まとまる話もまとまらない……「話がこじれる」3つの原因とは?
話をまとめるためには、誠実な姿勢・態度が重要です。理不尽な接し方で話をしていると、まとまる話もまとまりません。理不尽の反意語は論理的・合理的です。特に、すぐ「否定から入る人」は注意したほうがいいでしょう。感情を抑え、理路整然と話ができるように意識してもらいたいです。
「否定から入る人」の理不尽な反論は、以下の3つの特徴を含んでいます。覚えておきましょう。
■ 話の中のある言葉(キャッチワード)を特定し、そのキャッチワードから反論を展開する
■ 前提条件を無視するか、勝手に修正して否定を試みようとする
■ 全否定でなく部分否定
それでは、具体的な事例を紹介しながら解説していきましょう。妻と夫との会話です。この会話に行きつくまでの経緯を知っておいたほうが理解が深まるので、事前に提示しておきます。
1)18歳の娘が1年間、海外留学したいと言いだした。
2)両親(夫と妻)は1年は長すぎるので短期の留学ならいいと合意した。
3)親子で留学先はどこがいいか考えたが、よくわからなかった。
4)信用のおける専門機関の説明会に妻が行って話を聞くことになった。
そして、説明会を聞きに行った妻が夫に、以下の話をしたとします。ここから会話がスタートします。話はまとまるでしょうか?
(A)「娘の短期留学先のことだけど、説明会を聞きにいったら、やっぱりロサンゼルスが一番じゃないかと思うの。アメリカの留学先都市ランキングでも1位で、空港出迎えサービスもあるし、日本語が通じるスタッフもいるようだし。ほら、この学校なんてビーチも近いしロケーションも最高でしょ?」
夫は「それで、いくらかかるんだ?」と質問します。妻が「1ヶ月半だと、ホームステイ料金も含めて70万円ぐらいかな。渡航費を含めると最低でも100万円はかかると思う」と答えます。
この時点で夫は強い違和感を覚えます。一気に「否定モード」に突入し、どう否定しようか、思い巡らせはじめました。しかし妻の話を一語一句漏らさずに認知していたわけではありませんから、印象に残っている言葉を活用して否定することを試みます。この否定のキッカケを作る言葉を、ここでは「キャッチワード」と呼びます。
最初に夫が試みる「否定」は、以下のようなものです。キャッチワードは「ロサンゼルス」。
(B)「ロサンゼルスって危険じゃないのか? 高校は卒業したが、まだ18歳の女の子だぞ。そんな危険な街に一人で行かせるなんて、心配でしょうがない」
この「反論」は表面的に繋がっているように受け止められます。しかし、論理的には繋がっていません。なぜなら「ロサンゼルス=危険な街」という夫の先入観が反論の土台となっているからです。「論拠」は「意見」ではなく「事実」でなければなりません。
夫から「意見」で反論された妻は、当然「事実」を使って言い返します。(この時に「意見」を使って言い返すと、お互い感情的なやり取りになってしまい、すぐに話がこじれます)
(C)「さっき言ったように、ロサンゼルスはアメリカで一番人気のある留学先なんだって。その理由のひとつに、昔から日本人留学生を受け入れてきた歴史があるから、トラブルにはなりにくいのよ。説明会で講師の方がそう言っていたんだから」
妻は冷静に、自分の意見ではなく、専門家が言っていた「事実」を使って言い返します。妻のこの反論に対し、何とか否定したい夫は、別の「キャッチワード」を探すことになります。それが「説明会」です。
(D)「その説明会っていうのは、本当に信用できるのか? お前は専業主婦をしているからわからないだろうが、企業っていうのは儲けたい気持ちしかないんだ。ランキング1位の都市だというが、そこに留学させることで一番儲かるからお勧めするんだろう。お前、騙されてるんじゃないのか」
夫は話しながら感情的になったのでしょう。何としても否定したいという気持ちが強すぎるのか、制御が効かなくなっています。前日の夜に、娘の留学先はどこがよいのかわからないので、実績もあり、最も信頼のおけそうな機関の説明会で、妻が話を聞いてくると夫に伝えています。夫も、
「3人でどこかがいいか悩んでいても仕方がないから、専門家の意見を聞いたほうがいいだろう」
