Yahoo!ニュース

「やってよかった」こうすれば辛くないPTA役員

五十嵐悠紀お茶の水女子大学 理学部 准教授
とかく「陰」の部分ばかりフィーチャーされるPTA役員の仕事ですが、「やってよかった」という人も多いのです。(写真はイメージ)
とかく「陰」の部分ばかりフィーチャーされるPTA役員の仕事ですが、「やってよかった」という人も多いのです。(写真はイメージ)

最近、働く母親にPTA役員の仕事が負担になっているという話や記事をとても目にするようになりました。菊池桃子さんによる発言や、朝日新聞のPTAに関する記事など、記憶に新しい方も多いことでしょう。

我が家も3人の子どもがいる共働き世帯で、今年は小学校のPTA副会長を仰せつかっています。昨年は学童保育の広報役員、一昨年には幼稚園の副会長、と引き受けてきました。

私の住む地域は子どもの数が少なく、PTA役員の仕事を引き受けられる親も少人数なので、1人の子どもにつき1回は何か役職をやってね、と頼まれます。じっと黙っていて小学校の6年間を過ごせるわけではないので、低学年のうちにやってしまおうと、役員決めのときにはじゃんけんで争奪戦になったりもします。

PTA役員が大変そうという記事をたくさん見かけますが、どれもPTA役員を決めるときの保護者会のくら~い雰囲気だけを指して言っているのではないでしょうか。なかなか決まらずに保護者会が何時間も長引いたり、役員選出係のお母さんが各ご家庭に電話してお願いして回ったり。じゃんけんで決めることになり、決まった人がショックで涙するといったことも実際に起きています。

しかし、役員を一度でもやったことのある人の中には、「やってよかった」という意見を持っている人もかなり多いのです。何事にも光と影があるものなのに、PTA関連の記事では影の部分ばかりフィーチャーされているような気がします。

役員をすることになった経緯はみなさんそれぞれだと思いますが、今回はそんな「光」の部分に焦点を当てて、PTA役員のあり方について考えてみたいと思います。

PTAは何のために?

そもそも、なぜPTAという組織があるのでしょうか。PTAとは、「Parent Teacher Association」の略であり、保護者と先生方が協力して子どもを支えていく存在です。PTAがあることで、子どもたちの行事や生活、学業の面が支えられ、豊かな学校生活を送ることができます。NHKの番組では、PTAは「日本最大のボランティア」と紹介されていました。

例えば学童保育(放課後児童クラブ)は、法律上の名前は「放課後児童健全育成事業」として厚生労働省が管轄していますが、公設公営、公設民営、民設民営など保育園と同様、多岐にわたっており、そこへ文部科学省管轄の「放課後子ども教室」が併設される場所も増えてきたりと、かなり複雑な構造になっています。だからこそ、子ども、親、保育者、地域の方の力を合わせる必要があるのです。そんな基本的なことすら、私は学童保育の役員を経験するまで知りませんでした(ちなみに小学校や幼稚園は文科省が、保育園は厚労省が管轄しています)。

子どもが安心安全に暮らせるのは、地域が、学校が、親御さんが、力を合わせて支えているからなのです。

PTA役員をやるメリットは?

では、仕事がありながらもPTA役員をやるメリットにはどんなことがあるでしょうか?

普段働いていると同じクラスのママたちとの交流やお茶会などにはなかなか参加することができず、「お友達の親」との接点がないままになってしまいがちです。けれども役員を引き受けたことで、組織の一員として内部のことがよく分かるようになった上に、子どもの友達の親とのつながりも広がっていきました。

役員会をはじめとする集まりは、年度初めにほぼ日程が決められています。なので、職種によっては仕事の都合がつけやすい人もいるのではないでしょうか。突発的なお茶会には参加できなくても、あらかじめ分かっている月イチの2時間であれば確保できる、そんな人にはお勧めです。

ときどき小学校や幼稚園、学童保育に顔を出すことで、自分の子どもの友達の顔も覚えられるし、自分の顔も覚えてもらえます。子ども同士のトラブルなどもときには発生しますが、相手の顔や親御さんの顔が浮かぶだけで対応が違ってくる、そんな気がします。

またPTAの活動を通して、「自分の子を自分で育てる」ではなく「地域の子どもたちを地域で子育てをする」といった視点も大いに大事であることに気づかされました。子どもの友達の親の帰りがちょっと遅いとき、「寒いからうちに上がって待ってる? お母さんにはメールで連絡しておいてあげるね」。そんな付き合い、助け合いの精神の延長がPTAなのではないかと思います。

仕事で培った腕がPTA仕事に役立つことも数多くあります。広報の仕事だったり、書類作成だったり、パソコン業務だったり。積極的に「これが得意なので担当します」ということで、自分にとって負担の少ない仕事を担当することができている親御さんも多く、逆に役員で経験したことが仕事にも役立つこともあるように感じます。

役員をするならいつ?

