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東日本大震災から6年目、改めて放射線についての理解を深める活動をすべきではないのか

吉川彰浩一般社団法人AFW 代表理事
福島第一原発3号機、4号機 

3月11日、この日は東日本大震災で命を落とした方々へ哀悼の気持ちで厳かに過ごす日です。

しかし、故人を落ち着いて偲ぶことが出来ないほど、原発事故がもたらした悲しみがニュース、新聞、SNSを通じて報じられました。

原発事故がこれほど長く、多くの被災された方々の生活を苦しめているのは、原発事故が放射能汚染をもたらしたからです。

3月11日に報じられた悲しみの多くは、言葉を変えれば「放射能汚染を乗り越えた生活が未だ成り立っていない」事を多方面から切り取ったものです。

様々な議論はあれど、避難区域は粛々と縮小していき、福島県の農産物は回復していき、廃炉は進んでいきます。これら全てに放射能汚染は関係しており、放射線との付き合い方は必須のものとなっていきます。

しかし、放射線の理解度は今も進んでいません。放射線=怖い物の域はでませんし、量的お話しよりも存在悪として扱われています。

批判も覚悟で言えば、問題だと言っているものを理解している人はあまりにも少ないということです。

この5年間を振り返れば、チェルノブイリ事故や原爆で既に埋め込まれたイメージが先行し、放射線があってもの議論がまったく進まぬうちに、いつしか放射線を語れば、社会から浮いた存在もしくは敵視されるようになりました。

その結果、放射線の理解度は進まず、目に見えぬ、感じぬ特性から安全側にも振り切れて解釈している方も多いように思います。

筆者は放射線について専門知識を有し、分からない方々へお伝えする責任を追えるほどの立場にもいませんが、この原発事故を被災した地域で暮らし続け、福島第一原発の状況を追い続ける立場から、放射線の理解が進まないことで起きる問題は語ることができます。

廃炉現場を例に理解度が進まぬことで起きている課題をお伝えします。

信じてもらえぬ福島第一原発の廃炉現場の改善

画像

この写真は福島第一原発を視察させて頂いた時に収めたものです。事故が起きた原子炉建屋1kmほどしか離れておらず、福島第一原発の入口になります。

実はこの写真は昨年5月のものになります。その時、既に入口で防護服不要なほど環境は改善していました。そして、この写真は私達廃炉を取り巻く社会で暮らす私達にも、大変喜ばしい状況を伝えるものとなっています。福島第一原発から大気中に飛散している放射性物質が与える影響範囲は限られている、それを示しているからです。

当時の視察の模様はこちらから福島県民ですら分からない福島第一原発の現状 ~知ることの出来る環境整備を~

時は流れ、今年3月8日、福島第一原発の構内作業現場においても9割に及ぶ面積が防護服不要エリアとして運用が始まりました。参照:NHKニュース福島第一原発 廃炉作業 大半の場所で防護服不要に

筆者は自身が運営する一般社団法人AFWの取組として、廃炉と隣り合い暮らす方々を福島第一原発の視察にお連れする活動をしています。

「そんな危険な場所に行きたくない」「行ったことは社会に隠しておきたい」そういったご意見を頂くことがあります。

また、3月8日の働く方々が防護服を不要となった場所で働くことに、インターネットの書き込みなどでは「事故を矮小化するため作業員を犠牲にしている」といったことや「作業員は使い捨てだからだろう」といった言葉がありました。

筆者は誰もが匙を投げてしまう状態から、たった5年で働ける環境を作りあげた現場の方々に、驚嘆を伴った敬意の気持ちでいます。そんな筆者の気持ちと一般の方々との間に、これほどまでに感覚の違いがあるのは、ひとえに放射線に対する理解度の差があるからだと思います。

伝わらぬ改善が理解力不足によるものだとすれば、現場がいくら汗を掻き、私達が望む姿を作りあげていっても意味がありません。廃炉をしてもしなくても一緒と言えるのかもしれません。

筆者は出身が福島第一原発で働いていた東電社員です。そして事故後の地域で暮らしています。友人知人は働く方々、そして働く方々と同じ地域で暮らすため、ちょっとした外出先で現在働く方とお会いすることは多々あります。

辞めても同じ釜の飯、事故時に一緒に働いた仲間意識でしょうか、心の内を素直に伝えてくれます。

「吉川君さぁ、応援してくれるのはありがたいけど、やる気がしないよ。何のために仕事(廃炉)をしているか分からない。社会なんて気にもかけてはくれてないでしょう。頑張っても誰も褒めてもくれない」現場で働く方々はやる気を失い、廃炉をする意義を見失っています。

筆者は放射線の理解度が進んだ時、現場を改善したという事が素直に社会に受け入れてもらえるのものと思っています。

その時、ここまで進んだとを社会が称賛してくれたら。。。。前述したような働く方の思いも解消され、廃炉よりスムーズに進むはずです。なぜなら廃炉現場は約7000人に及ぶ人が支えているのですから。

仮に今の様な無理解が進んだ時どうなるか、優秀な人材は辞めていき、新しい人達は廃炉を担う人材とは言えない人達が集まり、私達が望む形の廃炉にはならず、次の世代に禍根を残していくのでしょう。

それは廃炉を見守る私達が望む姿ではありません。

この度、私は廃炉現場を切り口に放射線に対する理解度が及ぼす問題について綴りました。放射能汚染があらゆる分野に問題を引き続きおこしています。

原発事故から5年が過ぎました。放射線についての理解度を持ち得ないといけないのは専門家でも有識者でもありません。

私達、ただ普通に暮らしている一般人です。

そして日常の暮らしの中では、放射線を学ぶことは大変難しいものです。

だからこそ、改めて放射線に対する理解度を立場ある方々が積極的に伝えて頂きたいと思うのです。

そして私達は必要とする知識を教えてもらう立場にあります。その点において教わる・知る姿勢をしっかりとしていかなくてはなりません。

放射線との付き合い方を語る専門家を御用学者といった形で攻める風潮や、放射線は量に関わらず危険だとし付き合い方などは全否定といった考えで対話しないことも問題でしょう。同じように難しいから放棄する、安全側に振り切って学ばないのも問題です。

6年目、今年こそは放射線との付き合い方をしっかりと定められる社会になって欲しいと願うばかりです。

一般社団法人AFW 代表理事

1980年生まれ。元東京電力社員、福島第一、第二原子力発電所に勤務。「次世代に託すことが出来るふるさとを創造する」をモットーに、一般社団法人AFWを設立。福島第一原発と隣合う暮らしの中で、福島第一原発の廃炉現場と地域(社会)とを繋ぐ取組を行っている。福島県内外の中学・高校・大学向けに廃炉現場理解講義や廃炉から社会課題を考える講義を展開。福島県双葉郡浪江町町民の視点を含め、原発事故被災地域のガイド・講話なども務める。双葉郡楢葉町で友人が運営する古民家を協働運営しながら、交流人口・関係人口拡大にも取り組む。福島県を楽しむイベント等も企画。春・夏は田んぼづくりに勤しんでいる。

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