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40代突然死の衝撃~前田健さんの急逝から考える

榎木英介病理専門医&科学・医療ジャーナリスト
お笑いタレント、俳優の前田健さんが44歳という若さで急死した。その衝撃は大きい。(写真:アフロ)

突然倒れる

松浦亜弥などのものまねで有名な、お笑いタレントで俳優の前田健さんが路上で倒れ重体というニュースが衝撃をもって伝えられたのはわずか2日前。4月26日午前、前田さんは帰らぬ人となった。享年44歳。心よりご冥福をお祈りする。

死因は虚血性心不全だという。

44歳?同い年ではないか…まったくの同年代の方の急逝に、私自身驚きを禁じ得なかった。

亡くなるまでの経過を時系列でまとめる。もともと不整脈の持病があったとのことだが、どのような不整脈かは不明だ。

ある関係者によると、前田はこの日朝から栃木県内で運動会をコンセプトにしたバラエティー番組の収録に参加。途中、「胸が苦しい」と訴え、医務室で休憩する場面もあったが、午後4時まで収録に参加し、都内へ戻ったという。

出典:サンスポ

倒れる直前まで前田は、現場から約70メートルしか離れていない行きつけのパスタ店で食事していた。店員によると1人で入店し、パスタとパン、コーラを注文。自身のツイッターにパスタの写真を投稿していた。

出典:サンスポ

亡くなる直前の写真はこちら。こってりとした感じだが、死との因果関係は不明だ。

その後倒れたという。

警視庁四谷署などによると、前田は24日午後7時15分ごろ、新宿3丁目の繁華街の交差点でおう吐し、その場に倒れた。心肺停止状態だったという。

出典:サンスポ

現場近くのパチンコ店副店長(34)によると、医大生カップルがあおむけで倒れていた前田を発見し、心臓マッサージを施した。その後、パチンコ店へ自動体外式除細動器(AED)を取りに来た医大生と店員らで介抱し、AEDを使用した。

出典:サンスポ

いったんは蘇生したものの、その後容態が悪化し、4月26日未明、息を引き取った。

心血管障害は急死の原因に

すでに阿藤快さんの急死の記事大阪梅田の自動車事故の記事で述べたように、急死を引き起こす原因の多くは、心臓もしくは血管の病気だ。

前田さんに関する報道でも、以前から不整脈の持病があったこと、直前の番組収録で胸の痛みを訴えていたことなどを考えると、心臓を栄養する冠動脈が狭くなっており、運動した後に胸が痛くなる狭心症が発症していたのかもしれない。

狭心症や急性心筋梗塞は、過食や栄養過多などの生活習慣が引き起こす、いわゆるメタボリック症候群が進行し起こると言われる。肥満に加え高血糖、高血圧、高脂血症が続くと、全身の血管にコレステロールがたまり、粥腫(じゅくしゅ)ができる。これが次第に大きくなり、冠動脈を狭くする。

運動をすると、心臓が全身に血液を送るために、いつもより多くの酸素や栄養が必要となる。しかし、冠動脈が狭くなった状態では、酸素や栄養が十分供給できない。これが狭心症だ。

そして、何らかのきっかけで狭くなった血管に血の塊ができ、血管をふさぐと、心臓に血液が行きわたらなくなる。こうして急性心筋梗塞が発症する。経過から、胸の痛み、狭心症と思われる症状が、急性心筋梗塞の「前触れ」であった可能性もあると思われる。

こってりした食事の写真や、身長174センチメートルに対してやや多い80キログラムの体重があったこと(BMI(ボディマスインデックス)=26;体重(キログラム)÷身長(メートル)÷身長(メートル)で算出される。20から25が正常値とされる。)などを考えると、生活習慣がメタボリック症候群を引き起こし、これが狭心症、急性心筋梗塞の原因になったのかもしれない。

40代は若すぎるか

とはいえ、BMI26という人はざらにいるし、著しく太りすぎというわけではない。こってりした料理を好む40代は多いだろう。自分にもこうしたことが起こるのではないか、と不安になっている40代は多いのではないか。

2014年に虚血性心疾患で亡くなった方の年齢別の数。40代から増え始める。
2014年に虚血性心疾患で亡くなった方の年齢別の数。40代から増え始める。

厚生労働省の人口動態調査によると、2014年に虚血性心疾患(急性心筋梗塞や狭心症を含む)で亡くなった人は男女あわせて73885人。うち40~44歳で亡くなった人は659人、45~49歳で亡くなった人は938人。合わせて1597人。率でいえば、40代で虚血性心疾患で亡くなる人は、全体の2パーセントにすぎない(図)。

しかし1000人を超える40代が毎年虚血性心疾患で亡くなっているのだ。これは無視できる数ではない。

このほか、脳血管疾患で亡くなる40代は2009人(全年齢で114207人;1.8パーセント)など、率としては少ないとはいえ、2000人を超える人が亡くなっている。生活習慣が関与すると思われる病気は、だいたい40代くらいから症状があらわれ、ときに人を死に至らしめるのだ。

無理ができなくなる40代

確かに40代で急死する人はまれだ。だから「自分には関係ない」と思う人がいても無理はない。

しかし、40代以降、生活習慣は徐々に牙をむき始める。病理解剖の経験でも、30代まではかすかにコレステロールが沈着するのがみられる程度だった血管が、40代では石のように固くなっているというケースに遭遇する。

40代はもはや生活習慣を若さでカバーできない年齢なのだ。いわゆる「メタボ検診」が40歳から始まるのは、それなりの理由があるのだ。

ただ、生活習慣を改めれば、血管の病変の進行を遅らせることができる。

まだまだやりたいこともたくさんあっただろう、同年代の方の死は胸に突き刺さる。その死を無駄にしないためにも、私たちはいま、自らの生活習慣を見直すことからはじめよう。

病理専門医&科学・医療ジャーナリスト

1971年横浜生まれ。神奈川県立柏陽高校出身。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒業後、大学院博士課程まで進学したが、研究者としての将来に不安を感じ、一念発起し神戸大学医学部に学士編入学。卒業後病理医になる。一般社団法人科学・政策と社会研究室(カセイケン)代表理事。フリーの病理医として働くと同時に、フリーの科学・医療ジャーナリストとして若手研究者のキャリア問題や研究不正、科学技術政策に関する記事の執筆等を行っている。「博士漂流時代」(ディスカヴァー)にて科学ジャーナリスト賞2011受賞。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。近著は「病理医が明かす 死因のホント」(日経プレミアシリーズ)。

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