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次世代の暮らし・地域社会を守るため災害の教訓を活かす「常総市大水害」

吉川彰浩一般社団法人AFW 代表理事
常総市水害翌日の市街地風景

2015年9月10日に起きた関東・東北豪雨災害による茨城県常総市大水害は今日で半年の節目を迎えました。今では水害があったことも社会からは忘れ去られたような状況です。

筆者がこれまでに常総市の水害について記事を書いてきた背景は、生まれ故郷であり、家族が当事者だったからという理由だけではありません。

社会人生活を福島県の浜通り地方(沿岸部)で暮らし、原発事故並びに東北大震災を経験し、復興へのお手伝いを生業としている身として、災害経験を活かし次世代の暮らしと地域社会を守るために教訓を語りついでいくが、何より重要であると感じているからです。

筆者自身も節目の日を迎え、自戒し気を引き締めると共に、お伝えする皆さまにも自身の生活を守るために教訓として知っていただくだけでなく、地域社会の次世代を守るためといった意識でお読み頂ければと思います。

これまで水害からの生活再建の困難さを綴ってきました。

「茨城県常総市大水害」被害実態に見合わぬ制度 社会課題と言える大規模水害に対する生活再建の在り方

茨城県常総市大水害の「その後」 被害実態にそった支援制度の是正求める、住民からの切なる声

常総市の大水害がもたらしたものは何か?

一言で言えば、ある日突然水害により人生が変わるほどの地域社会は被害を受け、公的支援だけでは再建は困難という実情です。これは常総市の未来、次の世代に繋げる地域社会が衰退してしまうことに繋がっていきます

別な角度で言えば富める者は救われ、貧しき者は救われない、そんな言い方も出来てしまいます。

各家庭環境で大きな差が生まれるものです。年が変わり今年もどこかで必ず水害は起きます。茨城県常総市を襲ったケースに、もし皆さんが遭った時、備えは万全でしょうか。

備えとはお金の蓄えだけでなく、受けられる公的支援について押さえておくことも必要です。

2015年12月17日に常総市では平成 27 年 9 月関東・東北豪雨災害により 被害を受けられた皆さまへ【第2版】 (給付・減免・支援制度などについて)が配布され、大規模水害で生活再建支援となる骨子が明らかになりました。

これは皆さまへのバイブルにもなるものです。是非、おさえておいて頂ければと思います。

改めて筆者も水害を振り返り、事前に備えておけばよかったという後悔を多々抱えています。

その上で、皆さまに共有しておきたい事柄をお伝えいたします。

水害への具体的な備え

避難のタイミングと持ち出すものを決めておく

常総市の水害は広域に渡り、各地で孤立を生み出しました。その原因は避難するタイミングを逸したからです。筆者の家族も「まだ大丈夫、ここまでは来ないだろう」と避難せずにいました。結果は、夜間に急激に水かさが増し、あっという間に家を飲み込みました。平屋の実家にそのままいれば、命はなかったと思います。幸いな事に隣接する家が同級生だったことから、助けていただきました。その後、レスキューの方に助けて頂くことに。避難するタイミングを完全に逸し、身体一つで避難したことは後の避難生活の大きな課題を残しました。

万が一に備え、避難は行う、その際、お金、保険証、着替え、常備薬など無くてはならないものは決めておく事が必要です。また余裕のある範囲で、仕事で使う物は高い場所に避難させて置くといった事も必要です。

頼れるのは家族・親類

広域水害の場合、友人知人も同じ被害に遭い、助けを求めることは非常に困難です。また、頼れる身内も水害にあったのが常総市のケースです。避難所生活が長引いた根源はここにあります。県外、水害被災地域外の親類が助けられるのには限度があります。なぜなら日常を暮らさなくてはならないからです。非常時ですから会社を休むことも許されますが、それも数日程度、また戻る家がないのですから、避難先として親類の元に避難するとしても、急激な生活の変化に受け入れ先も大変な負担になります。それは精神的なものと経済的負担からもです。家族の絆と簡単に言ってもいざなれば、お互いに苦しい思いをします。

日頃から家族との緊急時の助け合いのルールを決めておくことが重要です。また親類の連絡先を交換して置くことも忘れずに。かくいう筆者も連絡先を知らないことで、頼れる相手が限られました。

ペットへのケア

筆者の家族もペットを飼っていました。避難所へペットを連れていくことは自分だけでなく廻りへの負担にもなります。日頃から緊急時どこで預かるということを決めておくことが必要です。また、ペットを致し方なしに置いてくることになった場合、自分の判断で死なせてしまうことに対して、覚悟も必要です。その覚悟は到底背負えるものではないからこそ、ペットのことも水害への備えに入れてあげてください。ペット用のキャリーケースを常備して置く、預かり先を決めておくことが必要です。

