ECBの新政策で膨らむ国債バブル
7月4日に3か月物国庫短期証券(TDB)が買い進まれ、ゼロ%で取引が成立した。新発3か月物がゼロ%で取引が成立するのは、2005年11月29日以来だとか。ただし、これは前日の入札なども影響したショートカバー的な動きとみられ、何か材料が出たわけではない。たまたまそうなってしまったといったところか。
これに対して4日にドイツの1年物の利回りがマイナスになったことには材料というか理由があった。この日はドイツだけでなく、ユーロ圏の国債の多くは買い進まれており、スペインの2年債利回りや、アイルランドの10年債利回りは過去最低を記録していた。
7月3日のECB政策理事会で金融政策は現状維持となったが、新たな長期資金供給オペ(TLTRO)の詳細などが公表された。融資促進に目的を絞ったTLTROではあるが、その総額は計1兆ユーロに達する可能性があるとドラギ総裁は述べていることに加え、一部資金を国債購入に使うことができる。どうやらこのあたりが欧州の債券市場で材料視されたものとみられる。
TLTROの期間は4年であるが、2年後に銀行の融資状況が調査されるため、実質2年となる。TLTROで想定される金利は0.25%であり、この資金で国債を購入できたとしても、期間2年程度まで、しかも利回りが0.25%を上回るとなれば、一部周辺国の国債に限られる。銀行は現在、通常のオペにおいてリファイナンス金利の0.15%で資金を借り入れることも可能であり、それほど今回のTLTROにより、国債を買うインセンティブが強まるようには思えない。それでも大量の資金が新たに供給されることは確かであり、それにより欧州の国債がさらに買い進まれたという図式か。
国債利回りの低下も加わり企業の資金調達が容易になることは確か。もちろんTLTROを通じて銀行からの融資を受ける事も可能となるが、低金利での資金調達の環境が整備されても、借り入れ需要が伸びない限り意味はない。金利だけが低下するという、これは過去の日本で経験していたことの繰り返しとなってしまいかねない。
いやいや、日銀の異次元緩和のように思い切った緩和策を採れば、企業の設備投資などが伸びる。現実に7月1日発表の日銀短観では設備投資計画が予想以上に伸びており、これぞ異次元緩和の効果、と短絡的に判断できるものではない。異次元緩和により期待に働きかける効果については疑問が残り、アベノミクスの登場はいろいろな意味でタイミングが良かった。政権交代に円安・株高、欧州リスク後退に東京五輪効果等が相まってのものと考えられる。
ECBの新たな資金供給策の発表で、ユーロ圏の国債は再び買い進まれているが、この風景は2003年6月の日本の債券市場も連想させる。日銀の量的緩和政策で安心して国債が買えるとばかり、超長期債の利回りまで1%を割り込んだ結果、VARショックと呼ばれた国債価格の急落を招いた。欧州の国債市場のバブルは膨らみ続けている。もしここで欧州の国債バブルが崩壊した場合に、気が付けば長期金利が0.6%を割り込んでいる日本国債も無傷ではいられないかもしれない。