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「女性活躍」を地方でも実現させるためには

吉田大樹労働・子育てジャーナリスト/グリーンパパプロジェクト代表
女性が「生きがい」をもって働くためには地方がカギを握る(写真:アフロ)

女性が「生きがい」を持つための働き方とは

先般の通常国会で女性活躍推進法案が成立した。今後ますます女性の就業率を向上させようという動きが活発になるものと思われるが、まだまだ子育て中の女性を敬遠する無理解な企業も多く、女性の育児休業取得率が8~9割で推移する一方で、育児休業を取得することなく、第1子出産の際に6割の女性が退職をしているという事実に目を背けることはできない。

しかも、再び就職したとしても、正規で働けるのも壁だ。もちろんライフスタイルに合わせて非正規をあえて選択している女性もいるであろうが、配偶者控除や第3号被保険者などの制度もあり、非正規に留まらせてしまっている向きさえある。子育て世代の女性が非正規として働く割合を年齢別でみてみると、「25~29歳」34.8%、「30~34歳」41.3%、「35~39歳」45.6%、「40~44歳」48.1%、「45~49歳」50.9%――という状況だ(平成26年国民生活基礎調査)。

こうした状況に陥ってしまう背景には、労働時間をかけて成果を出すことへの日本特有の美徳意識が依然として根強く残っているからであろう。子育てをしている女性にはきわめて酷な環境だ。そこには男女平等の配慮など微塵も感じられない。「都合よく働かせることができる男性がほしい」という経営者もまだまだ多いが、そんな都合よく働かせることができる人間などもはや少数派になりつつある。

学習院大学経済学部の今野浩一郎教授は、「制約社員」を前提とした職場づくりの必要性を説く。少子高齢化が進み、人口が急速に減少していく中で、働く側が企業側の求める働き方に応じるのではなく、企業側が働く側のニーズに合わせる時代になった。女性の就業継続を促進させるためにも、旧来型の画一的な雇用形態を維持するのではなく、それぞれのライフスタイルに合った様々な雇用形態をいかに提示できるかもカギとなるだろう。

ただ労働力を確保するためだけに「女性の活躍」があるのではない。非正規を選択する、もしくは選択せざるを得ない女性が増える中で、女性を無理やり活躍させようとする、ある意味押しつけ的な発想は、逆に女性の生き方を画一的なものにさせてしまうのではないかという危惧を持っている。「生きがい」を感じづらい社会へとなりつつ中で、それぞれの個々が「働くことの意味」を問いながら、日々「働きがい」を感じ、さらに「生きがい」へと変換させることが必要だ。

「生きがい」は多様な価値観の中でこそ醸成するものであろう。

多様な価値観を醸成させるためには、いまある暮らし、いまいる地域を尊重していくことが必要で、地方で安心して働けるということも多様な価値観を醸成させる重要な要素となる。労働力人口が減少する中で、これから大都市部の大企業が女性活躍推進法に則(のっと)り、女性の囲い込みを盛んにしてしまうと、地方に女性の人材が集まりにくくなるおそれもある。

桐生で子ども・女性支援を行うキッズバレイ

こうしたなか、地方で子育てしている女性が生きがいを持って働けるよう支援する団体も現れている。その1つが群馬県桐生市にあるNPO法人キッズバレイだ。

先月9月30日に都内にあるシェア型複合オフィス「the C」で開催された脱東京ビジネス研究会(代表・東大史さん)主催「脱東京移住計画~群馬県桐生市編~」(共催:中小企業庁委託事業シニア等のポジティブセカンドキャリア推進事業)で、代表理事の赤石麻実さん(30)がキッズバレイの活動について紹介するということで取材をした。

桐生市は、住みたい田舎ベストランキング(「田舎暮らしの本」・宝島社)の「子育てにぴったりな田舎部門」で、2013~15年と3年連続で1位、2位をキープしたまちだ。織物のまちとしても有名な桐生だが、その歴史は奈良時代までさかのぼるという。明治維新以降も日本の産業を支え、歴史的な建造物も多く点在する風情があるまちだ。

桐生市内にある古い建物(写真提供:キッズバレイ)
桐生市内にある古い建物(写真提供:キッズバレイ)

しかし、そんな桐生市も、近年は人口減少が進み、今年3月時点で、約11万5,000人。2010年から約7,000人も減少している。こうした状況に危機感を持つ仲間が集まり、「子どもたちに誇れる社会の実現」を目指して2013年に設立されたのがキッズバレイだ。

