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「だてマスク」が流行する理由。「顔のパンツ」でプライバシーを守る。

五百田達成作家・心理カウンセラー
(写真:アフロ)

街はマスクだらけ

日に日に寒さが増し、道行く人もコートにマフラー、そして手袋と完全防備で歩いています。最近では、それに加えマスクをしている人も増えました。電車に乗ると、見わたす限りマスク、マスク、マスクなんて光景も。

百花繚乱のマスク業界

試しにドラッグストアに足を運んででマスク売り場を見てみると、種類の充実ぶりに驚きます。一昔前のオールドタイプのガーゼマスクは影をひそめ、使い捨て派が主流に。広がって顔にフィットするプリーツタイプや、立体構造の3Dタイプなどが隆盛を極めています。これなどは、鼻から口にかけて顔の半分がしっかりと覆われる設計です。

そのほか、アロマの香り付き、保湿効果付き、耳が痛くならない、めがねがくもらない・・・など、マスクについて考え得る不快感はすべて取り除こうという意気込みすら感じられます。

いっぽう、使い捨てが流行すれば、そのリバウンドとしてエコ派も黙っていないのは時代の必然。おしゃれな布を使ってデザインされた、何度も洗って使えるエコロジーなマスクなども話題。空前のマスク多様化時代に突入しています。

それにともない値段も手頃に。「箱買い」して、毎日つけるユーザーも少なくありません。

予防、美容、防寒、そして……

本来は風邪をひいた人が、自分の呼気を周囲にまき散らさないためのものだったマスク。それが次第に、そうしたウィルスから自分を守るための予防に目的がシフトしています。身の回りでも、出会うとマスクをしているので「風邪?」とおそるおそる(心配ではなく(笑))聞くと「予防です」と答えられ、安心する、という光景が多くなっています。また、春先には花粉症対策としても重宝されます。

ところが最近はその用途・目的がさらに多様化。女性の間では「マスクをするだけで保湿効果があって肌がうるおう」「すっぴんを隠せる」「紫外線対策」など本来の目的プラスアルファの効果も狙っている様子。美容アイテムとしても注目が集まっています。

さらには「防寒」目的も見逃せません。あまりの寒さに、覆えるところは全部覆おうと考えると、顔だけは無防備になりがち。そんなときに便利なのがマスクというわけ。美容にも予防にも関心がない男性でも、防寒アイテムとして重宝し始めています。

隠された深層心理

このような「風邪も引いてないのにマスクをつける」というのは、「目が悪くないのにメガネをかける」のと同じ。いわば「だてマスク」とも呼ぶべき習慣です。

この習慣には、これまで挙げた目的以外にも、ある微妙な深層心理が隠れています。

それは「自己防衛本能」。

周囲の世界と自分を遮断することで、自分を安全な立場に起き、余裕を持って外界と接することができる。顔を覆い尽くすことで、他者からの視線も逃れることができるいっぽうで、自分は相手のすべてをチェック可能。

これは、ひところ若い女性たちの間でサングラスが流行った際によく言われた「サングラスをすると自分が強くなったような気がする」という理由と似た効果です。

芸能人の定番「サングラス」に「だてマスク」

目が悪くないのにメガネをする。まぶしくないのにサングラスをかける。風邪を引いてないのにマスクをする。どれも同じ「防衛効果」があります。

そう考えてみると、芸能人などは昔からサングラス(あるいは大ぶりのメガネ)にマスク、というセットでプライバシーを守ってきたわけです。最近では、マスクをして目元だけ芸能人に似せる「ざわちんメイク」も、話題になっていますね。

普通の人がいきなりサングラスやだてメガネをするのは、おしゃれすぎて抵抗がある。それを不自然でなく行えるのが、冬の季節、というわけです。

もはや「顔のパンツ」 履いてないと恥ずかしい

僕自身、一時期飛行機に乗る機会が多く、乾燥予防と風邪予防の狙いから、「だてマスク」をしていた時期がありました。

実際、マスクを着用してみると感じるのは「口元が守られている」という安心感。逆に長時間つけていると、内臓の一部である「口」をおおっぴらに見せていたのが恥ずかしい気持ちにさえ、なってくるから不思議です。

