Yahoo!ニュース

3種類の「表情」で人を動かす技術

横山信弘経営コラムニスト

人を動かそうとしたとき、多くの人はどんな手段をとるでしょうか。どのような「武器」を使って、相手を動かそうとするでしょうか。多くの人は「言葉」と答えるだろうと想像します。親が子供を動かすとき、上司が部下を動かすとき、営業がお客様を動かすとき……いろいろなシチュエーションで「言葉」を使い、人は人を動かそうとします。

しかし、「口下手をマジメに克服・直す方法」に書いたとおり、実際には「言語」的なものより「非言語」的なもののほうが心理的インパクトが強いのです。知らない相手と、

● 実際に会ってコミュニケーションする

● 電話でコミュニケーションする

● メールやチャットでコミュニケーションする

……の3種類で考えたとき、面と向かって話すときが一番緊張することでしょう。「言語データ」以外の「非言語データ」の割合が最も多くなるからです。コミュニケーションの最中に「言語データ」以外の情報があまり挿入されない、ネット経由のコミュニケーションだと、あまり緊張しないせいで、ついつい横柄な態度になってしまうのもそのせいです。

「非言語データ」は、表情、姿勢、語調、声のリズム、行動の量とスピード……など、多岐にわたります。この中で最もインパクトが大きいのが「表情」。「顔」なのです。テレビCMに芸能人が出てきても「顔」が映っていないのであれば、その価値はほとんどありません。たとえばCM起用が多いアスリートとして香川真司選手と本田圭佑選手がいます。(2014年の上半期CM起用社数がどちらも8社にのぼる)サッカーの実力もさることながら「顔が売れている」から起用されるのです。どんなに実力があっても、「顔」の認知度が高くないとCMの価値は高くなりません。

また、人に「心理的インパクト」を与えるには、ギャップを創造することが重要です。何かと何かとを相対比較してギャップがあったときに人は驚きを覚えます。まとめると、ギャップのある「表情」を作ることで、人に強い心理的インパクトを与え、動かすこともできるということです。

次に、表情の種類について解説します。表情は大きく以下の3種類に分けられます。

■ オープンフェイス

■ ニュートラルフェイス

■ クローズドフェイス

「オープンフェイス」とは、笑っている表情、心を開いて微笑んでいる表情のことです。緊張感を緩め、周囲にリラックス感を与えます。「ニュートラルフェイス」は素の表情です。何も意識せずにいるときの表情であり、周囲に対して影響を与えづらいと言えます。「クローズドフェイス」は、真剣な表情、厳しい表情です。周囲に緊張感を与えます。

ここで重要なことは、この3種類を使い分けることができるか? ということです。「できる」と思った人は、どうぞ心を許せる人の前で実演してみましょう。

「それで笑っているつもり?」

「普通の顔なのに、怒っているように見える」

などと言われることはありませんか? 「オープンフェイス」「ニュートラルフェイス」「クローズドフェイス」と、本人が表情を変化させているつもりでも、他人がそれぞれを識別できないケースがあります。特に日本人(東洋人)は表情に乏しく、西欧人などから「表情がない」と言われるなど、かなり意識して表情を作らないと、表情が変化したことを相手に伝えることは難しいことでしょう。

この3種類を使い分ける達人は、何と言ってもタレントの有吉弘行さんです。有吉さんが本気で毒を吐くとき、「ニュートラルフェイス」から「クローズドフェイス」へと表情が一変します。言葉の中身も刺々しいですが、表情にも迫力があります。しかし有吉さんの凄いところは、毒を吐いたあと、「ニュートラルフェイス」を通り越し、一気に「オープンフェイス」へと表情を変化させることです。愛くるしい有吉さんの笑顔が、言葉の毒を中和します。有吉さんはラジオにも出演されますが、やはり表情が映し出されるテレビのほうがその魅力をより視聴者に伝えられることでしょう。

私は営業コンサルタントですから、営業や販売スタッフに「話し方」の研修をする際、表情についてもかなり指導します。しかし、難しいですね。舞台役者になったつもりで表情を作ってもらわないと、周囲には伝わりません。それでは、営業や販売員がお客様を動かすときに、どのように表情を作ればいいかをシチュエーションごとに「4種類」解説していきまます。

