Yahoo!ニュース

日本は女より、男の“幸福度“が低い!ー“セクハラやじ”問題の本質とは?

河合薫健康社会学者(Ph.D)
著者:babasteve

「結婚できないのか?」「子ども産めないのか?」と女性にセクハラするオッサンは、

「嫁1人見つけられないのか?」「子どもの作り方知らないのか?」と男性にも刃を向ける。

女性が輝ける国にしよう!、だの、ワークライフバランスを徹底しよう!、だの、公約を掲げながらも、

「ナニ? 保育園の迎え? そんな理由で早退するなんて、信じられん」

「40過ぎて女房ひとり探してくることができないなんて、親が泣くぞ!」

などなど、終身雇用、年功序列、専業主婦が当たり前だった時代の、過去の「男の価値観」を、男性たちに平気で押し付ける。

しょっぱなから、少々妄想気味の内容でスタートしてしまったが、先週から話題になっている、“セクハラやじ”発言の問題の本質は、「女性蔑視」だけではない。

“セクハラ”を問題にすることもできず、声をあげることもできず、“女性たち”と同じように、いや、それ以上に、過去の性役割の押し付けに悲鳴を上げている“男性”も多いはず。

なんせ、

・男性の5人に1人が、生涯一度も結婚しない

・非正規社員の未婚率は、35~39歳70.5%、40~44歳では57.6%

・妻が主婦の場合、夫の「幸福度」が低い

「マジかよ?」とつい口にしてしまいそうな、ニッポンの男たちの現状が、「2014年版男女共同参画白書」で明らかになったのだ。

同白書が発行されて以来、初めて「男性特集」が組まれ、日本社会に根深く残る、「過去の男性観」に苦悩する“男性たち”の姿が、浮き彫りになったのである。

では、その「男女共同参画白書」の男性特集の内容の概略を、以下に示す。

詳しくご覧になりたい方は、こちらをどうぞ。

【寿命】

●90歳まで生存する者の割合は、男性で22.2%、女性46.5%。

【家族のカタチ】

●共働き世帯は過去最高の1065万世帯。一方、専業主婦世帯は減り続け、過去最少の745万世帯。

【結婚】

●生涯未婚率は、女性10.6%、男性 20.1%。ちなみに、昭和60年は、女性4.3%、男性3.9%で、男性の生涯未婚率が女性を上回るようになったのは、平成以降。

●男性の未婚率を年齢別に見ると、30~34歳の40.6%、35~39歳の29.1%、40~44歳では23.1%。

●非正規社員に限ってみると、30~34歳が84.5%、35~39歳が70.5%、40~44歳では57.6%。

【働く時間・賃金】。

●平均所得は、女性でおおむね増加しているのに対し、男性では正規・非正規など雇用形態や学歴を問わず減少(2005年以降)。

【幸福感】

●「現在、幸せである」と感じている女性の割合が、男性の割合を上回った。

●「現在、幸せである」と回答した者の割合を、世帯収入別に見ると、男性は300~450万円未満がピークで最も高いのに対し、女性では、世帯収入が高くなるほど幸福度が高い。

●「現在、幸せである」と回答した有配偶男女を、妻の就業状態別に見ると、妻が「主婦」の場合に、夫の幸福度は低い。

つまりこれらの結果を、かなりシンプルかつ、大げさにまとめると、

「俺たちって、長時間労働、低賃金、で、結婚もできない孤独な人生……。俺って、そんなダメな人間ですか?」

深~いため息とともに、そんな悲痛な嘆きが聴こえてきそうな、“男たちの今”が明らかになったのである。

ところが、これらの特集を組んだ内閣府担当者は、

「経済状況、家族形態など男性を取り巻く環境も大きく変化する中、制度や企業・組織の施策、働き方など、あらゆる面で社会のあり方を見直す時期にきている」

などと、かなり悠長なことを言っていた。

「出生率をあげろ!」「子どもを増やせ!」と言われたって、5人に1人が結婚をしておらず、非正規社員にいたっては、30代の7割近くが未婚で、無理なお話であるにもかかわらず、だ。

ちなみに、男女共同参画の担当大臣は、少子化対策大臣と同じ、森まさこ氏。

この「男性特集」の内容を報じた大手メディアは、私が調べた限り、毎日新聞と日経新聞だけだった。

もちろんライフスタイルが多様化し、積極的に独身を選んでいる人も増えているだろうし、「結婚がすべてだ!」 なんて言うつもりは、毛頭ない。

だが、「結婚したい」と願いながらも、結婚できない人たちがいるのも、また、事実。その原因の1つが、非正規という“身分格差”だ。

非正規=正社員になれなかった人 ――。そんな価値観が、社会に蔓延していることは否定できない事実である。 

以前、非正規で働いている男性をインタビューしたときに、非正規というだけで、相手の親からダメ出しされた方がいた。

「オレって、相手の親にダメ出しされるほど、ダメな人間なのでしょうか?」

その男性は嘆いていたのである。

そもそも、これだけグローバル化だの何だのと言うのであれば、「非正規社員の賃金は正社員よりも高くて当たり前」という世界の常識に、日本も倣うべき。

残業代ゼロ法案以上に、成長戦略の中で賃金格差をなくす議論をすべきだと思う。「非正規=正社員になれなかった人」といった偏見を完全に淘汰するためにも、正社員との賃金格差解消は必須なのだ。

だが非正規の問題以上に、今回注目すべきは、“未だに”女性のほうが、男性よりも幸福感が高いことだ。

近年、欧米諸国では、幸福度の男女差はなくなってきたとされている。ところが、日本では“いまだ“に、女性の方が高い。これは先進国では、極めて珍しい現象である。

「世界価値観調査」によれば、女性の幸福度のほうが男性を上回っている国のトップグループに、先進国であるはずの日本が位置している。

トップグループに入っているのは、イラク、エジプトなど国内紛争や戦争が行われている国々。つまり、強制的に戦闘参加を強いられ、男性が不幸になりやすい国が、上位にランクされているのだ。

なぜ、戦争も国内紛争もない日本で、ニッポンの男たちの幸福度は低いのか? 彼等の、戦場とは、いったいどこなのか?

