Yahoo!ニュース

若い女性の「進行性がん」とは?~小林麻央さんの乳がんから考える

榎木英介病理専門医&科学・医療ジャーナリスト
小林麻央さんの一刻も早いご回復をお祈りします(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

「進行性がん」報道に衝撃走る

6月9日、スポーツ報知の一面が世間に衝撃をもたらした。フリーアナウンサーで歌舞伎俳優市川海老蔵さんの妻、小林麻央さんが「進行性がん」」で闘病中であるというのだ。

歌舞伎俳優・市川海老蔵(38)の妻でフリーアナウンサーの小林麻央(33)が進行性のがんを患い、極秘入院していることが8日、分かった。

出典:スポーツ報知

まだお若い麻央さんが「進行性がん」とは…衝撃的な報道にメディアは騒然となった。いったい何がんだろうか。ご家族の心労はいかばかりか…私自身も心が痛んだニュースだった。

「情報ライブミヤネ屋」に出演

そんななか、筆者が所属する近畿大学の広報から連絡があった。小林麻央さんの件で、読売テレビ「情報ライブミヤネ屋」に出演してくれないかという。

なぜ病理診断が専門の私に?

局から近畿大学に専門家の出演依頼があったが、がんの部位が分かっているなら、その専門家を局に紹介できるものの、何も分からない状態では病理診断であらゆる臓器のがんを扱う私がいいのではないかという。

手掛かりは33歳女性の「進行性がん」という事実のみ。果たしてそれだけで何か解説できるか…不安ではあったが出演を引き受けた。

若い女性の「進行性がん」とは?

33歳女性にはどんながんが発生するのか。

がんは圧倒的に高齢者がかかる病気だ。33歳という年齢でのがんは少ない。とはいえ、芸能人にも若くしてがんに罹った方がいる。古くは堀江しのぶさん、最近ではキャスターの黒木奈々さんの命を奪ったスキルス胃がんが印象深い。

局もスキルス胃がんを全面に出したパネルを準備していた。そこで私は、乳がんと子宮がんも解説したほうがよいとアドバイスした。

#ここで言葉の定義をしておきたい。ひらがなの「がん」は悪性上皮性腫瘍である「癌」と、悪性非上皮性腫瘍である「肉腫」を合わせたものだ。乳がんの多くは悪性上皮性腫瘍の「癌」だ。

市川海老蔵さんの記者会見で、麻央さんが乳がんで1年8か月闘病中であることが明らかにされた。

ーー麻央さんの病名は?

そうですね、単刀直入に言うと乳がんです。約1年8カ月ほど前にわかりました。

出典:ハフィントンポスト

奥様と小さなお子さんを守ろうとする市川海老蔵さんの堂々たる会見に涙が出そうになった。麻央さんの完治を心からお祈りすると同時に、ご家族との大切な時間を過ごすために、メディアは市川さんたちをそっとしておいてほしいと思う。

結果として事前に予想した通りになった。

30代ではまれだが…

年齢別のがんの発生部位を知るには、国立がん研究センターがん対策情報センターの最新がん統計が参考になる。

詳細なデータなら、国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」のなかの罹患データをみたい。これによれば、30-34歳の女性の部位別がん罹患率(人口10万人あたり;2010年)は以下の通り。

子宮 37.5(うち子宮頸部30.2)

乳房 24.0

甲状腺 16.7

卵巣 8.3

胃 6.3

悪性リンパ腫 5.2

肺 2.1

大腸(結腸と直腸あわせ) 2.0

この年齢では女性特有の子宮頸がんと乳がんが多く、全年齢で最も死者数の多い大腸がんは少ない。もう少し上の年代になると、乳がんがもっとも多いがんになる。

乳がんに関する解説記事は多く出ているので、それらをご覧いただきたい。

確かに乳がんは30代前半ではまれといえるが、30代前半のがんのなかではまれではない。読売テレビの清水健アナウンサーの奥様が、お子さんを出産した直後に乳がんで亡くなられたように、若い女性にも乳がんが発生する。

このように、年代によってかかりやすいがんは異なる。小林麻央さんの乳がんは、同年代の女性に大きな衝撃を与え、検診行かなければ、と思う女性の声がきかれる。

前述のとおり、がんは高齢者がかかる病気ではある。しかし、若いからといってがんにかからないわけではない。若い女性は乳がんだけではなく、子宮頸がんにも注意されたい。また、男女を問わず、若いからといって健康を過信せず、体の小さな異変に注意し、早めに病院に行く、検診を受けるといったことを心がけたい。

著名な方の勇気ある病気の告白は、私たちに様々なことを気づかせてくれる。こうした機会を無駄にせず、健康と病を考えるきっかけとしていかなければと思う。

病理専門医&科学・医療ジャーナリスト

1971年横浜生まれ。神奈川県立柏陽高校出身。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒業後、大学院博士課程まで進学したが、研究者としての将来に不安を感じ、一念発起し神戸大学医学部に学士編入学。卒業後病理医になる。一般社団法人科学・政策と社会研究室(カセイケン)代表理事。フリーの病理医として働くと同時に、フリーの科学・医療ジャーナリストとして若手研究者のキャリア問題や研究不正、科学技術政策に関する記事の執筆等を行っている。「博士漂流時代」(ディスカヴァー)にて科学ジャーナリスト賞2011受賞。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。近著は「病理医が明かす 死因のホント」(日経プレミアシリーズ)。

榎木英介の最近の記事