「残業代ゼロ法案」を真剣に考えるためには1ヶ月以上サラリーマンをすべきである
残業代ゼロ法案(ホワイトカラー・エグゼンプション)に関する議論が白熱しています。政府は産業競争力会議にて、成果に応じて賃金が決まる新たな労働時間の制度について議論していますが、この法案に対する批判的な見解が多種多様な場所から湧き上がっています。
現在、「高度な専門性を持つ人材」「将来の幹部候補」「一定の専門性を有する者」……と、残業代がゼロになる対象者が、広がったり狭まったりしながら議論が進んでいき、少々わかりづらくなっています。一番気にしなくてはならないサラリーマンたちも詳しく調べないと、議論の向かう先がどこなのか判然としません。
私は現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。従業員の行動を変革させ、結果を出してもらいます。そのとき必ず浮き彫りになる問題が「労働時間」。これまで「5」だったものを「3」にするとか、「10」だったものを「12」にするとか、そういうレベルの改革ではなく、「二等辺三角形」だったものを「五角形」にするといったドラスティックな変革を私たちは促します。そのため、どうしても残業時間の改善が不可欠となってくるのです。
残業は野球で言うところの「延長戦」。毎試合「延長戦」することが当たり前になっている企業がお客様を満足させられるわけがありません。しかし、なかなか残業というのは減らないものです。なぜかというと、残業は企業文化だからです。これまで現場に入って組織改革を進めてきた経験から断言できます。
「残業ゼロ代法案」に反対する識者の中に、「残業代をゼロにすればいいのではなく、無駄な仕事や非効率的な作業を抽出し、定時内に仕事がおさまるよう、業務の効率化を図っていくことだ」と提言する人がいます。こういう人には、ぜひとも一般企業で1ヶ月ほど部長職や課長職を経験してもらいたいと私は思います。「空気」で人を動かすに書いたとおり、
● 残業しても許される「空気」
● 残業したほうが頑張っていると評価される「空気」
● 残業するのが「あたりまえ」だと信じて疑わない「空気」
がオフィスにある限り、「無駄な残業」を減らすことなどできません。理屈で残業が減らせると思ったら大間違いです。「一貫性の法則」というものがあります。人には、過去の言動を一貫して正当化したくなる心理バイアスが働くものです。「無駄な仕事はないか? あるなら列挙してほしい」と上司や外部のコンサルタントに言われても、現場の人は「吟味してみましたが、意外と少ないです」と主張するに決まっています。現場で組織改革する身としては、綺麗ごとはもうたくさん。論理的な手法で残業を減らすことができるならとっくの昔に解決しています。少し考えたらわかるはずです。生産現場(ブルーカラー)は世界トップレベルの効率化を実現しているのに、オフィスワーカー(ホワイトカラー)の生産性は最悪のレベル。日本人が頭悪いからではありません。理屈ではなく「残業するのが当たり前という空気」の存在が元凶だからです。日本人は空気に感化されやすい人種なのです。
残業を絶対になくすには「残業ゼロ」を100%実現させる手順に書いたとおり「強硬策」しかありません。「絶対に定時内に帰ってもらう」「18時にオフィスを施錠する」などと物理的な制約を設けないことには「空気」は変わりません。経営トップが断行することで、本気でスタッフたちは考えるようになります。
長年現場でコンサルティングを実施してきて痛感することがあります。とりわけ大企業の中間管理職は「無駄な会議」「意味のない資料作り」に翻弄されている事実です。「現地現物」を見ず、「現場」に足を運ばず、パソコンの前で資料を作ったり、メールをチェックしたり、会議室の中であーでもないこーでもないと議論ばかりしているのです。その実態を目の当たりにしてきたコンサルタントとして言えることは、「残業代ゼロ法案」を会議室の中で議論していても埒が明かないということです。企業を視察しても意味がありません。実際に1~2か月、中間管理職を経験すれば、日本の企業にどのような「空気」が蔓延しているのか肌で感じとることができるでしょう。会議室の中で制度について議論し、その議論の内容を紙面で確認して反論ばかりしていても、何も解決しません。
※参考図書:「空気」で人を動かす