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ドッジボール ケガの実態から考える

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
高校の体育球技における負傷事故の増加率[2001-2013]

■勝部元気氏による問題提起

5月30日に始まる勝部元気氏(@KTB_genki)のドッジボール批判が、大反響をよんでいる。議論の全体像は、氏のブログ(ドッジボール、学校での強制参加を禁止にするべきでは?)を読むのがよいだろう。

勝部氏のドッジボール批判は、私なりの表現で端的にまとめるならば、「ドッジボールという種目は直接的な身体への攻撃性をともなっている。だから、体育でのドッジボールを選択制にして、心身への外傷を避ける道を用意すべきだ」というものである。

私の見解を先に言うと、勝部氏の問題提起はきわめて重要であるものの、選択制については慎重に考えたいというものである。以下、氏のドッジボール批判を受けて、私なりにデータをくわえながら、ドッジボールのあり方について検討していきたい。

■ドッジボール批判の意義

勝部氏のドッジボール批判のなかで、私がもっとも重要な意義をもっていると思うことは、スポーツのなかに潜む悪意ある暴力を顕在化させた点である。

スポーツはルールに従って健全におこなわれているようで、ときにそこに悪意のある暴力が隠れていることがある。とりわけコンタクト・スポーツ(身体的接触があるスポーツで、ラグビー、アメフト、ボクシング、柔道など)においては、その暴力が見えにくくなる。

武道系のスポーツで、練習と称して、じつはそれが「しごき」であったという例を、私はいくつも聞いたことがある。それと同じことが、ドッジボールでも起きている。ゲームをしているように見えて、悪意のある加害者がボールを力いっぱいに、特定の相手にぶつけているかもしれないということだ。

■悪意のある暴力はその競技種目の問題か

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人気種目のドッジボール。楽しそうなイメージがついてくる。だが、そこに悪意ある暴力が潜んでいることがある。こうした見方が提供されたことの意義は、とても大きい。

しかしながら、勝部氏も同意しているように、悪意ある暴力が生まれやすいからといって、それだけで当の競技種目を否定するのは早計である。悪意ある暴力は、その競技種目の問題ではなく、暴力的な人間関係自体が問題であるからだ。ドッジボールやコンタクト・スポーツを選択制にしても、一時しのぎにしかならない。

■悪意のない暴力をどう扱うか

勝部氏は、悪意のある暴力のみにこだわっているわけではない。悪意のない身体的な攻撃をも、ドッジボールの問題点として指摘する。すなわち、ドッジボールという種目そのものに問題があるということだ。身体的な攻撃がある限りは、選択制にすべきだという議論である。これは、ドッジボールやコンタクト・スポーツの存在意義にまで踏み込む大胆な提言である。

私としては、そこは事故の実態を踏まえながら、慎重に議論を進めるべきだと考える。身体的な攻撃があったとしても、事故件数が少ないようであれば、ドッジボールを選択制にすべき根拠は弱くなるからだ。

■負傷事故の件数――高校で急増

日本スポーツ振興センターのデータを利用して、小中高別に、体育(球技大会を含む)における球技の負傷事故件数を調べて、表のとおりに整理をした。最新の2013年度のデータと、比較のために2001年度のデータも記載した。

球技の負傷事故。ピンク色のセルは2001または2013年度に1000件を超える負傷事故が確認された種目。
球技の負傷事故。ピンク色のセルは2001または2013年度に1000件を超える負傷事故が確認された種目。

小学校の2013年度を例にとると、バスケットボールの10,489件、サッカーの5,527件、ドッジボールが4,772件と続く。各球技に費やされた実際の時間数が不明であるため、明確なことは言えないものの、ドッジボールのケガは、他の球技と比べて突出して多くはないが、少ないというわけでもない。

また2001年と比べると、ドッジボールの負傷件数は、約3分の2にまで減少していて、これはソフトボールに次ぐ高い減少率である。

高校における負傷事故の増加率[2001-2013]。赤線が増減なしライン。
高校における負傷事故の増加率[2001-2013]。赤線が増減なしライン。

その意味でむしろ気がかりなのは、小学校よりも高校のほうである。2001年度から2013年度にかけて、増加率が1.83倍と突出している。なお、負傷2,575件のうち、球技大会が1,006件を占めている。したがって、これは体育の授業の「強制か選択か」の外側の問題である。いずれにせよ、この増加の実態については、いっそうの検証が必要である。

■負傷の部位

負傷の部位をみてみよう。2013年度の小学校で、負傷の多かった5つの球技種目について、部位別の割合をみてみると、ドッジボールには目立った特徴がないことがわかる。ドッジボールでは、顔面をケガしやすいという声も多く聞かれるが、「顔部」をみてみると、ソフトボールやサッカーのほうが、割合が高い。表は省くが、中学校と高校でも同じ傾向が認められる。

小学校の球技における部位別の負傷割合[2013]。
小学校の球技における部位別の負傷割合[2013]。

以上、ドッジボールはたしかに身体への攻撃性をもった球技ではあるものの、概して、現状のデータからはとりわけ危険であるとまで結論できる根拠は見当たらない。選択制に移行すべき強い根拠は、得られない。ただし、高校での実施については、一考すべきと言える。

■実施上の工夫の可能性

ドッジボールが強制参加であるとしても、そこで安全対策を推進することで、身体的な攻撃のインパクトをできるだけ弱めるという検討があってもよいだろう。

たとえば、ボール自体をソフトなものに取り替えればよい。今回の議論で、一つ誤解が起きているように思うことがある。それは、従来の硬いボールのままドッジボールがイメージされているのではないかということである。今日のボールは、以前よりも柔らかい。「スポンジドッジボール」なるものまである。とある高校では、球技大会のボールを柔らかいものに変えただけでケガが一気に減ったと、私は聞いたことがある。

また、頭部や顔への攻撃などに対するより厳しいルールの適用も大切な要素である。

さらには、学校段階や学年も考慮すべきである。今回の議論は、小中高のどの段階のドッジボールが問題なのかが、見えにくい。留意すべきは、今日、高校でもドッジボールが多く取り入れられているということである。小学校ではドッジボールは、基本的には低学年の球技に位置づけられている。それが中学校や高校でもおこなわれているというのだ。

もちろん、中学校や高校の学習指導要領に、ドッジボールの記載はない(小学校は記載あり)。学習指導要領のことは置いておくとしても、さすがに高校生の力でボールを直接相手にぶつけるとなると、かなりの威力がある点は気がかりである。

容易に選択に移行できるならよいのだが、選択制の導入は、現実には諸々の資源の投入や制度設計が必要である。仮に現在のドッジボールのあり方に問題があるのだとすれば、大胆な変革に着手するよりも、今回の問題提起を契機にまずはドッジボールの実施上の工夫をもっと考えてもよいだろう。  

■主観的な認識の問題も

悪意のない攻撃であるとしても、相手が自分に投げたボールが顔面を直撃するのと、ソフトボールで打者が打った球が顔面を直撃するのとでは、前者のほうが相手に対する負の感情は生まれやすいだろう。こうした主観的側面(心理的側面)については、負傷事故のデータは無力である。

この主観的側面に対して、私たちはどのように切り込んでいくべきなのか。「強制か選択か」の議論は射程が広く、まだまだ慎重かつ丁寧な議論が必要である。

[写真の出典]

「写真素材 足成」

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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