「よく言うじゃないですか」という口癖にはご注意!
「よく言うじゃないですか」と、よく言う人がいます。
たとえば、
「よく言うじゃないですか、『風邪は人にうつすと治る』って」
「よく言うじゃないですか、『ワカメを食べると髪の毛が早く伸びる』って」
「よく言うじゃないですか、『酢を飲めば体が柔らかくなる』って」
……等と、いわゆる「迷信」めいたもの、
「よく言うじゃないですか、『早起きは三文の徳』って」
「よく言うじゃないですか、『情けは人の為ならず』って」
「よく言うじゃないですか、『貧乏暇なし』って」
または、「ことわざ」や「教訓」めいた事柄を言うときに使うフレーズです。論拠に乏しくとも、多くの人が同じように思っていることを、このような表現で訴えるのです。
「よく言うじゃないですか、『牛乳を飲むと背が伸びる』って」
「ああ、確かに。ウチの子ども、背が低いからもっと牛乳を飲ませようかな」
と、こんな感じに使います。
「よく言うじゃないですか」のフレーズは、誰もが100%そのように思うわけではない、でも「言われてみるとそうだな」と反応が返ってきそうなケースにのみ使われます。
つまり、ほぼ100%実現することや、ほとんどすべての人がそのように思うことを、このフレーズを使って話すと、
「よく言うじゃないですか、『スイッチを入れたらテレビがつく』って」
「よく言うじゃないですか、『太陽は東から昇る』って」
このように、おかしな感じになります。
友人との間の軽い雑談で使用する場合ならともかく、相手が真剣に悩んでいるときに言われると、ちょっとイラつきます。たとえば、
「最近、なかなか風邪が治らないので、他の病気かもしれないと思い始めたんだ。大きな病院へ行ったほうがいいのかな」
「そんなに思いつめるなよ。よく言うじゃないか、『風邪は人にうつすと治る』って。人にうつせば、風邪なんてすぐに治るさ」
マジメに相談しているのに、このように返されたらムッとしますよね。問題と真摯に向き合っているとき、重要な意思決定をしようとしているときに、このフレーズが出てくると、誠意に欠けるレスポンスをされたと多くの人は受け止めることでしょう。
私は現場に入って、目標を絶対達成させるコンサルタントです。現場にいると、現在直面している問題をどのように解決すればいいか、みな真剣に悩んでいます。しかし、そのようなシリアスな局面でも、無意識にこのフレーズを使う人がいます。意思決定のための論拠は、客観的なデータに基づく事実でなければなりません。100%正しい論拠は存在しないため、当然100%正しい意思決定などないのです。しかし、精度の高い「仮説」を立てるためには、信頼性の高い論拠で決断すべきです。
ビジネスの現場においてのパターンをいくつか検証してみます。
「よく言うじゃないですか、『景気が悪くなると設備投資を控える』って」
この論拠は信頼性が高いように聞こえます。実際に10年単位で、過去の統計データなどを調べれば「景気が悪くなると、相対的に設備投資を控える企業が増える」ことが判明するでしょう。
「景気が悪くなると設備投資を控える」……だから……「この業界の株は今後下降していくかもしれない」という主張は、受け入れられるかもしれません。
ただ、「景気が悪くなると設備投資を控える」……だから……「わが社の設備が売れないのは仕方がない」という主張をするのは、間違っているかもしれません。個別事象を追っていかないと、正当な判断ができないからです。このように、シチュエーションによって、その論拠の信頼性は変わってきます。
問題なのは「一見正しそうで正しくない」論拠です。
「よく言うじゃないですか、『やる気を出させるには、給料をアップするのが一番』って」
言われてみると、そのように思える人も多いでしょう。しかしこの論拠は間違っています。やる気をアップさせるためには金銭的報酬のみならず、「承認」「評価」「信頼」といった社会的報酬も重要な要素だからです。
このように、ある一部分だけの事象に焦点を合わせ、全体を決めつける表現を「早まった一般化」と呼びます。これは「強い先入観」「知識不足」等が起因しています。客観的なデータを集め、信憑性の高い論拠を探す手間が面倒なのか、このような思い込みで意思決定をする人は、ビジネスの現場に多数存在します。
「よく言うじゃないですか、『最近の若い人は、リスクをおかさない』って」
「よく言うじゃないですか、『関西人は必ず値引き交渉をする』って」
重要な意思決定をするときでも、「この業界は保守的な人が多い」「うちのお客様は安ければ買う」等と、本当に正しいのかどうかわからないような論拠を持ち出し、先入観だけで意思決定をしてしまうことが多々あります。
また、
どう考えても正しくない論拠を持ち出す人も、たまにいます。
「よく言うじゃないですか、『高学歴な人ほどすぐ会社を辞める』って」
このように言われると、社交辞令であっても同意できません。
「そんなことはないでしょう」と反論すると、「いや、そうなんですよ。わが社でも、高学歴なヤツほど、2~3年で辞めていくんです」などと大真面目に答える人がいます。
その方が他の同僚に同意を求めると、「そうそう。うちの部でも、慶応大学を卒業して入社したのが、1年で辞めていきましたから」などと答えます。
他の同僚も、「私の親戚でも、東大を出たのにもかかわらず、転職を繰り返しているのがいますよ」などと言うと、やっぱり「高学歴な人ほどすぐ会社を辞める」んだな、という結論に落ち着くのでしょう。なんて無邪気な人たちなんだ、と私は思います。自分の周りの人が、たまたまそうだからといっても、このような「早まった一般化」は避けるべきでしょう。(「早まった一般化」というより「早まりすぎの一般化」のように聞こえます)
「よく言うじゃないですか」というフレーズは、雑談をしているときに使うと話が盛り上がりますが、正しく意思決定したいときは、あまり使用すべきではありませんね。シチュエーションによって注意が必要です。