですね。

ちなみに私自身は、「アナと雪の女王」をまだ観ていません。しかし「半沢直樹」は最後の2回だけ鑑賞しました。テレビドラマを観たなんて10年ぶりぐらい、というほどドラマに興味のない私ですが、そんな私でさえ観たのです。理由は「世間の空気」に感化されたからです。子どもたちは「倍返しだ!」と毎日のように流行語を口にしますし、職場でもお客先に行っても「半沢直樹」の話題が出ます。何となく「観たほうがいいのかな」「観ないといけないんじゃないか」という空気に動かされてしまったのです。そんな私ですから、当然のことながら「半沢直樹」以降、一度もドラマを観ていません。「ルーズヴェルト・ゲーム」が「半沢直樹」のヒット要因を兼ね揃えていると知っても、そもそもドラマ自体に興味がないのですから鑑賞することはありません。マーケティング分析をする場合、私のような視聴者がどれぐらい存在し、「半沢直樹」の視聴率を押し上げたのかを概算できないと、商品の実力値を推し量ることは難しいのです。

その他の大ヒット商品

「もしも高校野球のマネージャーがドラッカーを読んだら」というビジネス書があります。この通称「もしドラ」は、200万部を超える空前の大ベストセラーとなり、元AKB48の前田敦子さんが主役を演じるなど、映画も注目を集めました。当時も「なぜ『もしドラ』はこれほどまでに読者の心をつかんだのか?」という考察がアチラコチラで見られました。「萌え系の表紙」「特徴的な長いタイトル」「物語調のビジネス書」「ドラッカー」……いろいろなヒット要因が挙げられ、これを追随した書籍が、その後かなりの数、世間に出てくることになりました。しかし残念ながら、追随した書籍の中で目立ったベストセラーは出ていません。前述した要素がヒット要因ではなく、たまたま切り口が「新しかった」「斬新だった」からウケた、というだけだったのかもしれないのです。

長い間、マーケティング活動をしている人なら理解できるでしょうが、どんなに頭をひねらせて商品開発しても、プロモーション活動に投資しても、思惑通りにいかないことばかりです。「まさかこんな商品が売れるとは思わなかった」「なぜこんな宣伝方法が注目されるか理解できない」……ということが多々あるのです。「ふなっしー」のように非公認のゆるキャラが今後も成功を収めるかというと、おそらくあり得ないでしょう。突然変異で出てきた人気者に「再現性」のあるヒット要因を見つけるのは困難です。マーケティングのプロであればあるほど、「こうすれば確実にうまくいく」「これで絶対にヒットできる」とは言えなくなるものです。

「おニャン子クラブ」「モーニング娘。」「AKB48」等、大人数のアイドルは、それなりに分析する価値はあります。時代が変わっても、一定の成功を収めているのは明らかであり、再現性のある「ヒット要因」が内包されている可能性が高いからです。ヒットの要因を分析し、個性という名のスパイスをかけることで、人気グループを製作しプロデュースすることは可能かもしれません。

私たち経営コンサルタントができることは、商品の「ネット値」で採算が出る戦略を立てることです。一定以上のヒットが約束されないと赤字が出るようなプロモーション戦略はすべきでありません。とはいえ、それだと夢のない話です。次回のコラムではどのようにして群集心理を味方につけ、「世間の空気」で人を動かすのか、考えてみたいと思います。

※参考図書:「空気」で人を動かす

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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