● お客様との単純接触・製品説明・商談……等は「オープンフェイス」。柔らかい笑顔で対応する。

● お客様への(比較的強い)クロージング……等は「クローズドフェイス」。製品説明を「オープンフェイス」でしているので、真剣な表情に変化したときに「ギャップ」が生まれ、相手にインパクトを与えられる。

● お客様からお断りされたとき……等は「ニュートラルフェイス」。残念であろうが苦々しい表情をしない。つまり「クローズドフェイス」をしない。

● お客様から注文をもらったとき……等はもちろん「オープンフェイス」。それもとびっきりの「オープンフェイス」をすべき。微笑みではなく、強い喜びを感じているという表情をする。

営業とお客様との「心の摩擦値」を取り除くため、まずは柔らかい「オープンフェイス」で接し続けます。そして「ここぞ!」というときに「クローズドフェイス」でグッと押します。摩擦抵抗がなくなってから押すことが重要です。

またお客様からお断りされたとき、「オープンフェイス」で対応するのは変です。お客様が商品を検討したうえで、勧めてくれた人にお断りを入れるのは気が引けるもの。「悪いな」「申し訳ないな」と感じるものです。にもかかわらず営業に「全然問題ありませんよ」と笑顔で応じられたら、「買うと期待してなかったのだろうか」「売れないのが当然みたい」と感じ、お客様はしっくりこないことでしょう。

わかりやすくするために、住宅メーカーの営業とお客様とのやり取りを紹介します。

お客様:「何度もお打合せをし、これまでに何パターンをも間取りを作ってもらい、ありがとうございます。ローンの申請についても助言をいただきましたので言いづらいのですが、どうしても父が反対するので、しばらく2~3年、家を建てるのを延期しようと思うのです。本当に申し訳ありません」

営業:「あ、そうなんですね。ははは。かしこまりました! それじゃあ、そういうことで。またよろしくお願いします。ありがとうございます!」

と、満面の笑みで答えられたらお客様は驚きます。「どうしてそんなに明るく振る舞えるんだろう」と違和感を抱くことでしょう。だからといって、営業が肩を落とし、明らかに落胆した表情を見せるのもよくありません。もちろん、

営業:「ええええっ! 買ってくれると思ってたのに、ウソでしょう? こんなに私が頑張ったのに、今さらそれはないじゃないですかァ。あーあ……信じられない」

……と、「クローズドフェイス」でお客様を責めるなんて、もってのほか。当然、営業や販売員は期待するわけですから、断られると残念な気持ちになります。しかし、このときばかりは相手を安心させるために「ニュートラルフェイス」で対応します。

営業:「あ、そうなんですね……。かしこまりました。でも、そんなお気になさならなくてもけっこうです。こちらこそ、何度もお宅へお邪魔してご迷惑をおかけしました。また何年先でも構いませんから、家を建てるときはまた当社をご検討いただけると嬉しいです。お子様のA君にもよろしくお伝えくださいね」

わかりやすくするために文章で書いていますが、重要なことは「表情」です。言葉が同じでも「表情」が険しいと、相手は居心地の悪い感覚を覚えます。

お客様に対する表情で、最も重要なシチュエーションはこの断られたときです。「しかめっ面」「苦々しい顔」など、「クローズドフェイス」をしたくなるのをグッとこらえて、余裕のあるところを見せましょう。そうすることで、その人からの注文はなくとも、他のお客様を紹介される可能性があります。たとえ商材が良くても、営業の対応にしっくりこないと、紹介したい人がいても、紹介する気持ちが萎えます。

お客様からご注文をいただいたときは、もう飛び上がるような喜びを表現するといいでしょう。そのレベル感は、営業にかけたコストに比例させることです。前述したような、一戸建て住宅の注文をいただくためには、相当な営業努力をしているはずです。労力をかけた分、こみ上げる喜びを隠し切れないという表情をするのです。

