Yahoo!ニュース

速報ノーベル医学生理学賞~大隅良典博士の単独受賞!

榎木英介病理専門医&科学・医療ジャーナリスト
大隅良典博士が医学生理学賞受賞決定!(写真:ロイター/アフロ)

ノーベルウイーク始まる

今年もノーベル賞受賞者の発表のシーズンがやってきた。

10月第一週、医学生理学賞(英語を直訳すると生理学医学賞だが、日本の報道機関は医学生理学賞と称する)にはじまり、翌日の物理学賞、3日目の化学賞と続く。

日本人受賞者が近年続いているため、どうしても日本人が取得するかに興味がいってしまうが、日本人云々に関わらず、重要な科学的テーマと、科学者の人生に注目が集まる週である。

10月3日18時30分過ぎ、ノーベル財団のページをリロードしまくった。すると、そこにはたった一人の、そして日本人の名前が。そう、ノーベル医学生理学賞受賞者として、オートファジーの仕組みを解明した、大隅良典博士の名前が飛び込んできた。

大隅良典博士が受賞決定!

大隅先生は、私が東京大学教養学部で研究していたときに近くの研究室にいらしたので、お名前は当然存じている。

そして、びっくりしたのが、単独受賞ということだ。単独受賞がどれだけすごいか。3人までが対象になるノーベル賞をたった一人で受賞するというのは、その分野をまさに単独で切り開いたという業績だ。1987年の利根川進博士も単独受賞だったが、単独受賞は数年に一度しかないすごいことなのだ。

弟子の水島昇博士との共同受賞もあるのかなと思っていたが、単独受賞となった。

単独受賞は驚きだが、受賞自体はそれほど驚きではない。

2013年、トムソン・ロイターは引用栄誉賞に大隅博士を選んでいた。この引用栄誉賞はノーベル賞の可能性が高いと言われ、数多くの受賞者を輩出している。

そしてこれだけでなく、近年朝日賞(2008年)、京都賞基礎科学部門(2012年)、ガードナー国際賞(2015年)、国際生物学賞(2015年)、慶應医学賞(2015年)、ローゼンスティール賞(2015年)、ワイリー賞(2016年)といった賞を受賞されている。

テレビのニュースでも、ノーベル委員会から電話がかかってくる様子が映されていたから、メディアも候補者としてマークしていたわけだ。それくらい当然の受賞なのだ。

オートファジーの何がすごいのか?

では、ノーベル賞当然と言われる業績とはいったい何なのか。

大隅博士の業績と人生、研究に関しては、JT生命誌研究館のページが詳しいのだが、閲覧時点でアクセス数が多いためかダウンしている。東工大のサイト「顔 東工大の研究者たち Vol.1 大隅良典」も参考になる。

ノーベル財団のプレスリリースのタイトルは「his discoveries of mechanisms for autophagy」、オートファジーのメカニズムの発見だ。

オートファジーとは、オート、とファジーの造語、すなわちギリシャ語の「自分」であるオートと「食べる」であるファジーをあわせた言葉だ。「自食作用」と訳される。

プロテアソーム系と並ぶ主要な細胞内分解機構

オートファジーの役割は、飢餓状態を生き抜くために自己消化することで栄養源を確保していると一般には理解されています。しかしながら近年では通常の環境下でもプロテアソーム系と並んで細胞成分の代謝に働いていることがわかっています。

出典:MBLホームページ

大隅博士は、1990年代初頭に、出芽酵母を用いてオートファジーに関わる遺伝子を世界に先駆けて明らかにした。

オートファジーは私たちを含むあらゆる真核細胞で起こっている現象であり、ノーベル財団のプレスリースでは、オートファジーを「essential mechanism in our cells」(私たちの細胞の基本的なメカニズム)と称している。

私たちは一見安定した存在に見えますが、実は約2ヶ月で体のほとんどの部品は新しいものと入れ替わっています。これは生物に秘められたリサイクル活動です。またときには環境の変化に応じて体の一部をより積極的に分解することもとても重要な作業です。つまり「日常的な地道な分解」と「激しく誘導される分解」を巧みに使い分けています。

出典:東京大学水島昇研究室

大隅博士の研究ののち、オートファジーは飢餓や様々なタイプのストレスに対する反応(感染などを含む)、胚の発生や分化、加齢に対する負の影響を取り除くといった様々な現象に関わっており、パーキンソン病、2型糖尿病、がんなどの発生にも関与していることが明らかになってきている。

Autophagy has been known for over 50 years but its fundamental importance in physiology and medicine was only recognized after Yoshinori Ohsumi's paradigm-shifting research in the 1990's. For his discoveries, he is awarded this year's Nobel Prize in physiology or medicine.(訳:オートファジーは50年以上前から知られていたが、生理学、医学における重要性は大隅博士が1990年代に行ったパラダイムシフトを引き起こす研究の後に明らかになったことだ。この発見により、彼は今年のノーベル医学生理学賞を受賞する)

出典:ノーベル財団のプレスリリース

ノーベル賞の単独受賞は納得の結果なのである。

病理専門医&科学・医療ジャーナリスト

1971年横浜生まれ。神奈川県立柏陽高校出身。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒業後、大学院博士課程まで進学したが、研究者としての将来に不安を感じ、一念発起し神戸大学医学部に学士編入学。卒業後病理医になる。一般社団法人科学・政策と社会研究室(カセイケン)代表理事。フリーの病理医として働くと同時に、フリーの科学・医療ジャーナリストとして若手研究者のキャリア問題や研究不正、科学技術政策に関する記事の執筆等を行っている。「博士漂流時代」(ディスカヴァー)にて科学ジャーナリスト賞2011受賞。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。近著は「病理医が明かす 死因のホント」(日経プレミアシリーズ)。

榎木英介の最近の記事