それは、おそらく“職場”であり、“家庭”。日本社会そのものが、“戦場”と化しているのではないだろうか。

「男なんだから、しっかり稼ぎなさいよ」

「男なんだから、会社でも偉くなりなさいよ」

「父親なんだから、家族が路頭に迷わないようにしなさいよ」

そんな暗黙のプレッシャーを、夫たちに感じさせる社会が存在する。

「男」というだけで稼げる時代でもなければ、正社員=安定 なんて時代でもない。右肩上がりの給与も期待できなきゃ、いつ「もういらない」と放り出されるかもわからない。

おまけに、長時間労働はちっとも改善されず、 どんなに高い成果目標を突きつけられようとも、「ノー」という答えは準備されていない。

心や身体の健康を壊す同僚を見るたびに、「明日は我が身か?」と切なくなる。「過労死」と「ウツ」と、常に背中合わせの状況で、誰が幸せなど感じるだろうか。

ホントは、もっともっと家庭を優先させたい。会社人でいる前に、家庭人でいたい。

仕事も大事、家庭も大事。女性たちが家庭も仕事も、と願うように、男性たちも願っている。

ところが、それを“許さない”社会が、存在している。

そして、男性たち自身も、無意識に刷り込まれた、“性役割”に囚われ、身動きができなくなっている。それが、今の日本の姿なのだ。

冒頭で書いた通り、今回問題なったセクハラ発言をするような男性は、男性たちにも、過去の「男の価値観」を振りかざす。

でもって、こういうオッサンほど、“バッジ”が持つ力を必要以上に振りかざす。政治家の社会的地位と、自分の価値を勘違いする。“バッジ”がなくなった途端、頭を下げにくる人も、「先生、先生」と持ち上げてくれる人もいなくなるというのに…。なんとも気の毒な話だ。

そして、過去の「男の価値観」の押し付けは、女性たちの中にもある。

いまだに、高学歴、高収入=価値の高い男 とラベリングし、「おたくのご主人、どこにお勤め?」、「どちらの大学?」と、挨拶変わりにする女性は、少なからず存在する。そんな夫をもつ自分は、「価値の高い女」と、勘違いしている人たち。

批判を恐れずに言わせていただくと、自分たちの権利ばかりを主張し、男たちには、過去の性役割を無意識に求めている女性も、男性たちを苦しめているのではあるまいか。

ちょいとばかり言い過ぎてしまったけれど、男であれ、女であれ、「自分らしく」生きたいと思うのは、当たり前だ。女性たちにばかりスポットを当てるのではなく、男性にもスポットを当てることが、みんなのシアワセにつながる。そう考えることは、できないだろうか。

先日、講演会で、ある企業の経営者の方が、次のようなことをポロリとこぼした。

「会社なんて小さな社会で、社長になっても外に出れば“ただの人”です。会社で評価されるだけの人間になっちゃ、人はダメだね。そんな小さな世界の評価ばかり気にしてる人が、社員を幸せになんてできませんよ」

この経営者の方が何を言わんとしていたのか、なぜ、そんなことを言ったのか? 私にはいま1つ分からなかった。ただ、この方の言葉は、ご自身にも、そして、会社の社員の方たちにも、そして、私にも、向けられている言葉だったように思っている。

会社なんて、ちっちゃな社会で認められることばかりにとらわれるのではなく、長い人生で、「アナタがいてくれてよかった」と言ってもらえる人になったほうが、どれだけ価値あることか、と。自分で自分の首を締めることはないぞ、と。そう、言いたかったんじゃないかと。少なくとも私は、そう理解している。

「男らしく」と言われ続けてきた男性が「自分らしく」生きられるよう、社会の風潮を変えていくのも大事だが、男性たち自身も、自分らしく生きる覚悟をもったほうがいい。

「自分自身に忠実に生きれば良かった」、「あんなに一生懸命働かなくても良かった」「仕事に時間を費やし過ぎず、もっと家族と一緒に過ごせば良かった」――。

人生のラストシーンで、そんな後悔をしなくていい、生き方をする。

だって、たかが仕事、たかが会社、なのだ……。

※もっと詳しくお読みになりたい方は、こちら“セクハラやじ”と「5人に1人が結婚できない」ニッポン社会の未熟度

健康社会学者(Ph.D)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。 新刊『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか』話題沸騰中(https://amzn.asia/d/6ypJ2bt)。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究、執筆メディア活動。働く人々のインタビューをフィールドワークとして、その数は900人超。ベストセラー「他人をバカにしたがる男たち」「コロナショックと昭和おじさん社会」「残念な職場」「THE HOPE 50歳はどこへ消えたー半径3メートルの幸福論」等多数。

河合薫の最近の記事