営業:「そう、ですか……。決めてくださったんですね……。いやァ……」

ここで絶句――。そして、深々と頭を下げます。

営業:「いやァ……本当に、嬉しいです。本当に、ありがとうございます。なんか……言葉にならないですね。……ありがとうございます」

さらに大げさに、天井を仰いだりして、

営業:「お客様には、関係ないことですが……。今日、私の3歳の息子の誕生日なんです。……息子に、すごくいい報告が、できます……。本当に、本当に、ありがとうございます」

さらに、深々と頭を下げます――。

……とまァ、現実にはここまで大げさにしなくてもいいのですが、お客様は重大な決断をするわけですから、その決断が大きければ大きいほど、営業が喜んでくれることを期待しているものです。ですからお客様から

お客様:「そんなァ、大げさなこと言わないでくださいよー」

と言われるぐらいに喜ぶことが重要です。反対に、営業コストがそれほどかかっていないのなら、軽く喜ぶぐらいでいいのです。次の居酒屋の店員とお客様との会話を読んでみてください

お客様:「すみません、何かお勧めの魚あるかな?」

店員:「そうですねェ、今日はハマチとヒラメがお勧めですが」

お客様:「だったらハマチ、もらおうかな」

店員:「ええっ! ハマチを……。あ、ありがとうございます……」

お客様:「ど、どうしたんですか?」

店員:「いやァ、ありがとうございます……。お客様には、関係ないことですが……。今日、私の3歳の息子の誕生日なんです。……息子に、すごくいい報告が、できます……。本当に、本当に、ありがとうございます」

店員のこんな演技は、お客様との間におかしな空気を作ります。ですから、

店員:「ハマチですね。かしこまりました。ありがとうございます!」

……と、満面の笑みで答えるだけでいいのです。さらに、営業とお客様との間に「良い空気」ができあがれば、その「空気」が「流れ」を作ります。

お客様:「すみません。先ほど言っていたヒラメももらっていいですか?」

店員:「ヒラメですね、お客様。かしこまりました! ありがとうございます! ついでに、マグロもどうですか。当店のマグロは超おススメですよっ」

お客様:「それじゃあ、それももらっちゃおうかな」

店員:「本当ですか!? ありがとうございます!」

お客様:「ビールも2本追加ね」

店員:「ありがとうございます! ビールも2本追加。すぐにご用意いたします。ありがとうございます!」

表情を文章で表現できないので残念ですが、お客様からの追加注文があるたびに、店員の表情が喜びにあふれていきます。お互いが共有する空気が変わってくるのです。

ところが……。

ビールを持ってきたのが他の店員で、しかもその店員が無表情。

別の店員:「申し訳ありません。ヒラメが切れてしまったんですが、どうしましょうか」

と言ってきたらお客様はどんな気持ちになるでしょうか。さらにその店員は無表情のまま、

別の店員:「マグロの注文が入ってますが、マグロだけでいいですか」

などと言われると、調子に乗って注文したわけですからお客様は我に返ります。

お客様:「うーん、ヒラメがないなら、ないでいいです。マグロも……別にいいです」

別の店員:「え? マグロの注文を取り消すってことですか?」

お客様:「う、うん。マグロも、もういいよ」

別の店員:「そうなんですね。じゃあマグロは取り消しですね」

終始、無表情で接する店員が相手になったとたん、盛り上がった空気も急激に冷え込んでしまいます。営業や販売員は、言葉も大切ですが「表情」の変化で人を動かすことができます。芸能人よりも身近な存在ですと、高級ホテルや高級レストランで働くスタッフの表情を観察してみましょう。飛行機の客室乗務員の表情も、とても豊かで参考になります。「ちょっとやり過ぎかな」と思えるぐらいに表情を作ることがコツです。そうしないと「ギャップ」を創造できないからです。

【参考図書】

「空気」で人を動かす

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

横山塾~「絶対達成」の思考と戦略レポ~

税込330円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

累計40万部を超える著書「絶対達成シリーズ」。経営者、管理者が4万人以上購読する「メルマガ草創花伝」。6年で1000回を超える講演活動など、強い発信力を誇る「絶対達成させるコンサルタント」が、時代の潮流をとらえながら、ビジネスで結果を出す戦略と思考をお伝えします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

横山信弘の最近の記事