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学歴フィルターに怒る前に就活生がやるべきこと

藤代裕之ジャーナリスト
最低でも「就活四季報」(東洋経済)ぐらいは見ておきたい

就活の学歴フィルター問題。ツイッターで就活生に名指しされたゆうちょ銀行はお気の毒ですが、企業が学歴を参考にするのは一定の合理性があると考えています。勉強は努力が反映されやすいため、学生の基礎力を測りやすいのです。一方で、性別、出身地などでフィルターすることが社会的に問題となるのは、本人の努力と無関係だからです。

就活生は「嫌な世の中だ」とツイートしたようだし、ネットニュースサイトでは「勇気ある就活生」などと持ち上げたところもありますが、社会に出れば、学閥だけでなく、派閥などの利害関係が入り交じります。では、「学歴不問」が徹底されている企業は良いかというと、そうでもないかもしれません。実力のみの競争は厳しいということも理解しておいたほうがいいでしょう。

大学の授業でもよく話しているのですが、就活生にとって重要なのは就活戦線をくぐりぬけ内定にたどり着くこと。そのためには、学歴フィルターに、怒ったり、嘆いたり、する前にやることがあるのです。

「敵(彼)を知り己を知れば百戦殆うからず」という有名な言葉がありますが、現在の就活は己にフォーカスが当たりすぎていると感じます。やたらと1年生から自己分析をやらせたりしているキャリアセンターもあるようですが、その前に敵を知るべきでしょう。

就活四季報(東洋経済)や、各社の採用ページ、新聞各紙の記事(大学図書館のデータベースで過去記事も読める)などから自分の希望する企業を調べてみましょう。採用実績校や役員の学歴などから、その企業がどの程度学歴を重視するのか、また偉くなれるのか、も予測できるはずです。自分の大学から数年以上にわたり採用実績がなければ、かなり難しいと判断できます。

話題となったゆうちょ銀行はどうでしょうか…

ゆうちょ銀行

採用数420人、採用実績校ー就活四季報に記載なし

代表執行役社長長門正貢(一橋大社)、代表執行役副社長田中進、取締役西室泰三(慶応経)参考:役員一覧ページ

長門氏は旧日本興業銀行、みずほコーポレート銀行常務執行役員、富士重工業副社長、シティバンク会長から。田中氏は監督官庁である総務省、内閣官房郵政民営化推進室参事官から。西室氏は東芝の社長、会長を努め、東京証券取引所取締役会長から。ゆうちょ銀行は、民営化か見直しかで政権が変わるたびに揺れ動き、トップもその動きが反映され外部登用が進んでいます。

このようなことは普段からニュースを見ていればわかるし、ウィキペディアにも載っているようなことです。また、元は三公社五現業であり、官庁にあるような東大を中心としたキャリアと、現業の区分がありそうだ、ぐらいは予想できるでしょう。ちなみに、執行役副社長に間瀬朝久という人がいるのですが、名前を検索したところ興味深い記事が見つかりました。

日本郵政公社はこのほど、4月1日付けで執行役員制度を導入するのに伴う20人の執行役員人事を発表した。最大の目玉は、郵便貯金システム一筋35年のシステム担当者を執行役員に任命したこと。関係者によれば、いわゆる“ノン・キャリア”が執行役員に相当する地位に就くのは、1871年の郵便創業以来、134年間を振り返っても前例がないという。

出典:郵政公社134年目の快挙、システム一筋35年の現場“たたき上げ”執行役員が誕生

予想どおりですね…

学生に人気が高い航空業界。ANA(全日本空輸)はどうでしょうか。

ANA(全日本空輸)

採用数54人、採用実績校(文系)、早大、慶大、北大、東大、ICU、関学大、立命大、同大、東京外大、阪大、神戸大、他

HD役員。会長伊東信一郎(九州大経済)、社長片野坂真哉(東京大法)、副社長執行役員竹村滋幸(神戸大経済)、殿元清司(関西学院大経済)、篠辺修(早稲田大理工)参考:役員一覧

旧帝有力国立大、早慶上智・関関同立レベル、+ICUや東京外大といった国際系を中心に採用していることが分かります。

マスメディア業界はどうでしょう。

日本経済新聞

採用数60人、採用実績校、京大、東大、早大、慶大、東京外大、学習院、ICU、同大、立教大、立命館大、愛媛大、阪大、京大、上智大、中大、筑波大、東京学芸大、東京農業大、徳島大、名大、山形大、横国大、海外大、他

会長喜多恒雄(慶応大経済)、社長岡田直敏(東大)、副社長小孫茂(早大一文)、副社長村上一則、副社長木舟一郎、参考:役員一覧

マスメディアは難関とされますが、GMARCHや地方国立大を採用しています。

ゆうちょ銀行と同じ金融。

みずほフィナンシャルグループ

採用数約1000人。採用実績校ー就活四季報に記載なし

グループCEO佐藤康博(東京大経済)、銀行頭取林信秀(東京大経済)、信託社長中野武夫(東京大法)、本山博史(東京大経済)参考:トップメッセージ

少し調べるだけでも希望する企業の採用方針がぼんやりと分かってるはずです。上記の情報を複数年比較してみるとさらに分かるでしょうし、企業の採用パンフレットや説明会での話、先輩やOG・OBの話、掲示板などの情報を組み合わせることができます。

もちろん採用実績がないからといって「受けるのをやめろ」と言っているのではありません。学歴フィルターに、怒ったり、嘆いたり、する前に企業を分析したほうがいい。さらに、企業の歴史や取り組み、トップのインタビュー、最近取り上げられたニュースなどを見ることで、企業の姿勢や今後取り組もうとしていることも分かり、エントリーシートの書き方や面接の話し方など、戦い方を変えていくことが出来るのです。

学歴がある基準(むろんそれが全てではない)として採用されているからこそ、能力があるにも関わらず教育を受けられない状況や、附属などからストレートで大学生になりそれほど勉強していない学生も同じ扱いで良いのか、ということも問題となるわけです。最近ではサークルやバイトではなく、大学での研究や成績を重視する企業も出てきており、望ましいことだと思います。

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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