Yahoo!ニュース

東大女子学生家賃補助、何が悪い?

榎木英介病理専門医&科学・医療ジャーナリスト
東大が女子学生に月3万円の家賃補助を行うと発表。(ペイレスイメージズ/アフロ)

月3万円の家賃補助

東京大学が、来年度から女子学生を対象に、家賃補助を行うと発表した。

本学教養学部前期課程に入学する自宅からの通学が困難な女子学生のために、平成29年4月から、キャンパスに近く、セキュリティ・耐震性が高く、保護者が宿泊可能なマンション等の住まいを100室程度用意し、家賃支援を行います。

対象:

平成29年4月に本学教養学部前期課程に入学する女子学生

自宅から本学(駒場キャンパス)までの通学時間が90分以上

支援内容:

月額3万円(年間36万円)

支援期間:

入学から最大2年間(最大72万円)

出典:女子学生向けの住まい支援

2016年に東大に入学した女子学生は586人。入学者3,108人の19パーセントにすぎない。諸外国の著名大学と比べても見劣りする。

性別という観点でも、東大の男女比は、男子:女子=8:2で男子が圧倒的に多い。一方で、ハーバードは51:49、イェールは51:49とほぼ同等だ。

つまり、国籍などさまざまな意味でのダイバーシティが、日本の大学と海外の大学ではまったく違うのだ。

出典:東大とハーバードの大きな差 日米のトップ大学はどこが違うのか?

東大自身も首都圏の出身者が多いことや女子学生比率の低さを問題にしている。

濱田純一前総長は、「東京大学の行動シナリオ -FOREST2015」で、2020年までに女子学生比率を30パーセントにするという目標を掲げていた。五神真現総長も、東京大学ビジョン2020のなかで、数値目標はないが、学生の多様性拡大を目標に掲げている。

女子高校生を対象とした入学案内を行うなど様々なことを行ってきた。

しかし、効果がなかったという。

東大は、多様な人材による研究や教育力の向上を目指し、高校訪問や女子高校生向けのイベントを開くなど女子の受験を呼びかけてきたが、ほとんど増えなかったという。地方の入試説明会などで、女子の安全な住まいについて心配する保護者が多かったため、こうした支援に乗り出した。

出典:東京大学、女子学生に月3万円の家賃補助へ

批判沸き起こる

この発表に対して、批判が沸き起こっている。

大学は14日、来年からこの制度を導入すると公表しましたが、「男子には補助しないのか」とか「経済的な苦労は男子も同じなのに不平等だ」といった批判的な意見がおよそ50件、寄せられているということです。

出典:NHKニュース

その他記事。

家賃補助とはやや異なるが、今までも、女子優遇策に対して批判が寄せられるというケースがあった。

「アファーマティブ・アクション」の是非

アメリカでは「アファーマティブ・アクション」という施策が行われている。

黒人,少数民族,女性など歴史的,構造的に差別されてきた集団に対し,雇用,教育などを保障するアメリカ合衆国の特別優遇政策。「積極措置」と訳されることもあるが定訳はない。リンドン・B.ジョンソン大統領(在任 1963~69)の時代に導入。

出典:コトバンク

アメリカの「アファーマティブ・アクション」にも、賛否があり、議論となっている。

アメリカ大統領選挙でも、「アファーマティブ・アクション」に対する怒りがトランプ氏を当選させた背景の一つだったという。

グローバリゼーションで潤っている都市部でも、性別や人種や国籍による差別を禁止するダイバーシティーの進展によって、たとえば移民の男性がアメリカ人女性の仕事を奪うケースもありますし、黒人男性に白人女性が仕事を奪われることもあります。「奪われる」側である人たちは、不当な差別により構造的に社会進出や能力を試す機会から遠ざけられていた人々により多くの機会を与えるアファーマティブアクションの取り組みに過敏に反応し、逆差別だと考えるのです。

出典:「普通」の人々の怒り 大統領選がみせたアメリカの分断は他人事ではない

「男性優遇」の現状に目を向けよ

今回の女子学生の家賃補助も含め、女性優遇策に男性が逆差別感を感じるのは、男性も含め、厳しい環境に直面し、悪戦苦闘している人が多いということだろう。「アファーマティブ・アクション」には賛否もある。

しかし、これを機会に、「男性優遇」の現状にも目を向けるべきだと思う。

私が東大生だったときも、女子学生は少なかったし、東京出身で現役で入学した学生が多数を占めていた。この背景には「女子は自宅から通学」「浪人は許さない」という家庭が多かったことが推定される。

つまり、浪人でき、かつ下宿生というのは、男性の特権だったということだ。

進路を決定する際に女子の方が考慮する点は,自宅通学の可能性(「とてもあてはまる」+「あてはまる」男子 57%,女子 70%),家庭の経済的状況(同男子 57%,女子 63%)で,家族の影響も大きい(同男子 64%,女子 71%)と答えている。進学を規定する要因として

家族の状況は大きな影響力を持っているが,とりわけ,女子の方が,現実の状況に敏感にならざるを得ないと言える。

出典:高校生の進路選択の要因分析 小林雅之(東京大学大学総合教育研究センター)

先ごろ、世界経済フォーラムは、ジェンダー・ギャップ指数を発表した。日本は女性の活躍の度合いが世界111位と、とても誇れるものではない。

逆差別だと騒ぐ前に、じゃあ、どうするの、ということを考えないといけないのではないか。

病理専門医&科学・医療ジャーナリスト

1971年横浜生まれ。神奈川県立柏陽高校出身。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒業後、大学院博士課程まで進学したが、研究者としての将来に不安を感じ、一念発起し神戸大学医学部に学士編入学。卒業後病理医になる。一般社団法人科学・政策と社会研究室(カセイケン)代表理事。フリーの病理医として働くと同時に、フリーの科学・医療ジャーナリストとして若手研究者のキャリア問題や研究不正、科学技術政策に関する記事の執筆等を行っている。「博士漂流時代」(ディスカヴァー)にて科学ジャーナリスト賞2011受賞。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。近著は「病理医が明かす 死因のホント」(日経プレミアシリーズ)。

榎木英介の最近の記事