と、合意していました。したがって、「その説明会っていうのは、本当に信用できるのか?」という反論は、共通認識のはずの「前提条件」を覆す言い方です。当然、妻としてはカチンとくるでしょう。さらに、「お前は専業主婦をしているからわからないだろうが、企業っていうのは儲けたい気持ちしかないんだ」は稚拙な主張です。「企業っていうのは儲けたい気持ちしかない」というのは「事実」ではなく思い込みによる「意見」です。この夫の「意見」を理解できないだろう「論拠」が「お前は専業主婦だから」。よほど感度が鈍い人でない限り、無視することが難しい暴論と言えるでしょう。さらに「ロサンゼルスに留学させることで一番儲かる」というのも先入観による「意見」であり、「一番儲かるからお勧めするんだ」というくだりにいたっては「空想」が含まれています。最後の「お前、騙されてるんじゃないのか」という投げかけは、ほぼヤケクソになって言い放ったとしかいいようのない捨てゼリフ。これまで「事実」を積み重ねて誠実に話をしてきた妻にとっては、すぐに反論する気が起こらないほど「話にならない」言い方です。
それでも、妻が冷静に「事実」をもって反論したとします。
(E)「ロサンゼルスに留学させることが一番儲かる、みたいな言い方をしてるけど、他の人気都市のニューヨークやボストン、サンフランシスコとかも料金はほとんど同じよ」
こう言われてしまうと、「ランキング1位の都市だというが、そこに留学させることで一番儲かるからお勧めするんだ」という夫の言い分は通用しなくなります。結局、先入観による「意見」を拠り所に主張をすると、「事実」を明示された時点で反論の芽が摘まれてしまいます。はじめから、
「100万円なんて高いじゃないか。そんなにお金がかかるとは思わなかったよ。もっと安い料金の留学先はないのか」
と正直に言っておけばよかったのです。しかし別の論拠を選択して否定を繰り返してきたため、夫は今さらこの主張ができなくなっています。さらに意固地になって否定するのであれば、ちゃぶ台をひっくり返すような反論しかできません。
(F)「そもそも、まだ18歳なのに海外留学なんかさせていいのか? もう一度考え直したほうがいい」
と、最大の「前提条件」をひっくり返すしかありません。18歳の娘が1ヶ月半の海外留学へ行くことは親子の間ですでに合意がとれているわけですので、夫のこの意見は支離滅裂です。言われた妻はこう言うしかありません。「やってられない」「話にならない」「もう私、知らない」「あなたが娘に言ってよ」。
最後に「支離滅裂」と書きました。「支離滅裂」の反意語が「理路整然」です。会話のやり取りを、上から俯瞰するような感覚で、理路整然と話をしていかないと、まとまる話もまとまりません。
妻に「100万円はかかると思う」と言われてすぐに、
「100万円なんて高いよ。もっと安い料金の留学先はないのだろうか」
と言っておけば、妻も「もっと安い留学先を考えたほうがいいのかしら」と建設的な意見を返すことができます。
(G)「目的が英語の学習と異文化への興味なんだから、東南アジアでもいいはずだ。フィリピンやシンガポールといった近場でも、レベルの高い英語学習ができると聞いたよ。リゾート地も近いしな。もう少し調べてみないか」
夫がこのように言えば、いったん話はまるく収まります。妻の話を否定しているのではなく、別の選択を「提案」をしているからです。娘さんが「目的は英語の学習と異文化への興味」と言っているのであれば、「東南アジアでもいいはず」という夫の主張は論理的に正しく、筋が通っています。いっぽう「フィリピンやシンガポールといった近場でも、レベルの高い英語学習ができると聞いたよ。リゾート地も近いしな」というのは夫の「意見」です。思い込みということもありますから、「事実」を調査しなければ判断できないため、「もう少し調べてみないか」と夫は提案しています。話に一貫性があります。
これに対し、妻が「東南アジアで英語が勉強できるはずがないでしょう。それにあの子だってアメリカへ留学したいに決まってるわ」と言い出したら、話がまとまらなくなります。夫の提案を思い込みによる「意見」で否定しているからです。
妻も論理的であれば、(G)の提案に対して「そうよね。とにかくあの子と話し合って、もう少し調べてから結論を出しましょう。焦る必要はないわ」と言えば話がこじれることはありません。
ここまで解説してきたとおり、とにかく思い込み・先入観による「意見」が、話をこじれさせる主因です。まとめると、話がこじれる原因は3つあります。
●「結論」が先にあり、後付けで「論拠」を偽造する
●「事実」ではなく「意見・空想」を「論拠」に用いる
●「結論」に固執して感情的になる
どうして感情的になってしまうかというと、相手を尊重していない態度・姿勢も要因でしょう。「事実」を重ねて話をしている人に対して、ただの「意見」を使って否定すると、話がこじれやすいと言えます。相手を尊重する気持ちが大事ですね。