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「映画館のポップコーン」はなぜ高くても売れるのか?

横山信弘経営コラムニスト

「アナと雪の女王」の大ヒットでポップコーンの消費量が増える?

「アナと雪の女王」の興行成績が200億円を突破するほど大ヒットしています。これまで日本国内の興行ランキングで3位を守ってきた「ハリー・ポッターと賢者の石」を抜くのは確実で、262億円の「タイタニック」も射程圏内に入るかもしれません。(1位は304億円の「千と千尋の神隠し」)「アナと雪の女王」の影響もあり、今年は映画館へ足を運ぶ人が以前と比べてとても増えているようです。

さて映画館と聞くと、私はすぐに「ポップコーン」を思い出します。経営コンサルタントの立場からすると、ポップコーンは企業側にとって、すごく理にかなった商材だからです。

映画館で販売している「ポップコーン」のお値段は、かなり高額です。一番小さいサイズでも300円。大きいサイズだと500円ぐらいします。ポップコーンを購入すると、同時に飲み物も欲しくなります。ドリンクは300円前後が相場で、ポップコーンと一緒に購入すると、600~800円程度の出費を覚悟しなければなりません。それでも行列ができるほど売れます。

ポップコーンは、トウモロコシの種を炒りつづけることで種皮が弾け、スポンジ状に膨張した食べ物です。この膨張率は20~30倍と言われており、かなり小さなものが大きくなる食べ物です。コーラやオレンジジュース、アイスコーヒー等のドリンクも、原液を5~6倍に薄めて飲むもの。体積が小さいもの、重量が軽いものは運搬に有利で、コストが嵩みません。小さなものを現場で膨らませて大きくし、高い金額で販売するわけですから、利益率がとても高い。素晴らしい商材です。

映画館でポップコーンが売れる理由は「文脈効果」

「文脈効果」という言葉があります。マーケティングにおける「文脈効果」とは、商品が同じでも、見せ方や周囲の環境によって、商品の価値が変動する心理効果を言います。海の家へ行けばラーメンが食べたくなり、コンサート会場へ行けばパンフレットを買い、観光地へ行けばお土産が欲しくなる。多かれ少なかれ、こういう経験は誰にでもあることでしょう。前後の刺激の影響で、対象となる刺激の知覚が変化するのです。

●●へ行くと、ついつい▲▲▲をしたくなる

という心理現象といえばわかりやすいでしょうか。

経営コンサルタントの視点で考えると、とても興味深いことです。消費者が、以前から欲しいと考えたこともないのに、何らかのキッカケによって、お金を支払ってでも入手したいと思わせられるということは。しかも実際は必要ないどころか、通常よりも高額になっても気持ちよくお金を払い、さらに「買って良かった」と満足してもらえるなら、こんなにいいことはありません。お客様側も、企業側も、ハッピーな気持ちになります。

「文脈効果」は必ず、誰か「人」による影響が強くかかわっています。親や友人といった特定の人物によるものではなく、大勢の人の影響です。私は銭湯へ行くと、なぜか「コーヒー牛乳」を飲みたくなります。しかも牛乳瓶に入っているコーヒー牛乳でないといけません。なぜそのような気分になるかは、わからず、何となく、そうなるのです。妻とは年齢が離れているせいか、「なんでそんなものを飲みたくなるのか、まったく理解できない」と言われます。子どもたちも、私が銭湯でコーヒー牛乳を飲んでいると不思議そうな目で見ます。普段は「コーヒー牛乳」なんてほとんど飲まないのに、銭湯に来るたびに飲むなんて理解しがたいのでしょう。しかし私と同世代(1969年生まれ)の人だと、「わかるわかる」「普通、飲むよ。コーヒー牛乳」「私はフルーツ牛乳かな」と言ってくれる人がいます。(もちろん共感してくれない人もいます)幼いころ、大勢の人が作りだした価値観に「感化」されたことが原因です。理屈などありません。私たちの世代の「普通そういうものでしょ」というものがあり、それが購買欲を煽るのです。これを「集団同調性バイアス」と呼びます。

「映画館でポップコーン」も同じ構図です。「映画館に行ったらポップコーンでしょ」と多くの人が言い、実際にその姿を何度も目にすると「感化」されていきます。そして同調性の高い人ほど、購買欲が高まってしまいます。多少値段が高くても手に入れたいという衝動を抑えることができません。購入した理由はいたってシンプル。「映画館に行ったらポップコーンでしょ」なのです。

マーケティングの観点から「空気」の存在は無視できない

営業・マーケティングを考えるとき、チラシやポップ、ホームページをどう作るかも重要ですが、人が作り出す「空気」を無視してはいけません。「アナと雪の女王」が大ヒットしたように、多くの人の支持を集めると「私も観にいかないと」と思ってしまうものです。観ないと話についていけないとか、そういう理屈ではなく、何となく「観にいかなくちゃいけないような空気」が世間で出来上がってしまったからなのです。「どうして『雪アナ』を観にいくの?」と質問され、「どうしてって……。普通、観るでしょ」と答える人がいたら、完全に「空気」に感化されている証拠です。

世間や集団の空気に影響を受けるかどうか、人に感化されるかどうかは、その人次第です。同調性の低い人にとっては、理屈で物事を考えるでしょうから「なんでそうなるのか意味がわからない」「私だったら、たとえ流行していようが興味のない映画は観ない」と冷静に判断します。しかし企業側からすると、このようにお客様を動かす「空気」の存在は無視できないものです。何しろ「空気」の力で、普段は売れないものが、高額にしてもなお売れるかもしれないからです。

※参考図書:「空気」で人を動かす

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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