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北海道不明男児無事保護!必要以上に親を責めないでほしいとひとりの親として思うわけ

吉田大樹労働・子育てジャーナリスト/グリーンパパプロジェクト代表
1週間不明だった男児が見つかった。親の思いはいかに。(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

北海道・七飯町で行方不明だった小2男児が1週間ぶりに保護された。まずは、同い年の子どもを持つ親としても、本当に無事で良かったと安堵している。たまたま保護されたニュースをスマホで知ったときに、駅のホームに立っていたのだが、近くにいた年配の女性がその娘さんと思われる方とわざわざ無事を喜ぶ電話をしていた。この1週間、日本中、いや世界中のニュースとなった出来事であったが、同じ小2の子どもを持つ親の立場から、今回の騒動を考えてみたい。

親の「置き去り」行為は確かに行き過ぎだが・・・

前提として、この両親が取った「置き去り」の行為については、行き過ぎた面があったと思う。ただ、子育てをしている中で、行き過ぎてしまうことは多々あることだと思う。

この親を責めることは簡単。しかし、自分が同じ小2の息子を育てる立場として考えると、子育ては後悔の連続であり、いつ自分の身に起こってもおかしくないことだと思えてならない。

この少年が置き去りにされたとき、おそらく「自分で何とかしなくては」と思ったのではないだろうか。特に男の子ということもあり、この状況をどう打開するかという気持ちが沸き起こったのだと思う。だからこそ、親が車で行ってしまい、車が見えなくなった瞬間に、この少年はとっさに行動を起こしたのだ。

この日のうちに、7キロもある距離を歩き、今回保護された自衛隊の駐屯地の施設にたどり着いたという。おそらくたどり着いたときには周囲は真っ暗だったに違いない。本当に奇跡的なことだが、この少年が我が道を進んだことが生き延びることにつながったのだ。

子どものとっさの行動のすべてを親は把握することはできない

自分自身のことを振り返ってみたい。3歳のときのこと。当時住んでいた札幌のマンションで、同じマンションに住む年上の友達の家に遊びに母親に無断で出かけてしまった。しかし、その友達は留守だった。そこで、家に帰ればいいものを、何を思ったか、自分はその友達を探しにマンションの外に向かった。そして1.5キロほど歩き、ほぼ一駅分歩いて行ったとき、横断歩道を渡っているところを、たまたま信号で一番前で停車していたパトカーに保護された。

当時3歳。自分の名前も、当然住所も言えない状態。そのまま自分は、児童相談所送りとなった。そして、夕方となり、母親、祖父、きょうだいが迎えに来たのだが、そのときの光景を35年も経ったいまでも鮮明に覚えている。本当に家族は心配したと思う。しかし、そんな行動をしてしまうのが子どもなのだ。

はて、自分が親になっても同じようなことがあった。自分自身はひとり親なので、なかなか3人の子どもたちに始終目を向けることはできない。ある日、家事をしている最中に、当時5歳だった次男がふて腐れて突然家を飛び出してしまった。あっという間の出来事だったので、追いかけることもできずに、途方に暮れた。このまま帰ってこなかったらどうしよう。いつの時点で警察に届けるべきか。そんなことを思って、不安に駆られた。幸いにして、そのときは1時間後くらいにひょいと帰ってきてくれた。何やら、1キロほど離れた自分が通う保育所まで歩いていって戻ってきたらしかった。怒りたい気持ちもあったが、ちょっとした子どもの冒険心を大切にしたいと思い、きつくは怒らなかった。24時間、親が子どもの行動を把握することなど不可能に近いと思った出来事であった。

今回、両親が行方不明になった直後に、両親が「山菜取りをしていたらいつの間にかに行方不明になってしまった」という虚偽の発言をしてしまったのも多少は理解できる。不安のどん底に落とされたときに、思いがけず自分に有利な発言をしてしまうということは十分考えられるからだ。

特に、この家族は仲が良くて評判が良かったとのこと。川遊びをしていたときに、この少年が車や人に向けて石を投げたことに対して、しつけとして「置き去り」にした。たぶん帰りの車の中で、この少年に対して、親は注意をしたのだろう。しかし、あまり反省してないと感じた両親は、とっさに「置き去り」という方法で、石を投げた行為について、それがいけないことだと理解させようとした。

今回の出来事を前向きに捉えられるように

もちろん繰り返しになるが、ここで「置き去り」にすべきではなかった。しかし、両親は「置き去り」という手段を取ってしまった。これは当然生きて保護されたからこそではあるが、生きて保護されたからこそ、今回の教訓を前向きなものとしてこの家族が捉えられるようにしてほしいのだ。特に、マスコミに対しては、あまり責めるような報道をしてほしくない。

子育てをする中で、しつけを冷静にできることのほうが少ないかもしれない。特に、子育てにどっぷり浸かれば浸かるほど、親は盲目的になりがちだ。子どもを冷静に「叱る」というよりは、とっさに「怒ってしまう」のだ。そうした状況に置かれてしまう親の心情をどうか多くの人に理解してほしいと切に願う。

多くの人たちが捜索活動に参加をした。その多大なる労力を考えれば、それ相応の非難を受けるべきという意見も当然あるだろう。

しかし、子育ては失敗の連続なのだ。その失敗を得て、親も子どもも成長をする。完璧に子育てできる家庭はほんの一握りだ。この家族が今回のことを受け止めて、悲観的にならないように周囲やマスコミは協力してほしい。

話は戻るが、子どもの強さと可能性を考える機会となった。自衛隊は一度、この少年が留まっていた施設を調べたという。もしかしたら、少年はそれに気づいていたかもしれない。しかし、怒られると思って、遭遇することに躊躇したのではないかとも推測する。この事態に対して、どう乗り越えていけばいいのかを葛藤していたことだろう。この少年にとっても、今回の出来事は記憶に鮮明に残ることだろうと思う。この出来事をポジティブに捉えられるように、家族や学校、友達がケアをしてほしいものだ。

そんなことを思わざるを得ない事案であった。

労働・子育てジャーナリスト/グリーンパパプロジェクト代表

1977年7月東京生まれ。2003年3月日本大学大学院法学研究科修士課程修了(政治学修士)。労働専門誌の記者を経て、12年7月から2年間ファザーリング・ジャパン代表。これまで内閣府「子ども・子育て会議」委員、厚労省「イクメンプロジェクト推進委員会」委員を歴任。現在、内閣官房「「就学前のこどもの育ちに係る基本的な指針」に関する有識者懇談会」委員、厚生労働省「子どもの預かりサービスの在り方に関する専門委員会」委員、東京都「子供・子育て会議」委員などを務める。3児のシングルファーザーで、小・中・高のPTA会長を経験し、現在は鴻巣市PTA連合会会長。著書「パパの働き方が社会を変える!」(労働調査会)。

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