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Facebookの「いいね!」大量生産するダッカのクリック工場

木村正人在英国際ジャーナリスト

ソーシャルメディアのFacebook、Twitterや大手動画投稿サイトのYouTubeは新作音楽や映画、新商品のプロモーションに欠かせないツールだ。8月5日夜に放映された英民放チャンネル4の調査報道番組『Dispatches』は、Facebookの「いいね!」、Twitterのフォロワー、YouTubeのビューを大量生産する「ヤミ工場」に切り込んだ。

中国を拠点に「いいね!」やフォロワーを増やすサクラ集団の存在が日本でもクローズアップされているが、今回、調査報道の対象になったのは、縫製工場の崩壊事故で1千人以上が犠牲になったバングラデシュのダッカにあるクリック工場。オーナーは「Facebookの王様」と呼ばれていた。

ビルの一室で10数人の若者がパソコンの画面を見ながら、アカウントを使い分け、ひたすらクリックを続ける。ある若者は1千のアカウントを持っていると打ち明けた。この工場ではFacebookのいいね!は1千人分で15ドル、YouTubeは1千ビューで3ドルだ。3~4時間もすれば、いいね!が1千人分増えている。

バングラデシュの若者は1日3交代で24時間、Facebookのいいね!やTwitterのフォロワーを増殖させている。国民1人当たりの月収は約60ドル。クリック工場はバングラデシュでは割のいいビジネスなのだ。

昨年の米大統領選。共和党の大統領候補ミット・ロムニー氏が1日でTwitterのフォロワーを11万6千人も増やしたことから、フォロワーの15%が買われていた疑いがあると報じられた。

YouTubeからスターダムにのし上がったカナダの人気歌手ジャスティン・ビーバー。Twitterのフォロワーは米国のミュージシャン、レディー・ガガを追い越し、現在4200万人。しかし、その約半数はニセ・アカウントだという疑惑がささやかれている。

こうした疑惑は大手飲料メーカー、ペプシやドイツの自動車メーカー、メルセデス・ベンツ、高級ブランドのルイ・ヴィトン、政治家ではロムニー氏のほか、ロシアのメドベージェフ前大統領にも向けられている。

また、英国では業者が間に入ってTwitterでセレブ(芸能人や有名スポーツ選手)たちに新商品についてつぶやかせるビシネスまで登場。広告まがいのつぶやき防止策として、Twitterは「♯ad」のハッシュタグを入れるよう利用者に呼びかけている。

Facebookのいいね!は1日45億回(昨年より67%増)のペースで増えている。このうち何%がバングラデシュや中国のクリック工場で生み出されているのかは、誰にもわからない。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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