キッズバレイでは、「若者・子育て世代の“くらし”と“仕事”を支援して地域経済活性化」することをミッションに掲げ、行政や企業などの支援を受けながらさまざまな事業を展開している。山積する課題の解決の糸口として、また地域経済活性化の中心として「子ども」の存在が非常に重要だと赤石さんは語る。「人口が減少していく社会では、もっと人を大切にしていきたい」と話しにも熱が入る。

NPO法人キッズバレイ代表理事の赤石麻実さん
NPO法人キッズバレイ代表理事の赤石麻実さん

昨年度から「きりゅうアフタースクール」を開講し、地域に住む人たちが「市民先生」となって、地域ぐるみで子どもたちを支え合う関係の構築に尽力している。昨年度は45のプログラムを実施し、780名の子どもたちが参加。今年度も、自然体験や季節ならではイベントなど、様々なプログラムを提供している。

「きりゅうアフタースクール」2015年度のプログラム(資料提供:キッズバレイ)
「きりゅうアフタースクール」2015年度のプログラム(資料提供:キッズバレイ)

さらに、キッズバレイでは、今年のテーマに「女性の新たなワーク&ライフ」を掲げ、女性が働く機会を提供しようと試みている。4月には、コワーキング&コミュニティスペース「cocotomo(ココトモ)」をオープンさせ、子育て世代の女性をターゲットに、「働く場」の提供に取り組んでいる。子どもが遊べるスペースや、給湯室・授乳室を設けるなど、子ども同伴でも気兼ねなく利用できるよう設計が施されている。

「cocotomo(ココトモ)」の内装(キッズバレイHPより)
「cocotomo(ココトモ)」の内装(キッズバレイHPより)

また、昨年からランサーズ株式会社と提携し、ママのための在宅就労支援事業にも乗り出している。事業の特徴は以下のとおりだ。

  1. 働き方の選択肢を広げるため「個人事業」をサポート
  2. 個人事業を一人ではなく、コミュニティで仕事をする仕組みを構築
  3. 新しい働き方を支えるための、教育・研修を実施

子育ての中の女性のITスキルを向上させることで、個人で仕事ができるようになり、起業にも結びつく。また子育て中の女性にとって、コミュニティの仲間と仕事をシェアしたりすることで、無理なく働くことができ、仕事を本格的に始めるきっかけをつかみやすい。

これ以外にも、キッズバレイでは、子育てポータルサイトの開設や「ぱぱ・ままカレッジ」の開講などの計画もあり、地域で安心して子育てしながら、地域で安心して働ける場を作ろうと様々な事業に取り組もうとしている。

イベントの様子(シェア型複合施設「the C」)
イベントの様子(シェア型複合施設「the C」)

◇             ◇

自らのアイデンティティの居場所があるところで働けることは、自己を肯定する大きなきっかけにもなりうる。また「生きがい」を醸成させるには最適な場所とも言えよう。女性に限ったことではないが、多くの人たちが仕事を求めて地方から東京へと移り住む中で、非正規で働くことを余儀なくされ十分な収入を得られず自分を見失ってしまっている人も増えている。

一方で、地方で働ける機会や場所を確保していくことは喫緊の課題だ。今回のキッズバレイのように、「子ども」を中心に据え置きながら、子育て中の女性を巻き込み、地域の活性化に貢献しようとする動きを行政や企業が後押ししていく必要があるだろう。

労働・子育てジャーナリスト/グリーンパパプロジェクト代表

1977年7月東京生まれ。2003年3月日本大学大学院法学研究科修士課程修了(政治学修士)。労働専門誌の記者を経て、12年7月から2年間ファザーリング・ジャパン代表。これまで内閣府「子ども・子育て会議」委員、厚労省「イクメンプロジェクト推進委員会」委員を歴任。現在、内閣官房「「就学前のこどもの育ちに係る基本的な指針」に関する有識者懇談会」委員、厚生労働省「子どもの預かりサービスの在り方に関する専門委員会」委員、東京都「子供・子育て会議」委員などを務める。3児のシングルファーザーで、小・中・高のPTA会長を経験し、現在は鴻巣市PTA連合会会長。著書「パパの働き方が社会を変える!」(労働調査会)。

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