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増え続ける「福島第一原発作業員」 そこから見える将来への課題とは

吉川彰浩一般社団法人AFW 代表理事
4号機原子炉建屋周り、凍土壁作業風景

世界を震撼させた「福島第一原発事故」、思い返せば、日々取り上げられるニュースは福島第一原発関連ばかりでした。

あれから4年半が過ぎ、「福島第一原発の状況」は私達が生活で日々抱える不安事の中で、優先度は大分下がってきました。

その世相を反映するように、福島第一原発の状況を扱うニュースは減り、時折トラブルニュースや、単発的な「出来た事」が流れる程度です。

これまで「働く人」と「働く人を取り巻く環境」にスポットをあてたニュースはほとんどありませんでした。それ故に「誰もが働きたくない職場」というイメージが一般的なまま続いています。

2013年度より右肩上がりに増え続ける作業員数 東京電力 視察時配布資料(11)作業員の確保・労働環境改善に向けた取り組みより抜粋
2013年度より右肩上がりに増え続ける作業員数 東京電力 視察時配布資料(11)作業員の確保・労働環境改善に向けた取り組みより抜粋

ですが、福島第一原発で働く方々は現在、約7,000人に上ります。東京電力が公表している作業員数の推移から2013年度を境に、作業員数は右肩上がりに増え続けています。2年前の2013年10月から比較すれば2倍を超えます。

背景には、作業できる環境整備が進んだ事で、増え続ける汚染水への対策が急速に始まった事が言えます。

約7,000人の内訳から見える、将来への課題

約7,000人のうち、福島県外からの方が約50%、福島県内からの方が約50%となっています。つまり約半分の方が福島県内の方が作業していることになります。ここで思いだして頂きたいのが、県内の方々はもれなく原発事故の被害に遭わられた方だと言う事です。日常的に作業に向かわれるわけですから、ほとんどの方が浜通りに暮らしています。この現状から、「原発事故に遭い、かつ被災地域で暮らす方々が廃炉を支えている」と言えます。

福島県浜通り(海側に隣接した地域)に大きな雇用を生む「廃炉現場」

福島県の浜通り地方には、1事業所で数千人の雇用を生む場所はありません。運転をしていた原子力発電所は、「廃炉」と名前を変え原発事故後も、地域雇用面では飛びぬけた状況にあります。ありていに言えば、今も昔も地域雇用の面では変わりません。

今と昔(震災前)で変わったのは、現場の過酷さです。構内の入口付近を除けば今も防護服、マスクが必要ですし、除染が進み作業現場は放射線量が下がったとはいえ、原子炉建屋内などは作業も出来ぬほどの高線量下にあります。通勤には避難区域を通り、2時間程度を有しますし、現在も避難生活の方も多くいらっしゃいます。働く場所は同じでも、取り巻く環境は日常からは異質とも言える状況です。

ここで、その「廃炉現場」が数十年と続く事を踏まえれば、廃炉現場を支える次の世代をどう守るかが課題となっていきます。

発電所の中(オンサイト)と外(オフサイト)、両方からの改善を

発電所の中(オンサイト)をどう改善していくか。キーワードは働き易い環境作りです。原発事故により放射能汚染した職場を、より被ばくを低減するため除染を進めていくことは必要ですし、防護服を着ての外作業における負担軽減に向けた取り組みも必要です。作業現場を離れた構内の福利厚生面も良くしていく必要があります。これらは、この4年半で全面マスクエリアの縮小、構内休憩所の整備、食事がとれる大型休憩所の建設、事務所の整備と進んできました。原発事故当時に比べれば大変な進歩ですし、作り上げられた事は評価に値します。ですが、厳しく言えば「当たり前」が整ってきたに過ぎません。発電所の中は東京電力の管轄です。そこをどうしていくかは、東京電力の判断で決まるからこそ、外部の私達がこうすべきだと言う声は必要です。

では、発電所の外(オフサイト)はどうでしょう。ここでのキーワードは「働くための住み易さ」です。原発事故により福島第一原発を中心とした地域は避難区域となっています。それは放射能汚染がもたらした物で、「住み易さ」を生むあらゆるものが無くなっています。それ故に、避難区域に隣接した、職場から遠方の日常を取り戻した地域で暮らす状況にあります。職場から近い場所=避難区域の状況をどう改善していくかが課題となってきます。病院、学校、食料品を扱う商店、それらが揃い、住み易さを構築するため「あると便利」を生み出していく必要があります。ですが、これらは個人が介入できるものでは中々ありません。個人単位で行える改善はというと「廃炉産業へのイメージを変える」ことです。

知らず、受け入れず、決め付けでの福島第一原発へのイメージを改善する

現在の福島第一原発へのイメージは、原発事故当時のもので止まっていないでしょうか。防護服を着なくても福島第一原発に行けますとお伝えすると、ほとんどの方は驚愕します。これは「知らない」故のものです。福島第一原発を危険視する記事ばかりが目立ち、改善を伝える記事が少ないこれまでの取り上げ方には「受け入れない」が作用していないでしょうか。その結果が、今も続くマイナスにより過ぎたイメージです。

福島第一原発の廃炉は、生産性や経済性はありません。ですが意義はあります。それは社会に安心と安全を作りあげていく職場ということです。その意義の大きさは論じるまでもありません。

仕事の内容の過酷さとともに、仕事の意義で評価される職業を私達は日常で知っています。警察、消防、自衛隊といった職業です。それらは時に憧れの職業に扱われます。福島第一原発の廃炉に関わるの仕事が、同じように扱われないことは、決めつけ有きのイメージではないでしょうか。

今も福島第一原発で働くことを隠し続ける方がいます。社会がそうさせてしまっています。これは社会の一員である私達が、現地を正しく知る、行われている事を受け入れ、正しく評価していく、とても簡単な事で改善出来る事です。

自分達には関係ない、福島県の問題は大きな誤り

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福島第一原発の入口にある「入退域管理施設」の壁に描かれた企業ロゴに、福島第一原発が所謂原発メーカーだけで成り立っていない事が読み取れます。ここに描かれた企業に繋がる企業までも含めれば、数えきれない企業が現場を支えています。約7、000人の内、約50%が県外企業だということも忘れてはなりません。

原発事故から4年半が過ぎました。風化しても現場は進んでいきます。そして何十年と続く廃炉は、私達の次の世代に託していくものです。今、次の世代が引き受けられる現状にあるでしょうか。次の世代に託すことが出来る環境作りのため、関心を持ち続け、改善を促していくことが、私達が抱える将来への課題ではないでしょうか。

一般社団法人AFW 代表理事

1980年生まれ。元東京電力社員、福島第一、第二原子力発電所に勤務。「次世代に託すことが出来るふるさとを創造する」をモットーに、一般社団法人AFWを設立。福島第一原発と隣合う暮らしの中で、福島第一原発の廃炉現場と地域(社会)とを繋ぐ取組を行っている。福島県内外の中学・高校・大学向けに廃炉現場理解講義や廃炉から社会課題を考える講義を展開。福島県双葉郡浪江町町民の視点を含め、原発事故被災地域のガイド・講話なども務める。双葉郡楢葉町で友人が運営する古民家を協働運営しながら、交流人口・関係人口拡大にも取り組む。福島県を楽しむイベント等も企画。春・夏は田んぼづくりに勤しんでいる。

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