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SNS利用による「ソーシャル疲れ」を回避するコミュニケーションのとり方

横山信弘経営コラムニスト

「ソーシャル疲れ」とは、フェイスブック(Facebook)やツイッター(Twitter)などのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で、他者とのコミュニケーションに疲れること等を意味します。フェイスブックやツイッターをやっていると、多かれ、少なかれ、経験することでしょう。リアル社会でも、コミュニケーションで疲れることはあるわけですから、あまりナーバスに受け止めないほうがいいのかもしれません。

SNS等のネットの世界と、リアルの世界とを比べたとき、コミュニケーションをするうえで気を付けるべきポイントが異なります。今回はこのポイントを「話が噛み合わない」要因分析をしながら解説していきたいと思います。話が噛み合わない理由はいくつかあり、そのうえで最も大きな原因と言えるのは「前提条件」の相違です。「前提条件」としては、

1)スタンス

2)知識

……の2種類があります。今回は前提となる「知識」について解説していきます。「話し手」と「受け手」の間で、話が噛み合わないのは、「受け手」が前提となる知識を知らないケースが非常に多いのです。次の会話文を読んでみましょう。

A:「ミクシィって、今後どうなるのかな。株を買おうか迷ってるんだ」

B:「どうなんだろう。私は『買い』だと思わないよ」

A:「そうかァ。これから、さらに上がりそうな気がするんだけどな」

B:「ひとつの時代は築いたけどね」

A:「でも、まだまだブームは続くと思う」

B:「ブーム? ミクシィが? 最近、全然聞かないじゃんか。みんなフェイスブックに乗り換えてるだろう」

A:「……え、何を言ってるんだ」

B:「ミクシィだろ」

A:「そうだよ」

B:「SNSのミクシィだろ?」

A:「ひょっとしてお前、『モンスト』を知らないのか」

B:「モンスト? モンスターストライクって、ミクシィが作ったゲームなの?」

A:「そうだよ。今年の夏、連日ストップ高だっただろう。1ヶ月で株価が7.5倍にまで膨れ上がったの、知らなかったか」

AさんとBさんとの会話は、最初のうち噛み合っていません。Aさんは、Bさんが「大ヒットゲームの影響で、ミクシィの時価総額が膨らみ続けている現状」を知っている前提で、話を始めてしまったからです。こういうことはよくあることですね。ビジネスの交渉や議論の前には、この「前提知識」を合わせておくことは重要ですが、何気ない雑談では、予測できないことも多いでしょう。

こういった「前提知識」は、

● 話の「論点」に関わる知識

● 「話し手」本人に関わる知識

の2つに分けられます。先ほどのミクシィに関する知識は前者。そして後者は、「話し手」の職業や性格、考え方、最近の状態、等についてです。たとえば、ある女性がフェイスブックで発信した次の文章を読んでみましょう。

「ようやく決心した。ついに会社を辞めることになった。結局、上司とは最後まで話し合いをする気にはなれず、社長にだけ自分の気持ちを伝え、サヨナラをした。退職してまだ8時間。なかなか気持ちが晴れない」

事情をよく知った間柄で、このようなことを面と向かって聞いたら、お互いわかり合えるかもしれません。しかしフェイスブック等のSNSで、「友達の友達」がこのような書き込みをしていて、目にしたならどうでしょうか。事情がまったくわからないので、共感することは難しいかもしれません。中には、「結局、上司とは最後まで話し合いをする気にはなれず、社長にだけ自分の気持ちを伝え、サヨナラをした」という文章に着目し過ぎて、義憤を覚える人もいることでしょう。もしその気持ちが抑えられないと、ついついコメント欄に書き込みをしてしまうものです。

「どうして辞めるのかは知りませんが、お世話になった上司に退職する理由も告げず、逃げるように会社を辞めてしまうから、気持ちが晴れないのではないですか。そういう非常識なことをすれば、当然のことだと思いますが」

前出した書き込みをした女性は、寄せられたこのコメントを読んで、どんな気持ちになるでしょうか。「確かにそうですね、道義にはずれたことをしたからスッキリしないんでしょうね」と共感するでしょうか。ひょっとしたら、「誰、あなた? 私のことを知りもしないのに、突然出てこないでよ」と怒り出すかもしれません。

この書き込みをした女性は、居酒屋チェーンに8ヶ月前に就職しました。公認会計士の資格を持ち、フランチャイズチェーンの店舗拡大に伴い、スピーディに部門別、店舗別の採算分析をしたいという社長の要望にこたえるため、管理本部へ配属されたのです。ところが入社当時から直属上司が恋愛感情を持ってしまい、執拗に付きまとわれてしまいました。管理本部にいられなくなった彼女は、しばらく居酒屋の店舗で事務職をするのですが、会計士の資格を生かした業務ができません。しかも店舗では休みもなく長時間労働の連続。体調を崩し、管理本部に戻されると、今度は上司からあからさまなイジメに遭いました。1ヶ月以上悩んだ結果、会社を辞めることにしたのです。そのときの心境をフェイスブックに書き込んだのが、先の文章だったのです。このような背景をまったく知らない「友達の友達」から書き込まれたコメントは、完全に的外れ。

