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議員による政策的条例提案はわずか0.17%、98.8%の原案がそのまま通過。地方自治から生活を変えろ

高橋亮平日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事
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中学校・高校で「三権分立」などと習った事を思い出すと、議会の役割は「立法府」という事だった。これは法律をつくる場である事を示しており、そのまま地方自治に置き換える事が良いかは別だが、普通に考えれば、地方議会は「条例をつくる場」という事になる。こうした事から、議会の大きな役割として「政策提案」などと言われて久しいが、実際には、全体の90.2%は市長提案であり、議員提案はわずか9.8%に過ぎない。市長提案と言っても、政治家である市長が議案を作っているという事はほぼ皆無であり、実際にはほとんどの議案を市の職員が作っているというのが実態である。こうした実態は、決して地方議会だけの話ではなく、国でも同じ様な構造になっている。

数少ない議員提案の60.3%は国等に対して要望の文章を出すだけの「意見書」であり、条例案はわずか12.9%しかない。その条例案のうち政策提案はさらに13.3%しかなく、議案全体からするとわずか0.17%しかないのだ。

こうした指摘をすると、年配の地方議員などは必ず、「議会の役割は政策提案だけではない」と言う。総理が国会議員から選ばれる国政と異なり、市長も議員も選挙によって選ばれる地方自治現場では、「行政と議会は車の両輪である」とも言われる事も多く、議会側からの提案だけでなく、行政をチェックする事もまた議会の重要な役割だとされているからだ。

そこで、地方議会の「行政チェック」の実態を調べるため、市長提出による議案の議決態様について見てみると、議会によって修正されて可決した割合は、わずか0.4%しかなく、全体の98.8%は、市長提案を原案そのままで可決しているのだ。何でも反対すればいいという事ではもちろんなく、市長提案の中で、良いものは、そのまま原案可決すればいい。しかし、98.8%もがそのまま原案可決している状況では、議会の「行政チェック機能」とは、どういうものかと考えさせられる。

昨今、地方議会においては、自治体の憲法とも言われる自治基本条例の制定に続いて、議会基本条例の制定がトレンドとなっている。この間、議会基本条例を制定する市は、全国で158市まで増え、議会に関する規定を含む自治基本条例(まちづくり基本条例)を制定している市は150市、議会に関する規定を含まないものも含めれば自治基本条例(まちづくり基本条例)を制定している市は188市に及ぶ。

こうした流れは、議会の活性化と共に、地方自治のガバナンスを機能するようにするにためのものであるべきものであり、こうした事を考えれば、議会活動は、この間に、活性化してきているものだと思っていたが、地方議会の「政策提案機能」や「行政チェック機能」は、必ずしも改善されてきていないようだ。

その一つの象徴が、議員提出の議案数である。全国の自治体平均による一自治体あたりの議員提出数は、2002年は19.0件だったものが、16.2件、19.2件、16.5件、14.4件、16.2件、15.3件、12.9件、13.8件、2011年には11.6件とほぼ横ばいではあるものの右肩下がりの傾向にあるのだ。市長提出議案の原案可決率についても、2002年に99.2%だったものが、98.9%、98.9%、98.8%、99.1%、99.1%、99.2%、99.1%、99.2%、2011年は98.8%と、ほぼ横ばいのままだ。議員の質問者数についても、議員の個人質問の一自治体あたりの平均年間述べ人数が、2002年に44人だったものが、46人、48人、47人だったものが、2006年に53.4人になったものの、その後は51.7人、51.4人、50.3人、50.6人、2011年には50.4人と、残念ながら質問者数についても減少傾向にある。

ただ、中には改善傾向にあるものもある。その一つが、議員による政策的条例提案率である。2002年に0.15%だった後、0.10%、0.10%、0.07%、0.09%、0.08%と下がり傾向にあったが、2009年以降は0.09%、0.11%、0.14%、0.17%と右肩上がりに上がっており、議員の政策提案の意識が高まってきている事が伺える。しかし、残念ながら市民が「議会が機能している」と感じるレベルには、まだまだほど遠いと言える。

こうした事を書くと、「地方議会はレベルが低い」といった単純な誤解や、「だから地方議会はいらない」、「地方議員の報酬を減らそう」等とステレオタイプに考える単純な人も多いが、むしろこうした発想は、問題の本質を見失う可能性が高いどころか、より本質的な問題が悪化する可能性がある。

地方議会については、地方議員や行政職員すらも誤解している人が多く、ましては、市民の皆さんにとっては、「地方自治が自分たちの生活に関わっている」という認識すらないのではないか。しかし、よくよく考えてみると、高齢者の介護の現場も、保育所など子育て現場や教育現場、道路や公園にいたるまで、実は、多くの方が日々の生活の中で「どうにかならないものか」と感じているものの多くは、地方自治現場で決められている。メディアで取り上げられる事はあまりないが、こうして皆さんが関心を持たない事をいい事に、特定の人たちの既得権が守られているという事さえある。言い換えれば、皆さんが関心を持たない事で、間接的に皆さんが損している事も数多くあるという事だ。

