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「護憲/改憲」と「平和と民主主義の維持、周辺事態への適切な対応」のどちらが重要か

西田亮介社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

集団的自衛権を認める閣議決定を今日に控えて、デモも、メディアも盛り上がりを見せている。ニュースによると、午後にも閣議決定が行われるようだ。

憲法解釈変更、午後に閣議決定=集団的自衛権の行使可能に―与党が正式合意(時事通信)- Y!ニュース

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140701-00000034-jij-pol

自分の態度はといえば、とりあえず「消極的護憲派」といったところだろうか。「第2次世界大戦から70年ほどのあいだに、いろいろな懸案事項があったものの、現状は、過去に想定されていたシナリオのなかでは、それほど悪いものではなかったのではないか」と思うからだ。むろんベストシナリオであるとも思わないけれど、バッドシナリオはもっとあったはずだ。分割統治や高度経済成長の失敗が該当するだろうか。それでも、それなりに上手く切り抜けてきたのではないか。

なので、周辺事態とかグレーゾーンとかいろいろ出てきているけれど、改憲せずに乗り切れるならば、その論理と方法を模索したら良いのではないかと考えている。とはいえ、「絶対、改憲するな」という立場でもない。立憲主義や民主主義がきちんと守られ、周辺各国との関係を悪化させず、複雑化した地政学的リスクに対処できるなら、そのような路線も十分ありうると思う。

なぜこのような立場にたどり着くのかを掘り下げると、「護憲/改憲」という方法的な主題よりも、「平和と民主主義の維持、周辺事態への適切な対応」の3点セットに関心があるからだと気づいた。換言すれば、護憲か改憲かに囚われすぎて、平和と民主主義が維持されず、周辺事態への備えができないことを危惧する立場でもある。

護憲/改憲は確かに問題だが、同時に別種のリスクとして、周辺事態やグレーゾーン事態にも現実味を感じる。だからこそ、改憲を通じた「平和と民主主義の維持、周辺事態への適切な対応」と、護憲を通じた「平和と民主主義の維持、周辺事態への適切な対応」の2つの論理を比較して、態度を決めたいと常々思っている。

現政権からは、あまりその論理に合意できないものの、とりあえず(解釈)改憲を通じた「平和と民主主義の維持、周辺事態への適切な対応」の提案がなされた。だとすると、今こそ護憲を通じた「平和と民主主義の維持、周辺事態への適切な対応」の提案が聞きたい。両者を比較して、どちらがよいのか考えたい。ところが、管見の限り、護憲派からは、解釈改憲反対をめぐる発言ばかりで、具体的な論理は提示されていないような気がする(そもそも護憲と脱対米従属というちょっと考え難い政策的な組み合わせが対にされていたりさえする)。

昨日から「奇跡を信じろ」「諦めないことが大事」「冷笑的な態度は何も変えない」という文言を見かけた。しかし、どこにも護憲を通じた「平和と民主主義の維持、周辺事態への適切な対応」の提案は見当たらなかった。仮にこの問題に十分な知識を持たない場合、政権与党のほうが理を尽くそうとしていて、反対派は感情的に反発しているようにさえ見えてしまうかもしれない。

日本の政治は、左も右も超越的なものと情動に覆い尽くされているように見える。確かに政治の前提には非政治的な要素が不可欠だろうが、しかしそのことは政治における論理の不在を容認するものでもないだろう。一連の騒動を眺めながら、改めてその論理の不在こそが、日本政治の宿痾のように思えた。

社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

博士(政策・メディア)。専門は社会学。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授、東京工業大学准教授等を経て2024年日本大学に着任。『メディアと自民党』『情報武装する政治』『コロナ危機の社会学』『ネット選挙』『無業社会』(工藤啓氏と共著)など著書多数。省庁、地方自治体、業界団体等で広報関係の有識者会議等を構成。偽情報対策や放送政策も詳しい。10年以上各種コメンテーターを務める。

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