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日本フィギュア惨敗の真因は、スケート連盟とマスコミの商業主義

山田順作家、ジャーナリスト

日本中がソチ五輪の女子フュギュアの惨敗にショックを受けている。しかし、これは起こるべくして起こった惨敗であり、選手にとっては取り返しのつかない悲劇だ。私はスケートには詳しくない。単なるファンの域を出ないが、この惨敗がスケート連盟の商業主義とメディアの愚にもつかないお祭り報道によって引き起こされたぐらいはわかる。

ショートプログラムが終わってすぐ、友人の松井政就くん(作家)から、次のようなメールが来た。

《山田さん、前回の講演会後に、ぼくが言っていたことが起きてしまいました (涙)。日本女子シングル、悪夢の大惨敗です。しかも全員が今期ワーストでした。「大事な個人戦の前に団体戦に出ること」が、選手にとってどれだけ最悪かというのは、フィギュアに少しでも詳しければ誰だってわかることです。つまり スケ-ト連盟がそれを知らないわけがないのに、あたかも日本が団体戦で勝てるかのような情報を流してきた結果がこれです。

ボクはツイッターで2年にわたって「団体戦は日本は欠場すべき」と繰り返し主張してきました。上位3ヶ国(ロシア、カナダ、アメリカ)と日本とのペアとダンスの能力差がいかに大きく、勝ち目のない団体戦に、個人戦でメダル可能な男女シングル選手をつぎ込む恐ろしさを説明していたのですが、そんな昨年暮れ、 何者かによってアカウントを乗っ取られ、閉鎖に追い込まれてしまいました。

それくらい、世の中では間違った情報が信じられ、本当のことを言えない雰囲気 になってしまっていました。

1月に山田さんに、「日本人選手だけでなく他国選手も含め、団体戦に出た選手は全滅の可能性がある」と話しましたが、その悪夢が本当になってしまい、とても残念でなりません……。

プルシェンコは故障で棄権、羽生とパトリック・チャンは自己ベストからほど遠い相対的な金と銀。ロシア紙が「勝者なき勝利」と酷評した通りです。リプニツカヤも転倒、浅田選手も鈴木選手も重大なパンクです。これほどの名選手が揃って考えられないミスを犯したり故障するというのは、本人のせいではなく、団体戦による心身両面の疲労とダメージと考えることが最も理にかなっています。

でも村上選手は団体戦に出てないじゃないかと言われそうですが、彼女は前月の4大陸選手権に人数合わせで出させられていました。

これまで30年以上もフィギュアスケートを応援してきて、こんなに残念で、悲し く、無力な思いをしたのは初めてです。日本男女シングルは、スポンサーとスケート連盟に潰されたも同然です。選手は被害者です。犠牲になった選手がかわ いそうでなりません(涙)》

今回のソチ五輪で初めて行われた団体戦の元になったのは、2009年4月に東京で行われた国別対抗戦だ。スピードスケート出身のイタリア人、76歳という高齢のチンクワンタ国際スケート連盟会長は、かねてからフィギュアの大会に客が入らないことに頭を痛めていた。当時は、世界選手権でも客席はガラガラ。とくにショートプログラムなどはひどかった。

そこで、浅田真央選手らの人気選手が出て、世界でいちばん客が入るようになった日本に目をつけて、スポンサーを巻き込み、団体戦なるものを考え出したのである。

団体戦ができれば、日本もペアを強化する。そうすれば、スポンサーもつくし、個人戦と同じようにテレビの放映権料も入る。とくに、日本のテレビ局は視聴率が取れればすぐにカネを出すと、ソロバンをはじいたのだ。

これに日本スケート連盟ものり、テレビ局もスポーツマスコミものった。

チンクワンタ会長の理屈は、「スピードにもショートトラックにも団体戦がある。なぜフィギュアにあっていけないのか」というものだった。この理屈をなんと国際オリンピック委員会が認め、2011年7月の国際オリンピック委員会総会で五輪での正式種目に採用してしまった。

考えてみれば、フィギュアの団体戦というのはスピードスケートとは決定的に違う。

スピードスケートの団体戦の場合、メンバーは全員同時にリンクの上で滑る。つまり、リレーになっていて、滑るときはライバルチームと競り合うことになる。しかし、フィギュアの場合、選手個人の演技は別々に行われ、その点数で順位がつくというだけだ。つまり、個人戦の寄せ集めである。ということは、選手にとっては個人戦を2回やるだけとなる。しかし、団体戦はあくまで国のためだから、精神的なプレッシャーも大きい。

また、選手にとっていちばん恐いのが、体力の消耗であり、調子が維持できるかどうか?だ。 先の飲み会で、松井君はこのことを強調していた。「フィギュアを全力で滑るということは大変なことなんです。1週間ぐらいでは回復しませんよ。以前世界選手権から2週間後に国別対抗戦が行われましたが、コストナーやレオノワにミスが続出でした。今回はもっと短いですから、団体戦に出たら持ちませんよ」

国際スケート連盟は、この点を考慮して次回の平昌五輪では、団体戦を個人戦の後に持ってくるそうだが、日本フィギュア陣が惨敗したいまとなっては、後の祭りだ。

今回の惨敗の原因をマスコミはどのように報道するのだろうか?

このような問題をほとんど指摘もせず、自分たちが「メダル確実」と煽ったことをすっかり忘れ、選手のメンタルの問題、会場のコンディションの問題、あるいはオリンピックという独特の雰囲気の問題にすり替えるなら、選手たちが本当にかわいそうだ。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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