どうして世の中の社長は「早とちり」が多いのか?
私は経営コンサルタントですから、企業経営者――とりわけトップの社長とお話をさせていただくことが頻繁にあります。いろいろなタイプの社長がいますが、多くの社長は「早とちり」で「早合点」で「話半分」しか聞きません。他人の話をあまり注意深く聞くことなく、先入観で決めつけて怒りだしたり、勝手に自分の話したいことにすり替えてしまったりします。
話が噛み合わない人は、以下の特徴があります。
■ 話の中のある言葉(キャッチワード)を特定し、そのキャッチワードから話を展開する
私のような外部のコンサルタントならともかく、部下の方だと、社長と話をしていても、社長の「早とちり」を止めることができないときがあります。その理由は、以下の4つです。
1.頭の回転が速い
2.想像力(空想力)が強い
3.問題意識が高い
4.権力の所有
それでは以下の会話文を読んでみましょう。
部下:「社長、管理部長から内線がありました。すぐにお会いしたいと言っており――」
社長:「来年度の予算策定についてだろ?」
部下:「あ、いえ――」
社長:「じゃあ、採用コストの総額についてだろう?」
部下:「いや――」
社長:「なら、システムの維持経費についてだ。ようわからんのだ、私は情報通信とかを」
部下:「あの、そうではなくて」
社長:「だったら、継続雇用制度の見直しについてか。アイツはなんと言っていた?」
部下:「いえ……」
社長:「だったら、何の話だ?」
部下:「新年会で使う予定だったホテルに、どうも予約が入ってなかったそうで、管理部長が慌てています」
社長:「なんだ、そんな話か」
この社長は「すぐお会いしたいと言った管理部長」というキャッチワードから連想し、次々と珍解答を披露します。まるで「早押しクイズ」の解答者のようです。頭の回転が速く、問題意識も高いため、キャッチワードから想像できる材料がたくさんあります。相手は社長ですから、部下のほうも「私の話を最後までキチンと聞いてください」とは、なかなか進言できません。
単なる「早とちり」で終わればいいですが、「早とちり」をした後、そのまま暴走機関車のように突っ走られてしまうこともあります。
部下:「社長、折り入ってご相談したいことがあります。実のところ――」
社長:「どうした? 本社移転の話かね?」
部下:「いえ、ABC商事の専務からお電話がありまして……」
社長:「それもいいが、本社移転の話はどうなってるんだ。費用に関して私なりに算出してみたが、どうも移転のメリットがない気がしている」
部下:「しかし移転の話はすでに経営会議で決定しており……」
社長:「本社移転の意義を、もう一度考え直したいんだ。年内にもう一度、幹部を集められるかね」
部下:「それは可能ですが」
社長:「すぐにそうしてくれ。あと、庶務のKさんを呼んでくれないか。説明資料を作ってもらいたい」
社長が「早とちり」したテーマのまま話が展開してしまい、部下はコントロール不能になっています。完全に主導権を明け渡してしまったため、自分の相談ができないまま会話が突き進んでしまうことになりました。早とちりした話の「キャッチワード」にまた早とちりがはじまると、まったく収拾がつかなくなります。「早とちりチェーン・リアクション」です。
部下:「先日、ABC商事の専務が本社にお越しになり、1時間ほど社長をお待ちしておりました。年末の忙しい時期だったので、夕方の4時過ぎにはお帰りになられましたが……」
社長:「ああ、あの専務か。本当に執念深いんだな、あの人は。ったく……。わかってるんだ。資材メーカーの窮状は私にだって。先日も親しい経営者で集まったときにそういう話になった。ああ、君はあの会合に参加したことはあるかね」
部下:「え? ……何の、会合でしょうか」
社長:「知らないか。君が銀行から当社に来たのは3年前か?」
部下:「いえ、4年半前です」
社長:「X支店長がいる時代だろう? そういえばX支店長って、今どうしているか、君知っているか」
部下:「いえ。存じ上げませんが」
社長:「小料理屋を始めたらしい。銀行の支店長まで上り詰めた男が、50歳を過ぎて店を始めるなんてな」
部下:「はァ」
社長:「意外と美味かったよ。一度、その店へ顔を出した」
部下:「行かれたんですか?」
社長:「港の仕入れ業者に知り合いがいたんで紹介したんだ。何という名前だったかな……」
部下:「社長、ところでABC商事の専務のことですが――」
社長:「なかなか名前が思い出せない。最近、物忘れがひどいんだ。週末に病院に行くから、一度先生に聞いてみるか」
部下:「社長……」
社長:「そういえば君も腰痛がひどかったな。まだ病院へ通っているのか?」
部下:「ええ、1週間に1回は」
社長:「1週間に1回といえば、部門長会議の回数をもう少し減らすことはできんのかね? 1週間に1回やっても、あんまり意味がないと思うんだが」
部下:「はァ……」
社長:「部門長といえば君、思い出したんだが――」
このようにキャッチワードを無意識のうちに繋ぎ合わせ、別のテーマから別のテーマへと話を展開し続ける社長もいます。頭の回転が速く、暴走を止める人が周囲にいないと、このようにご自身も操縦不能になっていくことでしょう。「●●といえば」と言いながら会話をゆがませることが特徴です。
すぐに「早とちり」し、暴走しがちな社長に、部下はどう話せばよいのか? ポイントは3つです。
1.まず結論から話す
2.要点を簡潔にまとめる
3.早口に一気に話し終る
部下:「先日、ABC商事の専務が本社にお越しになり、1時間ほど社長をお待ちしておりました。年末の忙しい時期だったので、夕方の4時過ぎにはお帰りになられましたが……」
と、のんびり話をしているので、つけ入るスキを与えてしまうのです。
部下:「ABC商事が販路拡大のためにパートナー企業を探しています。夕方6時までなら専務が本社にいるそうで電話してほしいとのことでした」
このように、話の論点をシンプルに、しかも最後まで突っ切るように話せば、いくら「早とちり」の多い社長でも、「あの専務といえば、また値引き交渉に来たんだろう」等と勘違いしないでしょう。相手が社長だからといって臆することなく、駆け抜けるように話すことが大事です。