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AIによって働き方改革は実現するのか? マイクロソフトとソフトバンクの取組みを検証する

横山信弘経営コラムニスト
ソフトバンクとマイクロソフトはペッパー等で協業する仲である(写真:つのだよしお/アフロ)

AIを使った働き方改革がはじまる

昨今、AI(人工知能)を使って、「働き方改革」に取り組もうとする意欲的な企業が増えています。2月に入ってから、マイクロソフトやソフトバンクが次々にその取り組みを発表しました。しかし果たしてその取り組みや、その仕掛けは奏功するのか? AIという話題性のあるキーワードに便乗して、世間にアピールしているだけなのか? 検証していきたいと思います。

マイクロソフトとソフトバンクが発表したこと

日本マイクロソフトは2月16日、「働き方改革」を支援する仕組みを発表しました。「Office 365」の拡張機能が、オフィスワーカーに多くの気付きを与え、結果的に働き方そのものを変えてくれるというものです。いっぽうソフトバンクは「Smart & Fun!」というスローガンを掲げ、ITやAI(人工知能)を駆使して、全社員がスマートに楽しく働けるような様々な取り組みを発表しています。

確かに、このような意欲的な仕組み、取り組みは、社員の「働き方」を変えるきっかけを作ってくれることでしょう。しかし、現時点では両社の取組みが、AIによる「働き方改革」を推し進めるとは到底思えないのです。

マイクロソフト社が新たに提供する機能とは?

たとえば日本マイクロソフトが発表した「Office 365」の拡張機能は「MyAnalytics」と呼ばれ、メールや会議などのコミュニケーションデータを分析する機能です。この分析機能があることで、自分の作業に無駄がないか気づきを得られ、業務が効率化できるだろうと日本マイクロソフトは言います。それはそうかもしれませんが、これだけの記述を読む限りでは、どこにも「AI」が使われていないことがわかります。AIというより、高度な分析・解析ツールのレベルではないでしょうか。

AIが得意とする圧倒的な認識・認知能力は、人間の「眼」や「耳」を代替させるほどの力があります。人の微妙な表情の変化や動作を観察して状況判断したりするというのならともかく、「MyAnalytics」は「Office 365」内でデータ化されている大量の情報を解析するものですから、従来からあるデータマイニング的な発想を超えたものとは言えないでしょう。

AIは人間の役割を代替しなければならない

マイクロソフトの発表を見て私が一番主張したいのは、「そろそろ仕組みによって人間に気付かせるという行為」から卒業しよう! ということです。

だいたいAIだろうが、高度な解析ツールだろうが、単なる表計算ソフトを使おうがかまいません、メールが長いか、ムダな会議が多いかぐらい、自分で気付けないものだろうか? こんなことまでツールに頼らなければ働き方改革ができないのであれば、その職場は相当に「認識能力」が落ちているとしか言いようがありません。

私は現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。仕事のやり方そのものを変えてもらうのに、そんな複雑な仕組みは不要だし、込み入ったディスカッションも要りません。「やるべきこと/やるべきでないこと」を、ほとんどの人は知っているのです。すでに気付いているのに、なかなか実行に移せない。ただそれだけなのです。

業務効率を大きく2つに分解すると、「作業効率」と「コミュニケーション効率」に分けられます。「作業効率」は、IT、AI、そしてIoTなどを組み合わせることで見違えるように向上する可能性はあります。しかし「コミュニケーション効率」は、コミュニケーションプロセスの要所要所に人間が介入するわけですから、その人間の思考フィルターなどが阻害要因となり、思うようにアップしないことが多いのです。

したがって、「気付かされる」だけでは働き方を変えることはできません。参考になる情報をどれだけ渡されても、よほど現状を変えたいと思っている人でない限り、長い期間を経て浸透した風土、習慣、働き方を変えることなどできないのです。せっかくAIを使うのであれば、AIによって一部人間の役割を「代替」することです。AIは人間がこれまでやってきた何かを置き換えることで真価を発揮するのです。だから革命的な技術なのです。

ソフトバンクがAIを駆使して推進する「働き方改革」

ソフトバンクが推進する「働き方改革」の取組みは、大きく分けて「スーパーフレックスタイムの導入」「在宅勤務制度の拡充・拡大」「自己成長機会への支援金1万円給付」「スーパーフライデーの実施」の4つ。すべて制度的な変更に留まっており、どこにAIの技術が生かされるのかまったく記載がありません。

これらの制度を滞りなく利用してもらうためには、日ごろから生産性の高い仕事をする必要があり、そこにソフトバンクではITやAIを駆使する、ということなのでしょう。

ソフトバンクは人型ロボット「Pepper(ペッパー)」や、IBMワトソンを活用した社内問合せシステム「AI-Q」を販売するなど、日本企業の中ではAIの先駆者的存在になっています。したがって「働き方改革」の分野でも、AIを積極活用して実績を示したいところでしょう。現時点ではイメージ戦略の一環として、「働き方改革にAI」としているだけのように見えます。

マイクロソフトとソフトバンクとのAIに対する取組みの違い

今回紹介した両者の違いは、鮮明です。

その機能にAIが搭載されているかどうかは別にして、マイクロソフトは仕組みを販売しただけであり、それ以上のことはまだこれからです。先述した通り、気付きを誘発するだけのツールがどんなに高度化しても、働き方改革など推し進められないというのが私の意見です。「Office 365」を使うような人はほとんどホワイトカラーであり、ホワイトカラーの生産性向上は、技術や技能的な側面からのアプローチではなく、意識改革という側面でほぼ90%以上、成し遂げられるからです。これは大企業であろうが中小企業であろうが同じです。

仕組みの提供だけでは、当事者の自主性、問題意識に左右され、効果は極めて限定的なものになります。AIの素晴らしさは、人間の機能を置換することです。そこまでやって初めてAIが「働き方改革」に寄与すると言えるでしょう。

その点、ソフトバンクは、組織全体で意識改革に取り組んでいると言えます。「Smart & Fun!」という明確なスローガンがあることも本気度のあらわれですし、自社の働き方を変えていくとプレスリリースに幾度も出している姿勢からもわかります。ただ、AIのニュース的要素からすれば、ソフトバンク社内で「AI-Q」などがマネジャー機能の一部を置換し、若手社員が急速に育っているなどの事例を今後しっかりと蓄積していくことが必要でしょう。

以上のように、マイクロソフト、ソフトバンクの意欲的な仕組み、取り組みは、社員の「働き方」を変えるきっかけを作ってくれるかもしれません。しかし現場で組織改革を担っているコンサルタントの立場からすると、もっとシンプルなアプローチで「働き方改革」は実現できする、と主張したい。

ムダなものは、メールでもなければ、会議でも資料でもなく、その行動をとらせる人間の意思決定にこそあります。その意思決定、指示機能をAIが代替してくれたら、抜本的な「働き方改革」は成し遂げられるでしょう。そのような技術、事例が今後はいっそう増えていくことを期待します。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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