もしも疑惑の「東京五輪エンブレム」が、企業のロゴデザインだったなら
2020年東京五輪エンブレムを巡る「盗作疑惑」は、ついに佐野研二郎氏が「バッシングから家族やスタッフを守る」という理由で取り下げられるという結末を迎えました。東京オリンピックのエンブレムが盗作であるかどうかは別にして、異常とも言えるほどのバッシングが続いたことは明らかです。政治家でもなく、芸能人でもない、一人のデザイナーがこれほどの極端な”攻撃”を受けたら「耐えられない」という感情を持つのは普通だと思います。
私は経営コンサルタントですから、このデザインが企業のロゴデザインだったとしたら、どうなったのだろうと想像してみます。企業のロゴマーク、ロゴデザインは、コーポレート・アイデンティティ(CI)に直結するものです。企業ブランドを大きく左右するデザインですので、東京オリンピックのエンブレムと同様、とても注目されます。2011年にスターバックスのロゴが変わったとき(ロゴマークから、スターバックスコーヒーという文字が消えた)も、世界中から多くの否定的意見が寄せられたと言います。
今回の東京オリンピックのエンブレムが、「トヨタ自動車」や「東京電力」、企業ではないですが「Tポイント」など、いわゆる”T”をかたどったロゴデザインであったら、ここまでバッシングされたでしょうか。スターバックスのように否定的意見が出たとしても、しばらくすれば見慣れて騒動も沈静化すると私は思います。なぜなら、その企業、イベントそのもののブランドに大きな「傷」がないからです。
今回の騒動は、まさしく「バッシングの連鎖」が原因だと私は考えています。そもそも東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアム「新国立競技場」の建設費が2520億円という巨額に膨らんだことから、東京オリンピックそのものに対する風当たりが強くなりました。この問題は政権批判にまで発展。安倍首相までもが登場する事態となりましたが、エンブレムの盗作疑惑が浮上すると、バッシングの「火の手」はエンブレムのほうへ移ります。つまり、新国立競技場の建設費問題さえなければ、ここまでエンブレムに対する奇々怪々なバッシングは起こっていなかったのでは、と思うのです。
前述したとおり、エンブレムやロゴのデザインはイベントや企業のブランドに大きく影響を及ぼすものです。しかし今回のケースは、先にイベントや企業のブランドに大きな傷がつき、バッシングがデザインに飛び火してしまったという逆転現象が起こったのだと言えます。「泣きっ面に蜂」とは、まさにこのことを言うのでしょう。
異物混入などの問題で激しいバッシングを受け、業績が低迷するマクドナルドも、企業そのもののブランドが傷ついているため、新しい何らかの「傷」が見つかれば――たとえ普通なら見逃されそうなことでも――大きなバッシングへと発展するかもしれません。いったん「ケチ」がついてしまうと、バッシングの火の手が上がり、業火のごとく燃え盛ってしまう。こうなると沈静化するまで長い時間がかかります。したがって東京五輪のエンブレム騒動は、一般企業でも起こり得るわけです。バッシングの火が上がったとき、いかに迅速に対処できるかが、ネットが発展した現代における「鍵」となりそうです。