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<都知事選>小池氏・鳥越氏横一線、7割が都議会「評価せず」=JX通信社独自情勢調査の詳報

米重克洋JX通信社 代表取締役
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

舛添要一前知事が「政治とカネ」などの問題で辞職したことを受けて実施される、2016年東京都知事選挙。来る7月31日(日曜日)に投開票が行われるのに合わせて、筆者が代表を務める報道ベンチャーのJX通信社では、告示直前から告示日以降の3度にわたって、東京都内の有権者を対象とした情勢調査を行った。

※注:JX通信社は共同通信グループなど他の報道機関との資本関係があるが、今回の調査は自社調査サービス(公開準備中)の企画として単独で行ったものであり、他社とのデータの交換や提供などは一切行っていない。

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調査の概要は右図の通りだ。電話調査の結果得られたデータに定性的な情報や過去の選挙結果、最近の調査データを踏まえた指数(トレンドロジック)を加味して情勢を探った。この方法による調査は昨年来、記事等で紹介している通り大阪府知事・市長ダブル選挙をはじめとしてその他政令市市長選・知事選、衆院補選、参院選などで繰り返し実施している。

なお今回の調査は告示前から行っているため、撤退表明前の宇都宮健児氏が第1回・第2回調査の選択肢に含まれている。また、第2回では実施期間中に宇都宮氏の撤退表明があったため、データにそれによる影響が一定程度含まれている。

序盤情勢:小池氏、鳥越氏が横一線、増田氏追う

今回の情勢のポイントとしては、以下の5点が挙げられる。

小池氏、鳥越氏が横一線。増田氏も小差で追いかける。

・党派別では自民支持層を増田・小池、無党派を小池・鳥越で分け合う

・手堅く争点押さえる小池氏が健闘し鳥越氏と激戦に。増田氏は伸びが課題に。

・舛添問題での都議会の対応を「評価しない」有権者が7割

・態度未定者はこの週末で4割まで減少も予断許さず。

各候補の「勢い」が分かるトレンド図
各候補の「勢い」が分かるトレンド図

今回も、新聞報道の慣行に倣い詳細な数値の公表は差し控えるが、情勢としては小池百合子氏と鳥越俊太郎氏が横一線で並んでおり、増田氏が小差で追う展開だ

小池氏は、自民党支持層を増田氏と分け合いつつ、無党派支持層も鳥越氏と分け合うことでわずかだがトップに立つ勢いで健闘している。党派別では無党派層と自民党支持層が最もボリュームが多いことから、現時点での焦点は小池氏と鳥越氏の無党派層の奪い合いの結果に移ってきている。増田氏は自民支持層を固めるため引き締めに躍起だが「一族郎党を罰する」(小池氏)と評される厳しい引き締め策は小池氏の伸長を助けている側面があり、逆効果になっている。

一方、鳥越氏は民進党・共産党・生活の党・社民党の4野党共闘の枠組みで立候補しており、特にボリュームの大きい民進党・共産党支持層をそれぞれ固めつつあるが、政策展開の遅れなどの影響もあってか、民進党支持層からは一部が小池氏、増田氏に流れるなど取りこぼしも見られる。無党派層における支持獲得では小池氏と激戦となっているが、出馬表明直後と比べて勢いにやや陰りがあり、こちらも現段階では小池氏がやや上回る。

ただ、全体として主要3候補の差は従来の選挙結果と比べて小差で、候補毎の得票差もそれなりに小さくなることが見込まれる。今回の選挙は、新人候補が乱立して激戦となる構図から、99年都知事選などとの相似が指摘されている。しかし、このまま情勢が推移すると3位候補でも100万票ラインを上回り、1〜3位の候補の得票差も相対的に小さくなる、これまでにないタイプの結果となる可能性もある。

では、一体今後情勢はどう変化していくのか。政策別の支持動向から探ってみたい。

3大争点のうち2つで小池氏が健闘し鳥越氏と拮抗

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今回、JX通信社の調査で明らかになった「有権者が投票の際に重視する政策課題」は、上図のグラフの通りだ。1位が「経済・景気・雇用」、2位が「福祉・医療」となっている点は先日の参院選とも共通する傾向だが、今回の都知事選で特異な点として、3位に「政治とカネの問題」が入ってきている。次いで「子育て・教育」「憲法改正」と続くが、上位3つはいずれも2割前後挙げられており「3大重要争点」と見ても差し支えない

ではこれらの争点別の支持動向はどうなっているのか。実は、この3つのうち2つで、小池氏が健闘している。

3位の政治とカネの問題を最重要課題に挙げた有権者の中では、小池氏は3割弱の支持を得ており、鳥越氏と拮抗している。増田氏は小池・鳥越両氏それぞれの半分程度しか支持を得られておらず、舛添氏を推していた自民党東京都連に支えられる「組織戦」としてのイメージがマイナスに作用していることが窺える。

2位の福祉・医療の問題を最重要課題に挙げた有権者の中では、鳥越氏がトップで3割弱の支持を集め、増田・小池両氏が続いている。この部分では、政治とカネの問題とは逆に、増田氏が鳥越氏と互角に近い勝負をしており、小池氏に対しても優勢だ。

そして、1位の経済・景気・雇用の問題を挙げた有権者については、小池氏と増田氏が分け合い、鳥越氏は大きく遅れている。増田氏はアベノミクスの継続を訴えて勝利した自民党のイメージをそのまま受ける一方、小池氏も自民党所属議員としてその「恩恵」を受けつつ、特区制度の活用や金融インフラの整備などの政策を訴えており、それぞれが有権者に浸透していることが分かる。逆に、鳥越氏は告示直前の立候補表明で政策の浸透が間に合っておらず、この分野ではかなり苦戦している。

総じて見ると、意外とも受け止められている「小池氏トップ」の情勢の背景として、選挙の大争点の多くで同氏の訴えが浸透していることが分かる

舛添問題への都議会の対応、7割が「評価しない」

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小池氏が正式な出馬表明以降批判を強める「都議会」についても聞いた。舛添問題など都政の課題についての都議会の対応を「高く」「ある程度」評価すると答えた有権者は20.9%に留まる一方、「あまり」「全く」評価しないと答えた有権者は69.7%に上っている。

特筆すべきは都議会を「評価しない」を答えた有権者の支持動向だ。内訳としては小池氏が鳥越氏と並んでトップに立っており、増田氏はここでも「組織戦」のイメージが祟ってか浸透し切れていない。一方、評価すると答えた有権者の中では増田氏が3割ほどの支持を得て最多だが、小池氏は小差で次点に付けている。この都議会への評価という点に関わらず、全体的な傾向として鳥越氏はこれまでの都政に対する批判票を十分取り込めておらず、小池氏と競っていくなかで大きな戦略転換を迫られそうだ。

JX通信社の調査では、まだ態度未定の有権者が全体の4割に上っている。こうした有権者の動向も含め、中盤以降情勢がどのように変化していくか注目だ。

JX通信社 代表取締役

「シン・情報戦略」(KADOKAWA)著者。1988年(昭和63年)山口県生まれ。2008年、報道ベンチャーのJX通信社を創業。「報道の機械化」をミッションに、テレビ局・新聞社・通信社に対するAIを活用した事件・災害速報の配信、独自世論調査による選挙予測を行うなど、「ビジネスとジャーナリズムの両立」を目指した事業を手がける。

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