国政においては、総理を選ぶ投票ができるのは国会議員に限られるが、地方自治体では、国政と異なり、市長も議員も選挙によって選出される二元代表制をとっている。法的には首長と議会それぞれにほぼ同等ともいえる権限が与えられてもいる。地方議会関係者さえ、「地方議会は、国会の地方版」などと思っている人が多いが、実際には国会と地方議会では、その役割は大きく異なる。

国会が「国権の唯一の立法機関」(憲法41条)である事は、多くの人に知られているが、地方議会は会合して相談する「議事機関」(憲法93条1項)としてしか定められていない。同様に、国会は「全国民を代表する選挙された議員」(憲法43条)で構成され、「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動」「その権力は国民の代表者がこれを行使」(憲法前文)とされているが、地方議会は「住民が直接、これを選挙する」(憲法93条2項)と住民の権利しか明記されておらず、特別法の制定についてなどは、「住民の投票においてその過半数の同意を得なければ」(憲法95条)と住民が直接行使する事が位置づけられているほか、住民の直接請求に基づく住民投票で議員・首長のリコール、議会の解散(地方自治法76条等)なども住民の権利として認められている。

こうした事からも分かるように、地方自治体におけるガバナンスは、国政と異なり、議会・行政・市民との3者のバランスにより成り立つ事が、本来より想定されているのだ。

「地方自治は民主主義の学校」とも言われるが、こうした事から考えても、自分たちの街や生活を役所や政治家に依存するのではなく、自らが主体的にどうしたいのかと関わっていく事が、本来想定されているとも言える。しかし、実際には、日々の生活や仕事に終われ、地域の問題に関わろうと思っても時間もなければ、方法も分からないという人も多いだろう。そんな中で、せめて自分たちが関わる事が求められている事を認識しながら、行政や議会、議員を監視する事で、健全なガバナンスを生み出す必要があるのではないかと思う。

先の参議院選挙を前に、国会議員の活動データを集積する会として、国会議員の質問回数や議員立法発議数、質問趣意書提出数などの活動データの集積と、ランンキングによる講評を行った。また、質問の中身の評価についても、政策監視会議として、国会議員の通信簿と題して国会議員の質問力を同僚の国会議員、官僚、有識者といった多角的な視点から評価を行った。こうした政府や議会への監視機構的な役割を持つ仕組みが必要と、田原総一朗さんを会長に、特定非営利活動法人 万年野党をつくった。

こうした民主主義の質の向上を目指すための仕組みが必要なのは、言うまでも国政だけの問題ではない。

今回提示した、地方議会の現状なども踏まえ、地方自治体における行政や議会の監視的な仕組みを構築していく事、またこうした仕組みを作る事によって、とくに地方議会や地方儀委員の質が高まる仕組みも同時に考えていかなければならない。

自分自身、26歳で地方議員になり、34歳で部長職として行政職員も経験した。組織の中には、現状を何とか変えていかなければならないという想いや志を持ったものたちもいる。しかし一方で、これまで長年続けてきた仕組みや組織は、なかなか簡単には変わらない。こうした地方自治のガバナンスの仕組みを変えるためには、「議会の常識」や「役所の常識」といったこれまでの限られた人たちの中での常識から、乖離してしまいつつある「市民の常識」で判断されるようになる様なパラダイムシフトが必要である。そのためにもまず、企業がマーケットの中で市場原理で淘汰されていくように、特定の人たちしか関わらないという力学から、多くの市民による監視の中で淘汰されていく仕組みを作っていく必要がある。

自分自身も、こうした自治体のガバナンスにおいても、市民の総意による市場原理が働く仕掛けや、さらにはその先にある集合知による新しいガバナンスの仕組みを創っていきたいと思っているが、ぜひ、本文を読んでくれた方の中から、自らの街や自治に関心を持ち、まず、インターネットで調べることからでも始めてもらう事に繋がればと思う。

こうした事を意識しながら、今夜もWeb上で無料公開講義『「地方自治は、民主主義の学校!」地方自治から社会参加を考える』を行う。これまで政治に関心を持たなかった層にこそ、こういったものも活用してもらいたいと思うし、周りの方にも是非紹介してもらいたい。

北京での1羽の蝶の羽ばたきが、蝶たちの羽ばたきを呼び、ニューヨークでタイフーンを起こすという例えを「北京の蝶々」などと言うが、自治体の一人ひとりの監視の強化から、次世代のガバナンスを生みたいと思う。

日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事

元 中央大学特任准教授。一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、神奈川県DX推進アドバイザー、事業創造大学院大学国際公共政策研究所研究員。26歳で市川市議、全国若手市議会議員の会会長、34歳で松戸市部長職、東京財団研究員、千葉市アドバイザー、内閣府事業の有識者委員、NPO法人万年野党事務局長、株式会社政策工房研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員等を歴任。AERA「日本を立て直す100人」に選ばれた他、テレビ朝日「朝まで生テレビ!」等多数メディアに出演。著書に『世代間格差ってなんだ』(PHP新書)、『20歳からの社会科』(日経プレミアシリーズ)、『18歳が政治を変える!』(現代人文社)ほか。

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