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もう誰もマスコミを信じない 横綱・白鵬の告白

木村正人在英国際ジャーナリスト

29度目の優勝を決めた大相撲の第69代横綱・白鵬さんが夏場所千秋楽翌日の記者会見に出席しなかったことをめぐり、「大人げない横綱・白鵬の態度 関係者嘆く『ダーティーなイメージさえ出てきた』」などの憶測記事が駆け巡っていた。

これに対し、白鵬さんが自身のブログで会見に出なかった理由を初めて明かした。妊娠5カ月で流産した妻の紗代子さんを思いやり、「もし会見に出たら、おそらくお腹の中の子供のことも聞かれるであろうと考えました。紗代子のことを考えると、事実を発表するには早すぎて、しかし嘘をつくことも胸が痛みました」という。

横綱・白鵬さんのブログ
横綱・白鵬さんのブログ

横綱も1人の人間である。しかし、それまでのマスコミ報道は振り返ると、あまりのひどさに言葉を失ってしまう。

(略)白鵬は会見申し入れを蹴った。部屋関係者も懸命に説得したらしいが、頑として応じなかったという。「理由はいろいろあるようだが、どうしても嫌なようです」という部屋関係者の説明を聞くと、まるで駄々っ子だ。

「(略)悪ガキ朝青龍と対照的だった当初と違って、いまやダーティーなイメージさえ出てきた」と関係者は嘆く。(略)(作家・神谷光男)

Zakzak【スポーツ随想】

謎深まる白鵬の一夜明け会見拒否

東スポWeb

仮に夏場所終盤の2日間の無言と一夜明け会見拒否が無関係の出来事で、一夜明け拒否の方が単なる「夜通し祝勝会」が理由だとしたら…。本人は気恥ずかしかったので、事前の会見要請を理由なしに断り、波紋や真相をめぐる憶測が広がったことで、ますます引っ込みがつかなくなったとも考えられる。

東スポWeb

最も有力とされているのが白鵬夫人に関する話だ。実は現在、白鵬夫人は第4子を懐妊しており、今秋にも出産予定だという。(略)「この日の朝、あるスポーツ紙が夫人の妊娠を報じてしまったのです。まだ安定期にも入っていないし、後援者にも報告していなかったから、白鵬としては相当腹に据えかねたらしい。記者の前で機嫌が悪かったのは、この内容をかぎつけられて、何かの形で取材をされたからではないか」(関係者)

NEWSポストセブン

「どうやら、家族のことを聞かれるのを嫌がったらしい。それがなんなのかは不明だが、一部マスコミがある情報をキャッチして、千秋楽前に白鵬サイドに当てたらしい。悪い話ではなく、オメデタい話のようだけど。そこから白鵬がピリピリしだしたそうだ」

日刊サイゾー

これだけインターネットが発達した時代、マスコミの存在意義は(1)渦中の人からのインタビュー(2)現地に足を運んでの取材(3)事実確認(4)権力監視――がきちんとできているかどうかだ。マスコミには手間ひまかける十分な人材と資金力がある。

しかし、事実確認は行わず、ウワサの域をでない伝聞を脚色して報じていることが白鵬さんの真摯な告白で改めて浮き彫りになった。

一昔前なら、白鵬さんが最も信頼するジャーナリストに真相を打ち明け、硬派の雑誌にスクープ記事が掲載されていたはずだ。白鵬さんはそうせずブログに夏場所中に第4子を失った悲しみと紗代子さんへの愛を綴っている。

これまで、たくさんのスポーツ選手がマスコミ不信に陥ったのも無理はない。マスコミはウソやデタラメだけをまき散らす存在になり下がってしまっているからだ。

真相は本人のブログで語られる。報道が事実かどうかの検証はインターネットを通じて行われる。「権力監視」についても、マスコミは政権、警察、検察に擦り寄り、権力に都合の良い情報を垂れ流している、情報を操作しているという批判が絶えない。

これは何も日本に限った問題ではない。

米国でも一流紙ニューヨーク・タイムズやウォールストリート・ジャーナル、ワシントン・ポストに内部告発資料を持ち込んでも当局と談合して報道が見送られるケースが多くなっているという。新聞に掲載されるのはオバマ政権が了承した記事だけだ。

このため、歴史的なスクープとなった機密文書が告発サイト「ウィキリークス」や一匹狼のブロガー、グレン・グリーンウォルド氏に持ち込まれた。

イギリスの法学者ベンサムは18世紀末、監獄「パノプティコン(一望監視施設)」を設計した。パノプティコンは中央に監視塔を設け、その周囲に円状の独房を並べる構造だ。監視塔からは光線が発せられるため、囚人からはまぶしくて監視者は見えない仕組みになっている。

パノプティコン (Foucault, 1975, p.21)
パノプティコン (Foucault, 1975, p.21)

監視者がいてもいなくても、囚人は常に監視者を意識せざるを得ない。このため、監獄の運営は効率的になるといわれる。

監視塔は「権力」という言葉に置き換えられる。マスコミは昔、外側からこの監視塔に厳しい目を光らせていたが、いつの間にか監視塔の内側に入って「権力」と一緒に市民を監視する存在になってしまった。

インターネットやソーシャルメディアの発達で、市民が逆に監視塔を監視する「逆パノプティコン社会」が実現しつつある。市民にとってマスコミはもう「味方」ではない。監視塔の中にいる「敵」なのだ。マスコミを一括りに語るのは危険だが、多くの読者はそう思っている。

市民の側に立つのか、権力に寄り添うのか。弱者の味方か、強者に着くのか。「パノプティコン報道」に読者は辟易している。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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