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「男性の育児参加」などあり得ない社会に

吉田大樹労働・子育てジャーナリスト/グリーンパパプロジェクト代表
子育てに積極的な男性ほど「男性の育児参加」に対して違和感を感じている。(写真:アフロ)

あり得ない「女性の育児参加」

この言葉を聞いたとき、皆さんはどう考えるだろうか?

「いやいや、何言ってんだよ。女性が育児するのは当たり前だから、参加なんてあり得ねぇだろう」

たいていの人がそう思うに違いない。どころが、「男性の育児参加」という言葉は平気でまかり通ってしまう。

戦後、男女役割分業主義が確立する中で、男性が育児という現場にいることがほぼ無くなってしまい、男性が育児の現場にいないことが前提となったことから、「男性の育児参加」という状況があり得てしまったのだ。つまり、男性が仕事をし、女性が仕事を辞めて育児に専念することが社会的な土台となってしまった。

しかし、1980年代から90年代に男女雇用機会均等法や育児休業法(現在の育児・介護休業法)などがようやく整備され、就業継続をする女性が増えた。しかし、男性側のアプローチに十分力を入れなかったことが、「男性の育児参加」という言葉を違和感なく使用できる環境を生み出してしまったのだ。

男性が「育児参加する」ことを支援することは、男性が「育児参加しない」という選択肢を残すことにほかならない。男性は仕事がメインで長時間労働で忙しい中で、育児に参加してない状態から参加する状態へと移行するのは到底無理なことという決めつけをしてしまい、夫婦ともにその状況を覆すことを諦めてしまう。

その実態を現すデータが「6歳未満児にいる夫の育児・家事関連時間」の国際比較のデータであろう。

出典:内閣府
出典:内閣府

なんでもかんでも欧米のマネをするのもどうかとは思うが、男性にしろ、女性にしろ、同じ時間を与えられている中で、日本の男性の育児・家事関連時間の少なさは顕著だ。当然のことながら、その少なさのおかげで、日本の女性は他の先進国よりも、育児・家事関連時間が多い状況だ。こんな状態で「活躍」などと押し付けられては、相当能力のある超人的な人間にしかできないスキルが求められる。

「男性の育児参加」を定着させてしまった要因の1つには、政治や行政の責任があろう。仕事と子育ての両立については、「女性支援」という側面を全面的に打ち出してしまったために、本来としては同時並行的に進めなければならない男性への支援(メインは長時間労働の抑制)がおろそかになってしまった。現政権側に「家庭のことは母親が担うべき」という意識を持った政治家が多ければ致し方ない面もあるが、「仕事と子育ての両立は女性の問題だから、男性は変わらなくてもいい」という誤った裏メッセージが伝わってしまった。その瞬間、男性にとって「子育てはあくまでも他人事」となり、「男性の育児参加」という悠長な意識が蔓延してしまうことになった。

これからの男性の子育て支援に対してのアプローチは、「男性も家族の一員なのだから、家事や育児は当然やるべきこと」という前提が据えなければならない。ただ、その夫婦の役割分担については、「夫婦間で話し合し、納得し合えること」が必要になるだろう。そうした前提が施策の根底になければ、政府が取り組む「女性活躍」もないだろうし、「男性が子育てに協力する」という形ではなく、「男性が子育てに主体的に取り組む」社会も構築できないだろう。

政府は、先週、内閣を改造し、「働き方改革担当相」という新たな役職を設けた。これまで働き方の見直しを担ってきた厚生労働省は、政策が多岐にわたることを考えれば、このポストを設けることによって、働き方改革が具体的に前進することを期待したい。そのためには、経済界や労働界も巻き込みながら与野党を超えてこの問題に取り組む必要がある。

ただ、長時間労働という入口の施策に取り組むだけでは、余程の強制力を働かせなければ長時間労働を抑制するのは難しいのではないかというのが筆者の捉え方だ。削減した労働時間をいかに自分時間に、子育て時間に、生きがいを持てる時間に変換する出口政策も同時に重要になる。筆者が代表を務めるNPO法人グリーンパパプロジェクトでは、父親が農・食・林・自然・旅などのグリーンな資源に触れ合うことで、地方・地域への関心を高めていき、働き方や生き方を変革する支援を始めたところだが、こうした支援が今後より重要になっていくことだろう。

イクメンスピーチ甲子園2016募集中~8月8日まで!~

筆者はいま、厚生労働省「イクメンプロジェクト推進委員会」のメンバーを務めている。正直、「イクメン」という言葉を広めようと思ったこともないし、男性の子育ての講演でも「イクメン」という言葉を使うのは、「イクメンプロジェクト推進委員会」のメンバーであることを紹介するときだけだ。「イクメンになろう」などと言うつもりはない。男性にとって子育てが当たり前のこととして浸透すれば言葉はどうでもいいこと。言葉を流行語のようにもてあそぶ必要などない。

それはおそらく、男性が子育てすることは当たり前という前提に立つ中で、子育てを当たり前にやっている男性であればあるほど、その意識を持っているというのが多くの子育てに積極的な父親に触れる中での実感だ。

しかし、そんな男性の思いをなかなか外に向けて発信される場はまだまだ少ないのが実情。父親たちがどんな思いで子育てに関わっているのかをアピールする場として、イクメンプロジェクトでは「イクメンスピーチ甲子園」を開催している。

父親の側が語る「仕事と子育ての両立」。子育てに関わろうと奮闘する父親の姿を是非多くの方々に見てもらいたい。男性が当たり前に子育てをしたくてもできない社会にどう我々は向き合っていくのか。そのきっかけになるイベントになればと切に願っている。

申込は、こちらより。

http://ikumen-project.jp/episode_contest/index2.php

(明日8月8日まで!)

労働・子育てジャーナリスト/グリーンパパプロジェクト代表

1977年7月東京生まれ。2003年3月日本大学大学院法学研究科修士課程修了(政治学修士)。労働専門誌の記者を経て、12年7月から2年間ファザーリング・ジャパン代表。これまで内閣府「子ども・子育て会議」委員、厚労省「イクメンプロジェクト推進委員会」委員を歴任。現在、内閣官房「「就学前のこどもの育ちに係る基本的な指針」に関する有識者懇談会」委員、厚生労働省「子どもの預かりサービスの在り方に関する専門委員会」委員、東京都「子供・子育て会議」委員などを務める。3児のシングルファーザーで、小・中・高のPTA会長を経験し、現在は鴻巣市PTA連合会会長。著書「パパの働き方が社会を変える!」(労働調査会)。

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