家屋修繕に思わぬ負担がかかる認識を

筆者実家。見た目は問題ないとタカをくくり。後に頭が痛い思いに。。。
筆者実家。見た目は問題ないとタカをくくり。後に頭が痛い思いに。。。

外見だけ見ればちょっとした修繕費で住めるようになる見た目でも、筆者の実家は小さな平屋ですがそれでも修繕費は600万に登りました。水が引ければ大丈夫とたかをくくり、頭が痛い思いでいます。床上数十センチ~1m以上でも、あまり大差はありません。なぜ高額化するのか。それは断熱材により壁の中に水が吸い上げられ、1階部分を作り直すからです。フローリング材も水を含み使えませんし、何より洪水の水は汚水ですので浸水したものは衛生上使えなくなるからです。水回り、ボイラー機器や洗面所、キッチン、お風呂などは壊して新しくつけるとなると、新築時より高くつきます。特にお風呂を直すには100万~200万かかってしまいます。資材不足による資材高騰も要因となりました。

また、直ぐに修理出来ない事情もあります。大切な家屋乾燥に数か月かかるからです。慌てて直せば夏季になるとカビが蔓延してしまいます。専門業者に直すタイミングを相談する事が重要になってきます。

そして浸水範囲が常総市のように広域に渡った場合、大工不足が発生し、修理待ちの状況は長く続きます。待ちきれず遠方の企業に頼めば、さらに修理費は高くつきます。常総市のケースで言えば、水害から4か月が経ったころにようやく家屋修繕が始まりました。

今でも修繕費の問題で直せず放置せざる負えない方もいらっしゃいます。

失う家財を想定しておく

必要な家財もそして思い出の品も、一夜でゴミに変わります。
必要な家財もそして思い出の品も、一夜でゴミに変わります。

家屋ばかりでなく、家財についても考えなければなりません。夏に起きた常総市の水害、そこからの立ち直りには数か月かかっています。気が付けば冬になります。生活に必要なものは季節柄で変わることを念頭に。最低限揃えるだけでも相当な負担です。

2階建であろうと平屋であろうと、家財が中心的に置かれるのは1階です。床上浸水した時を想像し、浸水した身の回りの物が無くなると考えるとご自宅の被害規模が想定できます。一つ一つはそれほど高価ではなくても、家全体で考え積み上げると数百万の損害がでます。仕事上必要な物は大丈夫でしょうか。また、それらは水害後、大量のゴミにもなります。思い出がゴミに変わる精神的負担も考えなければなりません。特にお子さんがいらっしゃる場合、水害後学校へ通う際に必要なもの(制服や教科書など)にも目を向けなくてはなりません。

公的支援はタイムリーにはいかず、十分なものではない

実際に水害に遭った時、公的支援は生活再建にかかせないものとなります。一日でも早くと思っても、水害の場合タイムリーに公的支援は難しい状況になります。公的支援を受けるためには「り災証明書」が必要です。これらは被害程度を元に決められるものです。常総市の場合、受付から発行までに数か月かかっています。床下、床上(半壊、大規模半壊)、全壊で支援規模が変わり、水が引き、片づけが終わる時、査定に来られる事から、どうしても被害実態が査定が合わないとなることもあり(一次査定に不服の場合、二次査定が出来る)

公的支援金が入るまでは自己資金で乗り切るしかありません。水害から数か月程度、暮らせるお金を日頃から持っていることが大切です。また前述した通り、床上浸水被害になった場合、家屋修繕費と家財被害を足せば、実質1000万規模の損害になります。公的支援は、公平をもって最低限の暮らしを約束するものですから、個別事情を踏襲したものではない事を頭に入れておくことが必要です。

水害からの立ち直りにはお金も時間もかかります。それは経験された事のない方にとって想像を超えるものです。お手本となる大きな水害が起きました、それから学ぶことも多いです。

水害が起きない年はありません。必ず今年も水害によって苦しむ方がいます。そういった意味で茨城県常総市の水害は、皆さんにとって身近なお話しではないでしょうか。常総市で水害によって生活再建に苦しむ方々の実情は、将来の皆さんの姿ともいえます。

忘れてしまうことは容易いことです。

ですが、災害に目を向けることは皆さんの生活を守るだけでなく、次世代を守ることにも繋がっています。

一般社団法人AFW 代表理事

1980年生まれ。元東京電力社員、福島第一、第二原子力発電所に勤務。「次世代に託すことが出来るふるさとを創造する」をモットーに、一般社団法人AFWを設立。福島第一原発と隣合う暮らしの中で、福島第一原発の廃炉現場と地域(社会)とを繋ぐ取組を行っている。福島県内外の中学・高校・大学向けに廃炉現場理解講義や廃炉から社会課題を考える講義を展開。福島県双葉郡浪江町町民の視点を含め、原発事故被災地域のガイド・講話なども務める。双葉郡楢葉町で友人が運営する古民家を協働運営しながら、交流人口・関係人口拡大にも取り組む。福島県を楽しむイベント等も企画。春・夏は田んぼづくりに勤しんでいる。

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