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「福島第一原発」1年前に生まれた「大きな一歩」と「大きな課題」

吉川彰浩一般社団法人AFW 代表理事
東京電力映像アーカイブ「福島第一原子力発電所は、今」~あの日から、明日へ~抜粋

2014年12月22日、この日は福島第一原発の廃炉にとって、そして福島第一原発に不安を抱える人達にとって、記念となる大きな作業が終わった日として刻まれています。その日からちょうど1年が経ちました。この日何が終わったのか、皆さんはご存知ですか。

一年前の今日、水素爆発が起きた4号機原子炉建屋の使用済み燃料プールに保管されていた「使用済み燃料1535本」が、無事全数移送作業が終わった日です。

冒頭の写真、事故当時の4号機原子炉建屋と現在の4号機原子炉建屋になります。厳密に言えば、格子状の建物は使用済み燃料を移送するためだけに作られた燃料取出しの為の建屋です。その設備の下にガレキが撤去された4号機原子炉建屋があります。

事故当時の4号機の状態

当時、4号機については定期検査中でした。定期検査とは13か月以内に一度、原子炉の運転を止め、総点検を行うことを指します。ですので、4号機原子炉内に核燃料は装填されておらず、原子炉と繋がる使用済み燃料プールに燃料は移送されていました。原子炉内には燃料はなく、隣接する使用済み燃料プールに1535体保管されていました。

4号機原子炉建屋の水素爆発は、3号機原子炉内で起こった燃料溶融で水素が発生し、4号機に回りこみ起こったものでした。水素爆発による損傷の度合いは、冒頭の写真から伺うことが出来ます。

4号機使用済み燃料取出しに向けて課題となったもの

水素爆発は建屋上部にいくほど大きな破壊をもたらしました。これは本来ある燃料取出し装置をも破壊しました。使用済み燃料プールに保管されていた1535本の使用済み燃料を取り出すためには、破壊された建物を必要なだけ解体し、そして燃料取出し装置を新に作る必要がありました。当然ながらそれは、原発事故で高線量になった作業現場で行っていくという難しい課題もありましたし、隣接するメルトダウンした3号機原子炉建屋からの高放射線も作業を阻む壁となりました。使用済み燃料プールに落ちたガレキの撤去、細かいガレキが有る中での燃料の取出し。今まで経験をしたことのない課題の中で始まった作業となります。

難しい課題の中どのように終わったか、これらは東京電力HP、映像アーカイブ2014/12/22 4号機使用済燃料プールからの燃料取り出し作業完了にから見ることが出来ます。

この燃料取出しが成功した事は、現場にとっては原発事故後の廃炉作業を行っていくことが目指せる大きな一歩となりました。福島第一原発が一日も早く、健全な状態になって欲しいと願う人達にとっても。どれだけ大きな一歩だったかは、東京電力のHP上にある「廃炉プロジェクト」のメイン画像に据えられている所でも伺うことが出来ます。

大きな一歩ともなった燃料の取出しですが、ここから福島第一原発の廃炉を進めていく上で新な課題も浮き彫りになりました。

役目を終えた設備は放射性廃棄物

4号機の燃料取出しに作られた建物は東京タワー1基分に相当する鉄骨が使われています。格子上に逆L時に作られた建物は4号機に乗っかっておらず、本体だけで自立しているものです。これは東日本大震災規模の地震が起きても問題ない耐震性を持たせるために作られました。現在、この建物は役目を終えています。設備は再利用できないのか。気になった方もいると思います。残念ながら、これから行われる1~3号機の使用済み燃料取出しに転用することは出来ません。

福島第一原発で作られた設備は役目を終えると射性廃棄物となります。この堅牢な建物は今や大きな放射性廃棄物となり、これをどう処分、管理していくか、新たな大きな課題となっています。

2014年12月22日、この日は二つの視点で大切な記念日となっています。1つは、福島第一原発の廃炉は本当に出来るのかという社会からの懐疑に対して、現場で働く方々が知恵と努力と技術で応えた日であり、廃炉が出来ると思えた記念日。そしてもう一つは、改めて放射性廃棄物について考える記念日にもなりました。まとめれば、原発事故を技術で乗り越えることが出来ることを実感出来た、放射性廃棄物について考える機会となったと言えます。

福島第一原発は安全な状態を目指して進んでいます。それは私達が望んだ結果であり、誰にも出来ない作業だからこそ、局所的かも知れませんが、その裏にある大変な努力は知ることで、現場に働く方々へ高い評価と感謝は感じます。

ですが、福島第一原発構は安心できる状態にあるかといった尺度で見ていくものです。構内にあるもの全ては放射性廃棄物として処理・管理を考えていかなくてはならない。そう考えた時、新たな福島第一原発の捉え方ができます。

放射性廃棄物の処理・管理方法はこの4年9か月で確立出来たでしょうか。福島第一原発で発生していく放射性廃棄物よりも遥かに低い、除染廃棄物の処理・管理方法ですら確立されていません。

私達の生活圏から見て安全だと思える状況になったとしても、別の視点で見れば「福島第一原発の廃炉」は注視していくべきものではないでしょうか。

これから1~3号機について、使用済み燃料の取出し作業が始まっていきます。安全に取り出せるかだけでなく、取出しに関わる作業で発生する放射性廃棄物の処理・管理方法についても、関心を持っていかなくてはなりません。

一般社団法人AFW 代表理事

1980年生まれ。元東京電力社員、福島第一、第二原子力発電所に勤務。「次世代に託すことが出来るふるさとを創造する」をモットーに、一般社団法人AFWを設立。福島第一原発と隣合う暮らしの中で、福島第一原発の廃炉現場と地域(社会)とを繋ぐ取組を行っている。福島県内外の中学・高校・大学向けに廃炉現場理解講義や廃炉から社会課題を考える講義を展開。福島県双葉郡浪江町町民の視点を含め、原発事故被災地域のガイド・講話なども務める。双葉郡楢葉町で友人が運営する古民家を協働運営しながら、交流人口・関係人口拡大にも取り組む。福島県を楽しむイベント等も企画。春・夏は田んぼづくりに勤しんでいる。

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