ここまでくると、もはやマスクではなく「顔のパンツ」ともいうべき。文明人には欠かせないアイテム、上品なたしなみに思えてきます(笑)

20センチ四方のプライベート空間

さらには、口元のたった20センチ四方ではありますが、外部と遮断されたちょっとしたプライベート空間ができあがるのも実感。それはたとえるなら、家でついに個室を与えられた中学生のような背徳感、あるいは、パーテーションで仕切られたカウンターで存分にラーメンをすするリラックス感です。

電車の中でも、歩いていても、マスクさえあれば、そこ(顔付近)は一気に自分だけの場所になります。「話しかけられたくない」「話したくない」「表情を見られたくない」「匂いをかぎたくない」という気持ちが高まり、どんどん「引きこもる」ことに。

「予防」と言い訳できる

しかも、はた目には「本当に風邪を引いている」のか、「コミュニケーションを拒否している」のか分からないので、目眩まし効果も抜群。周囲から突っ込まれても「いや、ちょっと風邪の予防で……」と言い訳できるのも、ありがたいポイント(サングラスなどはこうはいきません)。

ひところ、人とご飯を食べずに自分だけでささっと済ませてしまう傾向を「個食」「孤食」などと言いましたが、いわば「個域」ともいうべき、もっとも手軽な「自分だけの空間作り」トレンドでしょう。

まさに、一度つけたらやめられない禁断の果実的な魅力があります。

「コミュニケーション遮断」がヒット商品のカギ

他者とのわずらわしいコミュニケーションをシャットアウトするのは、現代のトレンド。

自分はなにかに熱中しているし、あなたと関わりを持てる状況にないですよ、ということをアピールできる……。最近のヒット商品には、こうした「コミュニケーション遮断」をサポートする要因が含まれています。

いつもスマホをいじることで、話しかけられずにすむ。

ヘッドフォンで耳をがっちりと覆うことで、耳と気持ちをガードする。

サングラスで目元を隠し、誰だか分からない匿名性をキープ。

それに加えて「だてマスク」をすれば、鼻も口も快適に保たれて他者の侵入を阻むことができる。こうして、頭の先からあごの下まで完全ガードが完成します。

ちなみに最近流行している「自撮り棒」さえ例外ではなく、これは、他人に「写真を撮ってください」と頼むのがおっくうな現代人の意識をうまくついた現象・ヒット商品だと、私は分析しています。

夏には「清涼だてマスク」が流行!?

これだけ市民権を得た「だてマスク」ですから、流行は当分続くはず。冬を越えて春が来ても「花粉症対策です」という言い訳が使えるのでだいじょうぶでしょう。

夏の時期になればさすがに暑いか、とも思われますが、一度始めた「だてマスク」の習慣を、人々がそう簡単に手放せるかどうか。

となれば、各メーカーが「夏風邪・クーラー対策マスク」「蒸れなくて涼しい清涼さっぱりマスク」などと謳って、こぞって新商品を発売するかも。

「海外の人から見ると、マスクだらけの東京の街は異様」などいう批判をよそに、「だてマスク」の勢いはとどまるところを知らない様子です。

■参考記事

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作家・心理カウンセラー

著書累計120万部:「超雑談力」「不機嫌な妻 無関心な夫」「察しない男 説明しない女」「不機嫌な長男・長女 無責任な末っ子たち」「話し方で損する人 得する人」など。角川書店、博報堂を経て独立。コミュニケーション×心理を出発点に、「男女のコミュニケーション」「生まれ順性格分析」「伝え方とSNS」「恋愛・結婚・ジェンダー」などをテーマに執筆。米国CCE,Inc.認定 GCDFキャリアカウンセラー。

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