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思い込みで『ユニセフ』批判。募金の邪魔する彼らこそが社会悪(訂正あり)

篠原修司ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門

『2ちゃんねる』元管理人、西村博之氏のブログの公開質問状をきっかけとして、先日から『日本ユニセフ』に対して思い込みで誹謗中傷を繰り返すインターネットユーザーが出てきています。

アグネス・チャンさんへの公開質問状 : ひろゆき@オープンSNS

その際たる例が嘘ニュースサイト『虚構新聞』によるユニセフへの悪質な誹謗中傷と、自称弁護士による日本ユニセフへの電凸ツイートまとめです。

虚構新聞デジタル:本紙記事「日本ユニセフ、寄付金の流れ透明化へ」についてご報告

凸)財団法人「日本ユニセフ協会」の「虚構新聞」への言論弾圧について - Togetter

前者の記事は日本ユニセフからの抗議によりすでに削除され、現在は報告のみが閲覧できる状態ですが、虚構新聞の管理人は『Twitter』にて後者のまとめをほかのユーザーに広め、さらに記事を削除したにもかかわらず自身のメルマガにてその誹謗中傷を再度掲載しています。

【第074号】虚構新聞友の会会報:虚構新聞友の会会報:虚構新聞チャンネル(虚構新聞社) - ニコニコチャンネル:社会・言論

ピンハネ表現、過去にも同様の例で個人ブロガーが敗訴

いずれの記事においても、日本ユニセフが募金の一部を活動費としていることを「善意の募金からのピンハネだ」と批判しているのですが、2年前の2011年に同様の表現で批判した個人ブロガーが日本ユニセフに訴えられて負けています。

日本ユニセフ協会との裁判に降伏しました : 止めろ!規制社会・監視国家ブログ版

お詫び : 止めろ!規制社会・監視国家ブログ版

詳しくは上記記事を読めば分かりますが、アラモード北原を名乗る個人ブロガーが日本ユニセフに対し、ネットの情報を鵜呑みにして「寄付金の4分の1もの額をピンハネしている」と誹謗中傷を行ったところ、日本ユニセフに訴えられて慌てて法テラスに駆け込むもどの弁護士にも相手にされなかったり説教されたりして全面降伏するという流れです。

批判するには不勉強。公開情報すら確認せず

先ほど紹介した自称弁護士による電凸にもあったのですが、「寄付金の25%を経費としてピンハネしている」などと事実と反することを主張して問い詰めようとするのは不勉強すぎます。

たしかに、ユニセフ本部は各ユニセフに対して募金の最大25%までの範囲内で活動費をまかなうよう要請していますが、日本ユニセフの2012年度の活動費は約19%に抑えられています。

これは、日本ユニセフがインターネットで公開している収支報告概要を見れば誰でも分かることです。最大値の25%をピンハネしているなど真っ赤な嘘で、ネットの書き込みだけを見て自分では何も調べていないのが丸分かりです。

ユニセフと日本ユニセフ協会の収支・活動報告 | 日本ユニセフ協会

誹謗中傷に対応するコストの源泉は募金

こうしたネットの情報を鵜呑みにした輩が日本ユニセフに対して抗議の電話をかけ、さらにその結果を鬼の首を取ったかのようにインターネットで公開する。そんなくだらないことへの対応のために、日本ユニセフは労力をかけなければいけないのです。

その労力に必要なお金は善意の募金から出されるわけです。放置しておけば次の批判者が出てくることは目に見えており、それは明日の募金の芽を潰しかねないからです。

日本ユニセフの活動費が募金からのピンハネだと騒ぐのを止めることはできませんが、その行為こそが募金を目減りさせる悪だということに気付いて欲しいものです。

表現規制への抗議とユニセフの募金活動への抗議を混ぜるな

一連のネット上での日本ユニセフへの抗議は、日本ユニセフ協会やその大使を務めるアグネス・チャンさんが表現規制を主張していることが大きいです。しかし、それは殴るところが違うことを意味します。

ボク自身、マンガなど非実在青少年への表現規制には反対の立場ですが、それはそれ。これはこれ。アグネスさんらがその思い込みからマンガやゲームなどを規制しようとすることには反対です。しかし、だからといって日本ユニセフがその活動費を募金から出していることを抗議するのはお門違いです。

仮に、日本ユニセフが活動費を使わずに募金を集めたとしたら、今ほどの金額が集まるでしょうか?

個人の口座に送られてきた募金の100%を本部に送っているユニセフ親善大使の黒柳徹子さんが、1984年から行っている募金の総額は現在、約50億円だそうです。

募金総額の報告(2013年10月31日現在)4,984,757,950円(件数376,171)

出典:トットチャンネル/お願いチャンネル

対する日本ユニセフは、2012年度のみで130億円もの募金をユニセフ本部に送金しています。もちろん約31億円が活動費として使われてしまったのですが(つまり募金総額は161億円)、0円の活動費で29年かけて約50億円と、約31億の活動費で1年で130億では、助けられる人にとってどちらが有り難いか。

もちろんどちらも善意から出されたお金です。しかし、同じお金なら多い方がより多くの人を助けられます。仮に日本ユニセフを潰してユニセフ親善大使の黒柳徹子さんからの募金のみにしたとしても、総額が減ることはあっても増えることはないでしょう。

繰り返しますが、表現規制への批判と、募金活動への批判を混ぜないでください。アグネスさんが表現規制を進めたり、霊感商法をしていたことと日本ユニセフの募金活動は別のことです。

アグネス・チャンのパワーストーン 薬事法抵触で表現を削除へ : J-CASTニュース

それでも日本ユニセフが許せないのであれば、これまでの経費の内訳の推移を調べたり情報の開示請求などを行って、自分の頭で考えたうえで行動すれば良いでしょう。ネットの情報を鵜呑みにして暴走したあげく、訴えられて全面謝罪とかアホのすることですよ。

訂正

当初、日本ユニセフが表現規制活動を全く行っていないと読ませる文章であったため、募金活動に対して表現規制への抗議から批判するのはおかしいという文章に訂正しました。本来言いたかったのは「表現規制への抗議と募金活動への抗議はべつにしよう」と言うことでした。実力不足で申し訳ありません。精進します。

あと最後の一文も不評なので削除しました(なんでや……)。

ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門

1983年生まれ。福岡県在住。2007年よりフリーランスのライターとして活動中。スマホ、ネットの話題や炎上などが専門。ファクトチェック団体『インファクト』編集員としてデマの検証も行っています。最近はYouTubeでの活動も。執筆や取材の依頼は digimaganet@gmail.com まで

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