「お世話になった上司? 私がしたことが非常識? だいたい、このコメントを書いた人は何者? 何が言いたいわけ?」

という感想を持ってもおかしくはないでしょう。ここにいたるまでの経緯という「前提知識」をまったく知らない人から否定的なコメントを書かれたからです。SNSではなく、もしもリアルに会って話していたら、このような事態にはならないはずです。相手の話に共感できないなら、

「え、どうしたの? 会社を辞めた? 何があったの?」

……等と、話の「受け手」は「前提知識」を補おうと質問するからです。

しかしSNSでたまたま目にした「友達の友達」に対して、「通りがかりのものですが、どうしたんですか。なぜそのような決心をされたんでしょう?」と質問する人はほとんどいません。いきなり湧き上がった感情をコメントに書いてしまったりするのです。

前出の女性は、自分の知り合いなら誰でも理解してくれる。これまでの書き込みを読んでくれている人なら当然、自分の今の心境に共感をもってくれるはず、と思い込んでいたのでしょう。しかし、突如現れた「友達の友達」に見当違いな突っ込みをされ、しかも自分の知人の多くが目にするだろうコメント欄に書き込まれたら、「人の気持ちも知らないで、無責任な書き込みはやめてよ!」といった極端な感情を抱くかもしれません。

「話し手」の感情を逆なでする一番の原因は、「受け手」が足りない前提知識を空想で補おうとするからです。それが「話し手」にとって否定的なニュアンスを伴った空想であればなおさらです。「あなたはこちらの事情を知らないのだから、いちいちしゃしゃり出てこなくてもいいじゃない」と「話し手」が言いたくなるのも当然でしょう。しかし、どこの世界でも「差し出がましいですが」と言いながら、本当に差し出がましいレスポンスをしてくる方はいるものです。「友達」や「フォロワー」が増えれば、そのような方と遭遇する確率は増えるばかりです。

芸能人やプロスポーツ選手のツイッターでのつぶやきが原因で「炎上」してしまうことが、たまにあります。その有名人は「そんなつもりで発言したわけではなかった」「こういう事情が前提としてあったのだ」と釈明しても後の祭り。「前提知識」を共有していない人には誤解されやすいのです。有名人でなくとも、SNSを使っていると、不特定多数の人と繋がってしまう時代です。これらの要因を正しく押さえておかないと、言い知れぬストレスを貯めてしまう原因になるでしょう。

数年前、私がツイッターで「期末までまだ4ヶ月残っていますが、すでに今期の目標を達成しました」とつぶやいたとき、知人の多くは「おめでとう!」「見習いたい」「さすが絶対達成コンサルタント」などと返信してくださいました。しかしながら、中には「目標が低かっただけでしょう」とレスポンスされる方もいました。その年に設定したのは前期130%アップした目標でしたし、私以外の同僚コンサルタントは同じ目標予算に対してもまだ達成していない状態でしたから、その「前提知識」を知らずに「目標が低いから、達成できるんだ」と言われると、さすがに良い気分はしません。

その時はスルーしたのですが、約1年後も、私は懲りずに「今期も早々と目標を達成しました」というツイートをしたところ、また別の方々から(しかも3名!)、「目標が低いに決まってる」「低すぎる目標を達成しても意味がない」「そんなに早く目標が達成するなんて、設定が低すぎるに違いない」というようなレスポンスをいただきました。昨年よりもさらに20~30%以上高い目標を設定したのに、その「前提知識」がない方から「低すぎる」と指摘されるのは不条理だ、と私は思ってしまい、それからはこのようなつぶやきをやめることにしました。

「話し手」本人に関わる前提知識は、人と話をするうえで、とても重要な要素です。この知識を欠落させた状態でコミュニケーションをとると、噛み合わなくって当然と言えるでしょう。とはいえ、いちいち「前提知識」をすべての発言に含めることは現実的ではありません。この問題を解決するためには、以下の3つかと私は思います。

● 深い「前提知識」を要する発言は控える。

● 噛み合わないレスポンスはスルーする。(誹謗、中傷でない限り)

● 閲覧制限の設定をする。

閲覧制限といっても、限界がありますね。本当にリアルに接している人とだけの交流に絞るのであれば、LINEのようなメッセージアプリで十分ということになってしまいますから。(ところがLINEのようなメッセージアプリには、別の問題が潜んでいます)

SNSを使っていると、どうしても「前提知識」を共有しない人との交流も余儀なくされます。それが面白いことでもありますし、デメリットでもあります。多少、話が噛み合わない人が登場してもナーバスにならないことが一番だと私は考えています。リアルな世界でも、話の噛み合わない人、話が通じない人はいくらでもいますし、そういう人とコミュニケーションをとらざるを得ないシチュエーションは必ずあるわけですから。すべてを都合よく制限かけることは難しいですよね。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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