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創業6年、累計8,000万円を寄付する古本屋さん

工藤啓認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長

多額の寄付と聞くと、大企業による特別な行為だと考える。時折、グローバル企業のCEOが何十億円も大学に寄付したというニュースも耳にする。

日本ファンドレイジング協会が発行する「寄付白書2012」では、そのサマリーのなかで日本の寄付市場を以下のように説明している。

(引用)

2011 年の個人寄付 は 5,182 億円、2010 年度の法人寄付は 6,957 億円、日本人の年間寄付総額(震災以外)は 5,182 億円である。これは 2011 年の日本の 15歳以上人口の約 29.4%となる。 日本の企業の年間寄付総額は、6,957 億円(2010 年度)で、法人所得に占める割合は 2.1%に至る。寄付 金支出法人数は総法人数の 17.0%である。

(引用終わり)

寄付白書を読む限り、寄付は企業だけが出しているものではなく、むしろ、企業と近い金額を個人が出しており、15歳以上人口であれば3人に1人である。しかも、この数字には、東日本大震災分は入っていない。

そんな寄付市場のなかで、創業6年ながら累計約8,000万円以上をNPO、大学、自治体に寄付している「本屋さん」がある。株式会社バリューブックス(長野県上田市)だ。

バリューブックス社は、書籍を買い取り、その買取金額をカスタマーに支払う。仕入れた書籍ネット経由で販売している。古本屋さんとしては一般的な商いであるが、なぜ、累計約8,000万円円にのぼる寄付を実現できているのか。

その仕組みはシンプルだ。カスタマーがバリュー社に電話をすれば、希望日時/場所に宅配業者が伺う。そこで古書を引き取り、通常の査定プロセスにのせる。本来であれば買取金額をカスタマーに支払うが、そのカスタマーは買取代金を受け取るのではなく、指定するNPO、大学、自治体に寄付することができる。

同社は2010年より、この仕組みを動かし始めた。当初は16NPO1大学とパートナーシップを結んでいたが、2013年11月現在で66NPO、18大学、2自治体と提携している。

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※株式会社バリューブックス社提供データ

2010年では、この仕組みを活用したカスタマーは1,005件。総冊数は72,811冊、合計寄付金額は2,172,788円であった。カスタマー平均年齢は61.4歳、女性比率が65%であった。

それが、2013年(11月現在)には、15,298件、1,799,245冊を預かり、35,314,472円を寄付としてNPOなどに渡している。平均年齢は50.7歳と10ポイント以上若くなった。女性比率は61%と、若干、男性のカスタマーが増加している。

同社の取り組み/仕組みは多様面から評価されているようだ。特に、恒常的に寄付を集めたいと考えているNPOや大学では、「現金で寄付していただく」だけではなく、「自宅の書籍」の寄付を潜在寄付者にお願いができると共に、現物ではなく寄付(現金)として受け取ることができる。広報と寄付の受け取りの間にあるすべてのプロセスは同社が行う。

上記でも述べたが、同社とパートナーシップを結ぶNPOは66箇所となっており、「チャリボン」というサイトから(一部)寄付先を選択することが可能である。

寄付をお願いするにしても、「現金」をお願いすることにためらいを感じるNPOは多く、また、潜在寄付者としても家計状況によって支出が難しい場合も多々あるだろう。それを自宅や職場の断捨離や廃棄を待っている書籍を活用することができるのだ。

自治体はまだ2つだが、そのひとつは東日本大震災で大きな被害にあった陸前高田市である。陸前高田市では図書館を新たに建設する際の基金を募るため、バリューブックス社と提携をした。「陸前高田市図書館ゆめプロジェクト」では、既に100万冊、17,000,000万円を超える寄付を募っている。

12月15日から1月31日までは、買取金額を20%UPするキャンペーンを実施している。仕事納めではオフィスデスクの整理、年末年始に大掃除や新年を迎えるための整理整頓があると思うが、もし寄付してもよい書籍があれば、この仕組みを活用されてみてはいかがだろうか。

認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長

1977年、東京都生まれ。成城大学中退後、渡米。Bellevue Community Colleage卒業。「すべての若者が社会的所属を獲得し、働くと働き続けるを実現できる社会」を目指し、2004年NPO法人育て上げネット設立、現在に至る。内閣府、厚労省、文科省など委員歴任。著書に『NPOで働く』(東洋経済新報社)、『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『若年無業者白書-その実態と社会経済構造分析』(バリューブックス)『無業社会-働くことができない若者たちの未来』(朝日新書)など。

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