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スキーバス転落事故で起きたソーシャルメディアの顔写真「引用」報道への批判

藤代裕之ジャーナリスト
スキーバス転落事故を報じる朝刊社会面。左から毎日新聞、読売新聞、朝日新聞

12人の大学生が亡くなった長野県で起きたスキーバス事故。私が所属する法政大学も尾木直樹先生のゼミ生3人が巻き込まれました。本当に残念でなりません。心からお悔やみ申し上げます。

大きな事件・事故があるとマスメディアは顔写真やエピソードを掲載しますが、今回はソーシャルメディアを使う世代が巻き込まれたということもあり、バス事故で亡くなった学生たちの写真を、Facebook、Twitter、ブログから「引用」して報道したことに批判が起きています。なぜ分かったかというと、朝日新聞の記事に「フェイスブックから」「ブログから」と書かれていたからです。

出所を明示した朝日、しなかった読売・毎日

まず踏まえておきたいのは、朝日新聞はソーシャルメディアが出所であると明示していますが、読売新聞、毎日新聞を購入して確認したところ、出所は明示していませんでした。にもかかわらず朝日と同じ写真がありました。これはどういうことなのでしょうか。

事件・事故で亡くなった方の写真の扱いについては色々な意見がありますが、報道現場の認識は概ね下記のような「報道目的であれば使っても良い」というものです。ソーシャルメディア以前は、大きな事件・事故があれば顔写真を「どこからか(卒業アルバムや友人が持っているものなど)」入手して掲載してきたわけですが、この場合許諾を得ることも、出所を示すこともありませんでした。また、ソーシャルメディア時代においても、下記のように弁護士から解説が行われています。

三村氏は、動画投稿サイトやソーシャルメディアに掲載された動画、画像の利用について、投稿者の許諾が得られない場合でも報道利用であれば全面的に認められるとの考えを示した。また、投稿者本人が利用を拒否した場合でも、法律面で問題はないとした。

ソーシャルメディアに投稿された顔写真についても同様に、報道目的であれば許諾なしで利用できると述べた。

出典:日本新聞協会:三村弁護士、報道と肖像権の問題を解説 報道資料研究会

それでは、なぜ朝日が出所を明示したのでしょうか。それは「引用」だと捉えた可能性があります。

Facebookのプロフィールは投稿が非公開であっても公開されています。公表された著作物は報道、批評、研究などの目的であれば出所を明らかにするなどのルールを守っていれば問題になりません。ソースを提示していない読売や毎日は、これまでどおり「どこからか」入手したスタイルになっています。

朝日の記事を批判する人もいますが、「どこからか」入手して掲載したというスタイルより、朝日の記事のほうがソーシャルメディアの時代に適した記事の書き方であるように思います。

ソーシャルメディアを死後に使われる気味悪さ

ルールを守っていたとしても、どことなく「これでいいのか」という違和感は消えないと思います。それは、個人が身近に使っているソーシャルメディアの写真を死後に「勝手に」使われる気味悪さではないでしょうか。新聞やテレビで広く扱われると想定してプロフィール写真を選んでいる人はほとんどいないでしょう。

現状のルールでは「引用」の範囲内だとしても、社会的に課題があるとすればマスメディアは扱い方を検討すべきですし、社会的な制度としても議論されるべきです。今回の場合であれば、遺族の許可・同意が得られていることを明記するというやり方があるでしょう。もしかしたら許可を得ているのかもしれませんが、現在の報道スタイルでは読者には分かりません。

個人としてこの問題を捉えるなら、誰もが見えるところに何らかのコンテンツを公開するということは、報道、批評、研究に引用されても仕方がないということです。なお引用は許可を得る必要がありません。無断引用という言葉は間違いです。もし、引用されたくなければ今のところは、公開されるネットに顔写真を掲載しないようにする必要があります(なお、LINEなど公開が前提となっていないものは別)。

これではさすがに不便すぎます。報道のあり方だけでなく、システム的にも、自分の死後にアカウントやコンテンツにどう扱っていいかの選択を予め意思表示しておくなど、新たなルールについて議論されていく必要があるでしょう。

そもそも顔写真は必要か

ソーシャルメディアから顔写真を「引用」する問題以前に、報道に顔写真が必要なのかという根本問題についても考える必要があります。顔写真については、『新聞報道と顔写真―写真のウソとマコト』という本があるぐらいですし、横山秀夫が地方紙を描いた小説『クライマーズ・ハイ』でも物語の鍵になるエピソードとして描かれ、長い間報道現場で課題となっています。

私が駆け出しの記者だった20年前はどんな小さな交通事故でも顔写真を入手するのが当たり前という時代でしたが、だんだんとよほど大きな事件・事故でなければ掲載されなくなってきました。これは社会状況の変化によるものです。それでも掲載を続ける理由には読者や視聴者が望むからという側面があります。今回のスキーバス事故でも、容姿についてタイトルに出したまとめサイトもあり、拡散されています。顔を見てみたいという読者の欲望から、目をそらしては議論は進みません。

ただ、欲望を剥き出しにしたメディアはネット上に無数に存在し、気軽にアクセスが可能になっています。つまりマスメディアがやらなくても良いと考えることもできます。報道機関として信頼と価値を高めたいのだとすれば、ソーシャルメディアで簡単に「引用」できたとしてもあえて掲載せず、遺族から許可を得るなど丁寧に取材し、それを読者が分かるように伝えていくという方法もありそうです。そうなれば、読者である私たちがどのメディアを選ぶのかということになります。

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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