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21世紀枠最終候補決定。2017センバツ、"清宮世代"の主役候補 その2

楊順行スポーツライター
最終学年を迎える清宮幸太郎のライバルをさがせ!(写真:岡沢克郎/アフロ)

「その1」では北海道、東北、関東、東京各地区のセンバツ出場校を予想した。続いて北信越では福井工大福井と高岡商、東海でも静岡、至学館と、秋季大会決勝に進んだ2校が選ばれるのはまず無風。ここでは、福工大福井の山岸旭(あさひ)外野手をピックアップする。

猛アピールは、富山東との北信越大会準々決勝だ。初回、フェンス直撃の中越え先制三塁打を放つと、2回には左翼にライナーの二塁打。5回は、両翼98メートルと広い松本市野球場の左中間に、自身公式戦初となる2ランをたたき込むと、打線の爆発で回ってきた同じ5回の2打席目は、遊撃左に内野安打。続く五番・吉田有哉の適時打で11対1とし、5回コールド勝ちが決定したが、その時点で大会50年ぶりのサイクル安打という偉業がすでに達成されていたわけだ。

4打数4安打ならよくある話だが、5回コールドでのサイクル安打となると、めったにない大記録じゃないか。山岸はいう。

「打ち終わるまで、サイクルだとは気づかなかった。とにかく勝つために必死で、自分のスイングをするだけでした。(初本塁打は)完璧。気持ちよかった」

5回でサイクルとはねぇ……と感嘆した大須賀康浩監督によると、

「スイングが速いのにコンパクトで、2ストライクからでも自分のスイングができる。入ってきたときはまるで目立たなかったけど、新チームになって急成長したね」

大阪桐蔭で指導歴のある田中公隆コーチが、「お前を最高のスラッガーにする」と山岸にほれ込んだ。桐蔭で四番を務め、13年夏の甲子園で一発を放った近田拓矢にイメージがだぶるようで、山岸本人も、

「田中コーチには、"近田のように突き刺すようなライナーを打て"といわれています」

新チームでは県大会直前にねんざしたが、北信越大会は通算15打数7安打5打点。日本航空石川との準決勝では、逆転された8回裏に貴重な同点適時打を記録し、「練習でも、1人だけ打球が違う」(川村翔三塁手)と、昨秋の北信越から出場していたメンバーも一目置く。チームの目標だった神宮大会でも、大阪桐蔭と大阪の2強を形成する履正社戦で1安打を記録し、

「課題はまだありますが、相手投手に"こいつ嫌や"と思われるように、どんどんバットを振っていきたいですね」

スラッガー番付では西の横綱に安田尚憲

その履正社には、東の清宮幸太郎に対して西のスラッガーと称される安田尚憲がいる。

圧巻は、神宮大会決勝だ。「現時点では向こうが全然上」と認める清宮の早実との直接対決は初回、清宮が弾丸ライナーの通算76号ソロを右翼席に打ち込むと、3回表には安田も負けじと逆転の44号3ラン。清宮よりやや右、飛距離では上回る一発だった。不調に苦しんでいた安田はこの試合、結局4打点を記録。履正社の初優勝に貢献した。

パワーの源は、188センチ92キロという大学生並みの体だ。身長が似通っていて、トレーニングでコンビを組む1学年下の松原任耶によると、「かける負荷でいえば、僕のMaxが安田さんの最低ラインくらい」。高校入学からすぐにベンチ入りすると、秋から定位置を獲得し、2年の春からは四番を任された。寺島成輝(ヤクルト指名)がエースだったこの夏の甲子園では、12打数4安打を記録している。

父・功さんは大阪薫英女学院陸上部を率い、高校駅伝で全国優勝の経験を持つ。母・多香子さんはかつてやり投げで国体に出場し、姉・裕佳子さんもソフトボールの元選手。そんなスポーツ一家で安田が「師匠」と仰ぐのは、社会人野球の三菱重工名古屋でプレーを続ける兄・亮太さんだ。一回り年齢の違う亮太さんはPL学園時代、1学年下の前田健太(ドジャース)とバッテリーを組んでいた。そういえばこの夏、横綱対決といわれた横浜との試合前に、安田はこんなふうに話してくれていた。

「野球の手ほどきをしてくれたのが兄。中学までは、都市対抗などの応援に行っていました。高校に入ってからはさすがに見に行っていませんが、実は横浜のビデオを見た兄から、いろいろアドバイスをもらったんです」

え、携帯電話は禁止じゃないの? と突っ込むと、

「はい。兄からのメールを受けた母が、宿舎までメモを持ってきてくれたんです」

その成果か、この試合の安田は、藤平尚真(楽天指名)らから2安打を記録している。さて。顔を合わせるであろうオフに、「師匠」からどんなアドバイスをもらうだろうか。

ちなみに履正社の優勝で神宮枠を獲得、枠が7となった近畿では、ほかに神戸国際大付、大阪桐蔭、滋賀学園のセンバツ出場が確実。試合内容から、近畿大会ベスト8の智弁学園、報徳学園も濃厚だ。微妙なのは7校目。高田商と上宮太子はどちらも準々決勝でコールド負けと条件は同じながら、「一般選考で同一府県から3校選出は行わない」という内規がある。となると、大阪ではすでに履正社と大阪桐蔭が当確のため、上宮太子は対象外か。浮上してくるのが、近畿大会1回戦負けながら、地域性も込みで京都の東山あたりだが、さて……。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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