役員を引き受けるとしたら、いつがいいのでしょうか? もし選べるのであれば、「役員経験のある人と一緒のときにする」。これに尽きると思います。

役員は1年任期制。もちろん複数年役職に就いても良いですし、そのあたりは各学校のPTA規約で決まっています。でも、基本的には1年で交代が多い世界。引き継いだことを行い、そして引き継いでいかなければいけない。もちろん分からないこともたくさん出てきますが、そのときに前任者に簡単に連絡が取れるわけではありません。通常の会社の組織のように、1年目のときは前任者や補助者がいて助けてくれるのとは違って、結構大変です。

なので、周りの学年やクラスでの役員の立候補者を見て、「あの人は2年前に、お兄ちゃんのときにも役員やっていたな」などという情報を入手できれば、実はチャンス。私の副会長生活も、経験豊かな会長や役員経験者に囲まれて始まりました。

実際に役員をやった方と一緒にいると、「上の子で一度役員を経験したら、次年度は下の子でもう1年同じ役職の役員をする」という方法もよく耳にします。前年度に経験しているため、1年間のスケジュールや手の抜き方、もっとこうしたほうがよかったことなど情報がたくさんあり、2年目は比較的スムーズにいくのがメリットだといいます。

そして、年度末の引き継ぎの際に「仕事を休む日を1日でも減らしたい」という人にも助かるのだそうです。兄弟の学年差を計算して、うまいタイミングで役員に立候補する人が多いのはそのためです。

働く人が役員をするときには「複数人いる役職にする」というのもポイントです。個人の負担を減らすために、PTA副会長が10人を超える小学校というのも東京都内にはあります。

私が昨年、学童保育で担当した役職も、その前の年度までは2人で担当していたそうですが、私の年度から3人に増えました。結果的にはそれがうまく機能して、役員会に3人とも出られないという日程は1年間で一度もありませんでした。仕事との調整で無理をした日も少なくとも私にはありませんでした。

また、どの役職を引き受けるかもポイントです。業務内容はPTA規約に書かれています。規約をよく読んで、自分がどれに向いているかよく考える必要があります。

「書記」「会計」「副会長」などと並んでいると、どうしても書記や会計に手を挙げがちですが、私は副会長も悪くないと思います。

というのも、どうしても「この日は都合が悪い」という場合、書記や会計よりも副会長のスケジュールが優先されやすいからです。自分でスケジュールを決められるのは役職が高い人の特権。それはみなさんも職場で経験済みなのではないでしょうか。

PTA役員の負担を減らすには

PTA役員の負担に困っているのは、何も共働き家庭だけではありません。一見、専業主婦家庭のように見えても、親族の介護や自身の体調など、それぞれの家庭には見えない事情があります。なので、「共働きだからやらなくてもいい」「弟妹がいない一人っ子だから負担が増える」「専業主婦が率先してやるべきだ」などというのは間違っていると私は思います。

では、もっとみんなが参加しやすいよう敷居を下げるにはどうしたらよいでしょうか?

私は、PTAのハードルの高さの1つに、役員として就任するときには個人名で就任する、ということが挙げられると思います。PTA役員は、PTA総会で「○○さん」という個人名で承認されて役職に就くので、代替はききません。同じ家族であっても、です。なので母親が引き受けたら、母親がずっと。父親が引き受けたら父親がずっと。共働き世帯がとても増えているこのご時世、それはまさに負担を大きくする原因の1つだと思うのです。

もうちょっと制度を変えて、例えば、「○○くん(児童)の保護者」となれば、母親が都合悪くても父親が行けますよ、とか、祖母が行けますよ、とかでよければもっと参加できる家庭が増えるのではないでしょうか。もちろん、家庭内の引き継ぎをきちんとしておくことが前提になると思いますが、こうすることで役員を引き受けるハードルがもっと下がるご家庭が増えると思います。

役員をしていて一番嬉しいのは、小学校や幼稚園で自分の子どもに会ったときのなんとも嬉しそうな、恥ずかしそうな、はにかんだ笑顔です。そんな笑顔が見られるのも低学年のうちなのかもしれませんね。

次回は、PTA活動の「IT化」について焦点を当ててみたいと思います。

(Japan Business Pressより転載)

お茶の水女子大学 理学部 准教授

東京大学大学院工学系研究科博士課程修了.博士(工学).日本学術振興会特別研究員PD, RPD(筑波大学), 明治大学総合数理学部 専任講師,専任准教授を経て,現職.未踏ITのPM兼任.専門はヒューマンコンピュータインタラクションおよびコンピュータグラフィックス.子ども向けにITを使ったワークショップを行うなどアウトリーチ活動も行う.著書に「AI世代のデジタル教育 6歳までにきたえておきたい能力55」(河出書房新書),「スマホに振り回される子 スマホを使いこなす子 (ネット社会の子育て)」(ジアース教育新社),「縫うコンピュータグラフィックス」(オーム社)ほか.

五十嵐悠紀の最近の記事